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奈落の男  作者: HYG
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奈落の男13

 平日の夕方、人通りはあいも変わらずだった。これが後数時間程経つと飲食店や風俗店以外の殆どの店は閉店してしまう。秋葉原の夜は早く訪れる。変質的なテッキーや、ナードや、ギークや、ヘンタイオタク達は、今日の収穫を確認する為に早々に自分達のねぐらへと帰っていくからだ。

『早く帰ろうよ』洋子が雅臣を促す。

『何だ、いつもより元気が無いな』雅臣は洋子が秋葉原と言う場所を好いていない事を改めて理解した。そして、それを疑問に思っていた。秋葉原が好きではないと言う事は、洋子はそれ程にハッカーとして傾向していないのではないか。いや、そう決め付けてしまうのは早計か……

『で、その早く帰ろうは、俺にやって欲しい事、って事で良いのか?』

『良い訳無いでしょ!』洋子のアバターが怒り出す。『第一、あたしの事を神田みたいなヤツに教えるって言う条件に応じるなんて、せんせー酷すぎ』

『しかし、あの場であの提案は飲まざるを得んだろう』雅臣は弁明する。

『せんせーは、ああ言った連中の酷さが分らないからそんな事が言えるのよ』

『酷いのは分るよ』

『いいや、分って無いよ! あいつら、追跡プログラムで追い掛け回してくるんだから。ストーカーだよ、ネットストーカー!』

 雅臣は辟易した様子で説明する洋子のアバターを見ると微笑ましかった。普段万能を自慢している洋子だが、苦手としている物がある事に何処か人間臭さを感じたからだ。

『ところで、話を戻すけど、せんせーはあたしの為に何をしてくれるのかなー?』

『俺が、出来る範囲の事だぞ。無茶な要求は無しだ』

『分かった』洋子のアバターが考える。『よーし、決めた』

『よし、言ってみろ』

『あたしと出掛けよう!』

『何処へ?』

 洋子のアバターは微笑んだ。『フロリダのマイアミビーチ』

『はぁ?』雅臣は呆気に取られた。

『せんせーに出来る範囲のお願いだと思うんだけどなー。あー、もちろん費用はせんせー持ちだよ』

 洋子のこの発言は雅臣の理解の範囲を超えていた。一体全体、どう言う意味なのか? ひょっとして何かの暗号なのか?

『ごめん、俺にはよく理解出来ないんだが。それは、お前と俺が一緒にアメリカのフロリダまで出掛けるって事か?』

『だから、そう言ってるジャン。ちゃんと聞いてる?』

『それは、俺が一人でアメリカのフロリダまで行くって事か?』

『だーかーらー、二人で出掛けよう、って言ってるでしょ!』

『……』雅臣は洋子が本気かどうかが理解出来なかった。そして洋子の要求を理解するのに時間がかかると思った。

『分かった。それで良いよ、もう。お前と俺とでアメリカのフロリダのマイアミビーチに行く、これで良いんだな?』

『そうそう、それでいいのだ!』洋子のアバターが雅臣の視界内をはしゃぎまわりながら消えていった。どうやら洋子は満足して何処かへ行ってしまったらしい。

『……で、どうすれば良いんだ? 俺は……』

 雅臣は、今日は精神的な疲労を強く感じた。

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