1・起床
とある大陸のとある場所。さらにとある城のとある部屋。
僅かな光が差し込んだ部屋にある大きな寝台に、黒髪の青年と赤髪の少女が眠っていた。少々崩れた体勢で眠る青年の腹に少女の頭が乗っかっている。青年は少し寝苦しそうだ。対して少女は幸福を顔に貼り付けていた。
部屋の窓に掛けられたカーテンの隙間から僅かな日の光が覗いており、朝であると告げていた。
一つしか無い扉からノックの音が聞こえてきた。しかし二人は夢の中。
次のノックは少し大きめ。しかし二人は夢の中。
三度目のノックはなく、ドアノブが回される。
開かれた扉から現れたのはメイド服を着た女性。体型は平均的と言って良い程度の凹凸を示している。長い白髪は後ろで一つにまとめられており、顔にはガスマスクを装着していた。
小さくコホー、コホーという呼吸音を響かせて女性が入室してくる。廊下に満ちた朝日を背に、女性は室内を見渡し寝台で眠る二人を視界に捉えた。
寝台へ歩みを進め、女性が二人を軽く揺さぶる。しかし二人は夢の中。
部屋にコホォ……という呼吸音が響く中、女性は入り口へと踵を返す。女性は廊下まで出ると腰に下げたウェストポーチからピンの付いた筒状の物体を取り出した。
部屋の扉を筒が投げられる程度の隙間を開けて廊下を見渡す。人影がないことを確認した女性は筒からピンを抜き、部屋の中へ投擲。急いで扉を閉めて両耳を手で押さえる。
その直後。
ドバァァン! という爆発音が部屋から轟いた。
女性は押さえていた両耳から手を離し、扉を開いた。中の様子はほとんど変わっていない。変化があったのは寝台で寝ていた青年と少女だった。
二人は寝台から転げ落ち、寝間着でが大きく乱れている。少年は下半身だけが寝台に乗った状態で床にキスしており、少女は上着を大きく開けさせて腹部から胸部まで丸見えだった。残念ながら、いささか年が足りないせいで色気が皆無だ。
そんな二人へ女性は一礼。
「ココホー」
「ココホー、っじゃねぇよ! 起こすのに音響爆弾使うな!」
床へキスしていた青年は怒鳴り散らす。
「そうだそうだ! 主の心臓止める気か! このバカメイドめ!」
乱れた服を直しながら少女も怒鳴り散らす。
しかし女性は表情を変えない、というよりもガスマスクのせいで表情がわからない。
「というか何だそのマスクは? まさか起きなかったらガス兵器でも使う気だったのか?」
少女の問いに女性は首を振り「コホホー」と返した。
「何言っているのかわからないぞ。マスクとれ」
女性は頷くとガスマスクを外し、素顔を晒した。そこにあるのは見目麗しき美女の顔だ。なめらかな鼻筋に形の良い唇、そして僅かにつり上がった目は冷たい美を漂わせている。
「起こしに来るのがガスマスクメイドだと、驚くと思いまして」
「音響爆弾の方が驚くに決まってんだろ!」
青年の訴えはごもっともである。
「まあ、いい。いやよくはないが、とりあえず起きようか」
「あー、ったく、朝から驚かせやがって」
そう言って寝台から降りる二人に女性が一礼。
「おはようございます。魔王様、勇者様。朝食の用意ができているので、お顔を洗ったら食堂へお越しください」
主たちの目覚ましに音響爆弾を使った女性は、毎朝の事のようにそう告げた。
そんないつもどおりのメイドに二人は溜息をつく。
魔王と呼ばれた少女は眠い目をこすりつつ腹を掻く。
「さて、冷める前に朝飯を食べるとしようか、勇さん」
勇者と呼ばれた青年は欠伸をしつつ頭を掻いた。
「ああ、わかったよ魔おっさん」
これから続くのは、とある勇者と、とある魔王のだらだらとした日常の記録である。
ここは人間たちに魔族領域と呼ばれ、血も涙もないケダモノ達が跋扈する地獄であるとされていた。そんな場所に城を構える魔王、そして自宅警備員の勇者は、のんびりと暮らしていたのだった。
これからどう展開するのか全くの未知数ですが、楽しんでいただけたら幸いです




