8話・世界の事情
襲撃を受けてから1週間が経った。
幸いにも襲撃の死者は18名、目立った被害は街の出入り口にある関所の門だけだったためその後の修復はすぐさま執り行われた。
街の修復に比例し、昼間の街の街道は人の波で溢れマリアの営むバーもより一層忙しさを増していた。
「いーぶぅーッ?
3番テーブルのナポリタン上がったよー!」
「了解しました、座席No.3にナポリタンを輸送します」
「ってマスターなんか焦げ臭いぞ⁉︎」
「あッ‼︎しまった‼︎」
ブラキの街は襲撃の気配を感じさせないほどの活気に戻っている。
それは昼下がりのこの店の忙しさにもよく現れていた。
やっとの思いでピークを乗り切り、3人はクタクタの様子でリビングのテーブルへとヘタリ込む
「はぁーっ‼︎
しっかし、あれから1週間もたつのに帝都も何の音沙汰もなし。一歩間違えばこの街無くなってたかもしれないってのにねぇ?」
「そうだね…帝国の兵士に伝令を飛ばしてもらった筈だからそろそろ状況を、確認しに帝都から使者が来てもいい頃合いのはずだ…」
事件後、直ぐにブラキに駐在していた少数の帝国兵のうち数名が帝都へ伝令として出向き被害と対応の要請を頼みに行ったが、それからすでに1週間が経っていたのだ。
国の対応にしてはやけに遅いだろう。
「…もしかしたら"国境"の機人部隊の様子を見に行って遅れているのかな?」
「まあ確かに、この街までベガンの兵士が攻めてくるなら何処かの戦線が崩壊してるかもしれないしねぇ?」
そう言う議論をしている所に、イヴが割り行って話を始めた。
「マリアさん、疑問があります…」
「ん?なんだいイヴ?
私に答えられるなら答えるよ?」
「はい、この国はシリシア帝国…
私の様な"機人"を使い戦争を戦い抜いている国…と言うのはここ数日の勉強で学びました…
ですが、この街で私の様な"機人"に出逢わないのは何故ですか?」
もっともな疑問だろう。
ここ、シリシア帝国領の中でも端に位置するブラキの街は隣接国のベガンとの争いがいつ起きるかもわかったものじゃないはずだ。
それなのに、国防の要とも言える機人は一機も見かけない。
「あぁ、それはね
いいかいイヴ?この世界には大きな国が3つあるのは理解できてるだろう?」
マリアの問いにイヴは頷いて返す。
「うんうん、そして今私達がいるブラキが隣国のベガン国に1番近い街だ。
でも実際に言ったら国境との間は数千キロ空いていて、その間にあるウィーヴィル草原は戦争地帯になっているんだよ」
「そうそう、だから実際にここまでベガンの兵士がやってくるなんてことはその戦線を支えている機人と"2つ名持ち"の何処かに穴が空いたって事しかありえないんだよ」
「2つ名持ち…インプットされたデータにあった、帝国の超弩級戦闘力異能者部隊…」
「そう、僕が帝国で働いていた頃に有名だったのは"黒血の騎士"、"水龍の巫女"、"紫雷の魔槍"かな?
他にも数人いて、合計12人居るんだ
その内、さっきの3人が草原の守護を任されていたはずだよ?」
「ではその3人の内の誰かが?」
「いや、それは無いんじゃないか?
さっきも言ったけど機人も参戦して居るから、多分機人を倒した猛者がその中に居たんだろうかね」
「…だから、この間から武装した人が?」
イヴは小窓から外を覗きながらそう質問した。
ベガンの兵士が攻めて来たからと言うもの、街にはただの商人や街の人々だけではなく武器を装備した騎士や僧侶、"冒険者"という職業の人物達が歩いて居るのだ。
「そうだねぇ、あれは"冒険者"って言うんだよ
国籍を捨て、国の隔たりを無くして旅をしながら戦争に参加して飯を食ってる奴らさ。」
「ですが、戦争をしている今なら国境を越えるのは無理では…?」
「あー、それは"ギルド"って言う3国とは別の国みたいな組織があってね
そこに所属すると"ギルド通行証"ってものがもらえるんだよ。それを見せながらなら国境の兵士も手は出さないんだよ」
「便利なものなのですね…ですがそれを利用して攻め込んだり出来るのでは?」
「そりゃ無理だね、ギルド通行証は特殊な魔力を込めてあるから偽造も出来ないし、何より国に入った時点で"通行証の呪い"でその国の人間に攻撃できなくなるんだよ」
「なるほど…私以外の機人…」
イヴはそう呟くと再び小窓から空を見上げた。
〜ウーヴィル戦線〜
「ブラキに武装したベガン兵…?」
「ハッ!そう報告が上がって居ますが…」
前線の駐屯地、軍の総力の集まっている場所で現場を仕切っている"黒い鎧の男"にシリシアの伝令兵がそう告げる。
「で、ブラキの被害は?」
「それが…何やら"白い髪の女"が1人で次々とベガンの兵士を無力化して行ったようでして…」
「何…白い髪の女が1人で…?
…お前か「白光」?」
男は少しの間沈黙し、考え込むと剣を取り司令部のテントを出て行こうとする。
「おい、プリシラァ‼︎
前線はお前に任せた、俺はブラキへ行く‼︎」
「えぇー⁉︎
面倒ごと私に押し付けて遊びに行くの⁉︎
私も行くー‼︎」
付近の椅子に座って居たプリシラと呼ばれた少女がそう無邪気に呟く。
「2人も抜けて、戦線に穴開けてベガンに進入されました、帝都にも被害出しましたじゃぁ皇帝陛下に顔向けできないだろ?」
「うぐっ…」
「行ってくる!」
そう言い残し、男は早々と馬に跨りブラキへと駆けて行く。
彼の頭上に広がって居た空も、白い機人が目に写した空と同じものだった。