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■4.諸君、私はへたれわんこが大好きだ

お、お久しぶりです……。間あきまくってすみません。

■4.諸君、私はへたれわんこが大好きだ



 どこぞの界隈で有名な『諸君。私は○○が大好きだ』から始まるコピペ改変の冒頭を思わず心の中で呟く。

 だって。

 私が一番大好きな攻めキャラが、今、目の前に!

 BL乙女ゲームでは「狼様の大ファンなわんこ」でおなじみの傭兵キャラです。名前をソルと言う。


 ちょっと待てよヴォルフ様はどうした。気の多い女め、と思わないでください。

 ヴォルフ様は理想の攻め様。目の前のわんこは、最愛の攻めキャラなのだ。

 この違い、どうかわかってほしい。


「……ローズ? どうかしましたか」


 執事なセバスチャンに怪訝そうに問われて我に返る。

 いけない。

 散々、攻めキャラとしてへたれたり活躍したりへたれたりへたれたりしてもらったソルを目の前にして、つい滾ってしまった。


「いいえ、なんでもありません」


 だからどうぞお話続けてください。ぜひ。


「この者は今日から当家で働くことになったソルです。用心棒をしてもらいます」


 はい。知ってます。


「特にローズの護衛を頼んであるので、外出する際は一声かけるように」


 たかが一メイドになんで護衛が、と思う人は、王太子様ご来訪の時を思い出してほしい。

 乙女ゲームだからの超理論でもって、私がにゃんこ王子こと第二王子であるマリウス様に王太子陣営に所属してもらえるよう説得することになったのだ。あとツンデレ狐文官ことロイズ様も。

 たかがメイドであっても、王太子様の意を受けて行動するのだ。護衛の一人ぐらいつけなくてはいけないだろうってことになったのだ。

 しかしそうタイミングよく手があく人もいない。

 だからといって新しい人を雇うのは信頼性の面で難しく。さてどうしようかというタイミングで屋敷にやってきたのが傭兵ソル。

 今、この国は平和で仕事がないからよその国に向かおうと思う。ついてはヴォルフ様にご挨拶をということで訪れたのだった。

 彼はヴォルフ様が戦場に出た時に配下となって戦った経験がある。命を救われたこともあるそうで、忠誠心は本物だとヴォルフ様が太鼓判を押した。腕も悪くはない。


 仕事がないなら、仕事をしてもらえばいいじゃない。




 テイナー家は信頼できて腕がたつ人材がほしい。

 ソルは仕事がほしい。


 うむ。完璧ですね。

 そんな流れで、ソルはテイナー家で働くことになったのだ。常に私の傍にいるわけではないので、普段は警備を担うそうだ。


「質問です。私用外出は今まで通りでかまいませんか?」


「そうですね。ただし声だけは掛けていってください」


「わかりました。ソルさん、よろしくお願いします」


 わんこを連れてにゃんこ王子の元へ行くとか幸せすぎて死にそう……。

 ゲームではなく現実ではどんな会話が発生するのかな。にゃんこ王子、最初はわんこの事視界にもいれてないのに徐々に認識していく課程とかかわいいんだよね。認識初期なんて、猫がフーって威嚇してるみたいで超ぷりちー。それを見てなんかまずいことやった!? って狼狽えるわんこのへたれっぷりも最高だった。

 それが目の前で……。


 やばい。萌え死にそう。




 現実世界での友人の一人に、ナマモノジャンルに生息している腐ったオトモダチがいる。

 彼女いわく「現実の彼らがそうだなんてこれっぽっちも思っていない。だから絶対に隠れなきゃいけない。自分がやってることは本人が知ったら気持ち悪いだけの妄想だから」とのことだった。

 この辺の感覚は、公式が腐推奨なゲームジャンルの私が全部理解することは無理だろう。

 でもゲーム世界に紛れこんだ今となっては言いたいことはわかる。

 友よ。あなたの教えは無駄にはしない。

 現実と妄想を一緒にしてはいけない。同人者のオヤクソクです。

 ちなみに友人は「むしろモテるうちに早くいい嫁さん見つけて結婚してくれないと心配でさー」と続けていた。

 扱うカップリングな二人よりも彼女は余裕で年上で、かつ独身だ。他人の心配の前に自分のことを考えろと説教できないのは私も独身だからです。



 話がそれた。


 つまりですね。私に必要なのは自制心。内心のほとばしる萌えを表に出さないだけのポーカーフェイス。

 そして何よりも。

 彼らは現実としか思えないこの世界で生きている、一人の人間だ。

 私のおかしな妄想を押しつけていい相手じゃない。同人小説のキャラクターじゃない。

 ホモ妄想されたら不快だろう。いつも一緒にいるからといって私と麻里(現マリエッタ)の百合妄想をされたら気持ち悪いのと同じだ。

 わきまえてます。

 ちゃんとわきまえているから、同志と語らうのと脳内妄想だけはどうかお許しください。





「ああ、せめてメール……無理ならWEBサイト作れたらいいのに……! そうしたらローズに『わんこ日記』って名前のサイト作って毎日更新してもらうのに。それ見てにやにやするのに」


 マリエッタが嘆く。

 場所はいつもの紅茶屋の個室だ。

 外で二人で会うのはヴォルフ様たちへの迷惑になりかねないので極力避けているけれど、今日ばかりは許してほしい。


 しかしサイト名、どうにかなりませんかね。


「WEBサイトねぇ……。トップページに音がなるように仕込んでおく?」


 結構前にあった、訪問して困るトップページのネタを振ってみる。

 夜中から明け方にかけてのみ回線がつなぎ放題な料金体系があった時代の話だ。音がいきなりなるようなサイトは驚くし近所迷惑になりかねないし、何より重いのでやめましょう。


「セットでカーソルの形変えなきゃ」

「あったね! フレームのHTMLタグをミスって、フレームのなかにフレーム作っちゃいそう」

「CSSとかすごい凝ったりとかね」

「そうそう。で、逆に見づらくなるの」

「掲示板つけてよ。もちろんトップページにカウンタつけてさ」

「全然キリ番じゃない番号で『キリ番ゲットしました! リクエストは~』とか書き込まれそうで嫌だ」

「ちゃんとキリ番までカウンタまわしてあげるからさ~」

「そもそも二人しか見ないページのカウンタの存在意義って……」

「それを言っては駄目よ」

「私だけじゃなくて、そっちもサイト作ってよ。『つれづれにゃんこ』とかでいいからさ」

「サイト作ったら、掲示板に『無断リンクはりました。相互よろしくお願いします』とか書きこんでおくわ」

「無断のくせに相互希望とか!」


 懐かしいあるあるネタでひとしきり盛り上がる。

 二人揃っていつもとは違うテンションだけど、私たちは戸惑っているのだ。


 萌えは滾っている。

 日本に帰ったら、イベントの申し込みして(そういや冬の某イベントの申し込みが間に合う時期に戻れるのだろうか……)新刊の執筆に入りたい。

 ネタはあたためているけれどまだ書いていない話だってあるのだ。


 でも。

 ここは日本じゃなくてゲームが現実になった世界で。

 彼らはゲームのキャラクターじゃなくて一人の人間で。


 ……どうしよう?


 私たち、どうしたらいいんだろうね、マリエッタ。



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