なんでこうなったの
R15の基準がよくわからなかったので、保険として。
静かにドアを開け入った玄関には、男物とは違い小さくてかわいらしいヒールの靴。リビングに通じるドアの向こうからは甘く愛を囁く彼の声。
おれは昔から自分のものに執着するふしがあった。車のおもちゃ、ヒーロー物のフィギュア、前はおやつなどにも執着していたが最近はない。その代わり、とは言えないが彼に執着するようになった。
高二の夏、真っ赤な顔しておれに告白してきた彼を、どうしようもないくらい愛しく思い付き合うことにした。
付き合って…どんくらいだろうな。確か二年経ったくらいか?
高校を卒業したおれ達はそれぞれ一人暮らしを始めた。仕事の関係もあってなかなか一緒にいれなかったが、休みの日は彼の家に入り浸っていた。
だが、やっぱり離れている時間の方が多く、どんどん顔を合わす回数は少なくなっていった。それでも毎晩電話はしていた。していたのに、少しずつ態度が変わっていく彼。電話の向こうから聞こえる甲高く甘い声。それが聞こえる度におれは泣いた。泣いて縋りついた。
彼も最初は隠そうとしていたが、徐々に隠そうともしなくなっていた。
…もう別れたいということだろうか。彼はそれをおれに言えずにこうやって、おれから別れようって言わせようとしているのか。
脳がその可能性に至ったとき、おれの中で何かがなくなった。その何かがなくなった時、おれの中に彼はいなかった。なんだろうこの感じ。……ああ、あれだ。お気に入りのおもちゃをなくした子供が最初は必死に探すけど、ないとわかった瞬間興味をなくして別のおもちゃで遊ぶみたいな感じ。おれの中で彼に対する執着がなくなったんだ。
なんでおれはあんなのに執着してたんだろう。
そうだ、別れを告げに行こう。思い立ったら吉日。おれはすぐに行動することにした。
いつもならおれが電話している時間。今から行ったら女に会ってしまうかもしれない。でもまぁ、関係ないか。よし、あいつの家に行こう。
おれの家とあいつの家はそこまで離れていない。家を出てぼーっと歩いているとすぐに着いた。
着いたのだが…どうしよう。とりあえず静かにドアを開けてみる。玄関にはやはり女物の靴。悲しいとか呆れたとかいう感情はもうなかった。
自分が思う限り無表情でリビングに行ったと思う。リビングのドアを開けてあいつの姿を見る。……良かった、まだ服は着てる。もしこれが情事の最中だったら、おれは吐き気を催したと思う。何が悲しゅうて知人が女と絡み合うところを見らないけんのですか。
とか思っているとあいつがおれに気づいたらしく、邪魔が入ったと言わんばかりの横目で髪をかきあげ「なんのよう?」と聞いてくる。…こいつさ、前々から思ってはいたんだけどさ、少しあいたたたな感じのナルシストじゃね?いや、別にいいんだけどね?
ああ、違う、こんなことを思いに来たわけじゃない。おれは改めて彼を見て言う。
「お前ってナルシストだよな」
「・・・はぁ!?」
「あ、違う、別れよ?もうお前と別れるから好きに女の子たちとヤって大丈夫だよ。…あぁ、いや今までもしてたね。余計なお世話だったかな?まあ、今までありがとう。それだけだからじゃあね」
一人で勝手に喋り家を出た。後ろから声が聞こえてきてたけど、女の子と再開したんだろう。もうおれには関係ない。
それからしばらくおれは何事もなかったように普通に過ごしていたが、ある日家に帰ると電気がついてた。誰かなと思い、玄関を少し開けそこから中を覗く。んー?男物の靴だ。おれのよりでかい。なんか見覚えある気がするけどどこで見たんだっけ?
玄関を閉めて考えていると、おれが帰ってきた気配を感じたのか、中からドアが開く。
「おかえりっ!」
「……ん?」
誰だっけ、これ。んー…。んー?あー、あいつじゃん。
「お前なんでここにいんの?」
思ったよりも興味なさげに響く。まあ、その通りなんだけどさ。
「俺は…、俺はお前がいなくなってからすごい寂しかったんだ」
しょぼーんてすな。おれが悪者かよ。
「自業自得じゃね?とりあえず帰ってくれない?おれ眠いんだけど」
今何時だと思ってんだよ。もうすぐ草木も眠る時間帯だぞ。
「それより、こんな時間までどこにいたんだ?浮気か?俺が浮気してたから浮気したのか?俺にはもうお前だけだよ。お前しかいない。な?お前もそうだろ?俺しかいないって言ってくれ」
「…何言ってんの?俺は会社の飲み会行ってただけだし。そもそもおれとお前別れたよね?何今更来てんの?とりあえず帰って」
おれはそう言いこいつを部屋から追い出す。
「あ、鍵返して」
そう言っても出しそうになかったので、おれは勝手に体をまさぐる。
目当てのものを見つけ「じゃ、さよなら」と言い玄関を閉めた。鍵も。
閉めた後しばらくガチャガチャなっていたが、諦めたのか今は静かだ。
はぁ…朝になったら隣の家にお詫びしないと…。なんとなく、カーテンの隙間から外を見る。あいつがじっとこっちを見てた。バッとカーテンを閉めてベッドに潜り込む。なにあいつ…。おれの体は少し震えていた。
まぶたに日があたり血管が赤く透ける。まぶしい…。目を擦りながら体を起こしてカーテンを閉める。
……………あれ?
おれカーテン開けてないよな?
なんで……。
「あっ、おはよう!」
ビクッ
…何?何でこいついんの?おれ鍵とったし閉めたよな?
「今日の朝ごはんはね〜、玉子焼きと味噌汁とほうれん草のおひたしと鮭だよ!和風にしてみたんだ〜」
笑顔で少しずつ近寄ってくるこいつにおれは恐怖しか感じれなかった。
人格まで変わってないか?あいつはこんな喋り方はしない。人の為に料理なんかしないやつだ。
……誰?おれの目の前にいる人はだれ?
ベッドのすみに寄って目の前のこいつから必死に離れようとする。
背中が壁に当たる。逃げ場はない。ゆっくり近づいてくるこいつがこんなになったのはおれのせい?
どこから間違いだった?
何を選べばよかった?
いつの間にか目の前に来ていたこいつの綺麗な琥珀の瞳は濁って淀んでいた。
手首を掴まれる。力強く。
「いっ、痛いっ!やめろよ!」
手を振りほどこうとするが、より強く掴まれただけだった。
「何?なんで逃げようとするの?俺、お前に逃げられるくらいなら殺すから、ね?俺もその後で死んだらずぅっと一緒にいられるね」
声が真剣そのもので、本当にやりかねない。そう考えるとじわりと涙が滲んでくる。
「おれ死ぬの…?」
おれが何したの?別れたらいけなかったの?突き放したらいけなかったの?付き合ったらいけなかったの…?
溢れる涙はあいつの舌に拭われた。
「俺とずっと一緒にいてくれるなら死なないよ」
これを拒む術がおれにはなかった。
支離滅裂な話ですが、読んでいただきありがとうございました!!
途中ふざけてしまいました。
それにしても、すごく短くなってしまったし、設定が全然活かせてないですね…。
技術が足りませんでした(´・・`)
次は設定を活かしたい!
題名は自分の気持ちも入っちゃってます。