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■5.知らないイベント(中)

■5.知らないイベント(中)


 やってきたいかつい男性二人に、私は別の部屋へ連れていかれた。

 抵抗? したって無駄なんだからしない。だからといって協力的な態度でもないけれど。

 次の部屋では、後ろ手に縛られた状態でしばらく待たされた。ソルはどうしてるだろうか。


 ていうか、待ちくたびれたんですけどー? ってだれたぐらいに、三人の男性が入ってきた。内二人はさっきここまで連れてきた人たちだ。要するに護衛だろう。

 残る一人の顔を見て、思わず声をあげそうになった。


 私、この顔知ってる!


 当たり前だけど、知っているのは私だけじゃない。マリエッタだって知っているだろうし他のゲーマーだって知っている人は多い。

 イザークルートで、かつ、ヴォルフ様と仲良くさせる時にだけ出てくるのだ。

 確か子爵かどこかの家の次男で、なんとマリエッタに片思いしている設定だ。マリエッタに求婚するも、お断りされたのを根に持って、狐様をピンチに陥れさせる小悪党だ。

 ヴォルフ様の『イザークが皇太子に叛意を? そういう噂があるのは事実だ。しかし噂そのものがでっちあげだ』という発言のうち、最初に二文だけを取り上げる。そうすると、聞いた人は狐様の叛意が事実であると誤認して……という流れだ。

 ストーリー上は自分の発言を利用されたヴォルフ様が怒り心頭で企みを潰してめでたしめでたし、という結末を迎える。これは乙女ゲームなんだけど、ヒロインと狐様の仲を深めるのではなく、狐様とヴォルフ様の仲を深めるイベントとして、狼狐派の皆さまにとても愛されている……のは余談か。うん、ヴォルフ様、カッコイイよね。私もこのイベントは大好きです。

 ていうかさ、聞いた人もあっさり信じるなよ、と思わないでもない。腹の探り合いが日常な貴族様なんでしょう? だったら疑おうよ、とかね。この辺りはゲーム進行上のザ・ご都合主義だろう。

 確かベリタス卿とゲーム内で呼ばれていたっけ。ヲタ仲間ではベリたん、と呼ばれてた。狼狐の仲を深めるきっかけをくれたのと、あほの子ほど可愛いの心境に達した一部の人が呼び始めたのがきっかけだったはず。


 話がそれた。

 そんな人物が、目の前にいる。

 ゲーム内で狼狐両名に喧嘩を売るようなことをした人物が、今は善人だなんて考える方が馬鹿らしいし、善人だったら人を誘拐したりしない。


「乱暴な招待になってしまって、すまないね」


「……」


 全くすまないと思ってなさそうな様子で言われてもなぁ。そりゃあ見るからにあちらは貴族。こっちは平民。対等な立場扱いされるはずがない。

 でもそうですね、って頷くぐらいはいいだろうか。

 怒らせそうな気がするので、じっと黙りこむことにする。


「しかし、危害は加えていないのだから、いいだろう?」


 いいわけあるか、このオッサン!

 今、縛られているのは危害じゃないんかい、とか。ツッコミどころしかない。

 ねえゲーム制作チームさん。乙女ゲーム(の名をかぶったBLゲーム)の悪役って、どうして馬鹿が多いの。いや超頭脳明晰で手強い悪役のいる乙女ゲームだって世の中にはあるだろうけどさぁ。

 攻略対象はかっこいいのになぁ。なんか残念。

 とはいえ手強い相手だと私が困るからこれでいいのか。


 それにしても、目的が分からない。


「このまま大人しくしていれば、危害は与えない。何、ほんの数日、ここにいるだけだ。問題はないだろう?」


「いやいや、ありますって」


 いけない。思わず素で答えてしまった。

 働かなくていい身分ではなく、こっちは労働者なんだよ。雇い主に無断で姿を消したら問題に決まってるでしょうが。

 これだから働いたことない人は!

 心配させるし、同僚には迷惑だってかけるんだぞ。

 そういやマリエッタへの求婚をイザーク様に断られた理由が「ごくつぶしに妹はやらん」だったなぁ。そりゃ可愛い妹を、こんな馬鹿のところへ嫁にだしたくないだろう。イザーク様は正しい。


「……」


 あまりに正直に答え過ぎたからか、むっとした顔をされた。しまった。


「いや、その……何故このようなことを?」


 今さら感あふれているけれど、怯えた様子をつくって問う。

 わざとらしいけれど、あっさりと機嫌をなおすあたり……単j、いや、分かりやすい。自分が優位な立場にいることに満足してるんだろうなぁ。護衛の片方が呆れた顔をしてるけれど、気にしない。

 けれど、怖いのは事実だ。この状況で怖くなかったらよほどの馬鹿とか勘違い自信たっぷり人間じゃなかろうか。とりあえず私はどちらでもないつもりだ。


「そんなこと、軽々しく教えると思ったのかね」


 ですよねー。いやでもほら、聞いてみなきゃ分からないじゃない? あるいは様式美っていうかさ。


「まあいい。どうせ何も出来ないのだから。今、私は大変気分がよい」


 駄目だこいつ、なんとかしないと。

 そんな顔を護衛の片割れが浮かべたことを、私は「そりゃそうだよなぁ」と思って眺めていた。

 あんたたちはいいよね。ベリたんの背中を見ている、つまり自分の表情がベリたんには見られないんだから。こっちは素直な感想を表にださないようにしなきゃいけないんだぞ。ちなみにもう片方はずっと無表情だった。

 なんだろう……この脱力感。

 ベリたん、マジでベリたん……。


「君の恋人に、一つ頼みたいことがあってね。しかし以前にお願いしたときには断られてしまったんだよ。だから今度は確実に頷いてもらえるよう手はずを整えた。ただそれだけだ」


 ……こいびと?


「何、君に何かしてもらうつもりはない。ただ私の元にいればいいのだ。これさえあればあの方も気づくだろうし、否とは言えまい」


 これ、と得意げに見せたのは私の髪留めだった。

 ……テイナー家のメイドはみんなお揃いでもってるやつ。そういや起きたときなかったな……。

 いや、それよりも。恋人って誰だ。ヴォルフ様か? 確かに可愛がってもらっているけれど、恋人……なんだろうか。まだエンディング迎えてないから、溺愛されてはいるけれど恋人じゃないよなぁ。はたからどう見えるかはさておき。


「まったく、こんな平凡な平民のどこがいいというか。マリウス様はかわりものとは聞いているが、それにも程があるだろう」


 ………………………………………………………………………………………………はい?

 私の恋人設定されてるの、まさかのにゃんこ王子キター!



続きは明日14時に予約投稿してあります。

明日が後編ですが、目指していた年内にこの話そのものを完結させる、は無理でした。申し訳ありません。

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