5話・白の機人
マスターと別れて約20分後、アダムは自分の家のドアを勢いよく開け中に入る。
そして、靴も脱がずに地下室へ続くドアの前へ走りそのまま地下へと駆けてゆく。
散乱した室内、ここに入ることは正直もう二度と無いと思っていた。一度見捨てた物に縋り、それを使ってこの状況を打開する、それがアダムが取れる今できる最大の事だった。
「……」
眼前で眠る"者"を見つめ、アダムは今一度思いをはせる。
そして、心の底から沸き立つ言葉を口にした。
「…ごめんな。今まで僕は君にとって失礼な事をしてきたんだよね…。
そう、僕がどう思って君を産んでも…君は"彼女"じゃない…目を覚ましてくれなかったのも当たり前だよな…
だから僕も…君の事を娘としてみるよ…
お母さんと同じ名前の…"娘"として…
僕はね…この街が好きなんだ、君のお母さんやマスター、僕の事を変人だという人もいるけど…それでも僕は…彼女と過ごしたこの街が好きなんだ‼︎
だから…守りたい、お願いだ…
僕に力を貸してくれ…」
『イヴッ‼︎』
アダムは自身の願いを込め起動のスイッチを入れる。
すると、何時ものように轟音を響かせ室内の電灯が激しく点灯し暗転する。
その時だった。
ドンッ‼︎
と言う音とともに地下室のドアが勢いよく開きベガン共和国の独特な鎧を着けた兵士が3人流れ込んでくる。
「なっ…⁉︎」
兵士達は持っていた"長銃"でアダムに狙いを付ける。
「"反逆者"め…死ねッ‼︎」
「うわぁあああっ‼︎」
アダムはその瞬間、死を覚悟し目を閉じた。
しかし、数秒たっても身体に痛みを感じない。
ゆっくりと目を開くと、薄い半透明の膜の様な者がアダムの前に張ってあり弾丸はその膜の前に転がっていた。
「大丈夫ですか?
おはようございます、博士…」
不意に自分の真横から聞こえた懐かしい声に驚き咄嗟に横を振り向く。それは、アダムがこの数年間1番聞きたかった優しい声であり、最も待ち侘びた出来事だった。
「…あぁ。 ありがとう…そして…」
"おはよう…イヴ……!"
彼女は博士に優しく微笑みを返した。