■2.王太子様がやってきた(後)
本日2話目の更新です
■2.王太子様がやってきた(後)
お屋敷で一番いい客間は、私も時々掃除を手伝うので入ったことがある。
だけど、いるのがこの二人というだけで、知ってる部屋が一気にランクアップしたように見える。王太子様が気だるげに腰掛けてるだけでソファがキラキラして見えるよ。ていうかなんだその色気。朝のヴォルフ様とタイマンはれますよ。王太子様が攻め属性でなければ、事後かと思うところでした。
「失礼します」
さすがにドキドキしながら入って、準備をする。
手順は体にしみついてるから大丈夫。大丈夫ったら大丈夫。
「この子がヴォルフの?」
「そうですよ。俺のだから手を出さないでくださいね」
「大丈夫。俺の好みじゃないから」
え、私ってヴォルフ様のものだったの? いやヴォルフ様付きのメイドではあるけれど。知らなかったわー。って、ヴォルフ様の下で働いてる使用人だから監督義務があるってことだよね。勘違いするところでした。危険危険。
「ねぇ、君さ」
「は、はい!?」
ちゃんと淹れられた紅茶をお出しする最中に話しかけられてびっくりした。粗相はしてない。セーフ。
ゲームの中のローズは、何故王太子様と普通に会話してたんだろう。出来ないって。
「ちょっと話聞きたいから、そこに座って」
はい? そこって……王太子様が示す場所にはヴォルフ様が座っている。一人掛けだから横に座れるわけじゃないし……ええと、床?
「ヴォルフの膝の上」
マジすか。
これなんの羞恥プレイ? あるいは罰ゲーム? いいや御褒美?
「ええと……」
王太子様があまりにも同人誌の王太子様で、ローズ困っちゃう。ていうか本当にどうすれば? いくら王太子様の命令でも、御前で、主人の膝の上に座るメイドってどうよ!?
「ローズ。おいで」
おいでとかいいながら拉致らないでくださーいー。
ぎゃあと、にゃあの中間みたいな声が出た。後でセバスチャンに注意されちゃう~。
「命令だからね。いいんだよ」
み、耳元で話さないでください! そういうのはカップリング相手に同人誌で……同人誌でこの体勢になったらセクハラ一直線デスネ。私ならそう書く。
ああ、ヴォルフ様の体躯に支えられるこの幸せよ。目の前にいるのが王太子様でなければ存分に堪能したのに! このしっかり鍛えられた筋肉。それに裏付けされた包容力。これぞ男の魅力っていうのを垂れ流ししている。なんて勿体ない。
「で、では、お言葉に甘えさせていただきます」
いいのかなー? どうしたらいいのかなー。教えて誰か。とりあえず座った感想は後でメモっとく。私はヴォルフ様のカップリングは書いてないけれど、きっと何かの参考になるから。
「ヴォルフのこと、好き?」
なんか直球きたよ!?
腰をささえる腕に、少し力がこもった。
「はい。尊敬してます。大好きです。御主人さまは私の理想のせ」
いっけね。理想の攻めって言いかけた。
「り、理想の方です」
「……今何か言いかけたよね?」
気のせいだとオモイマス。
「まぁいいけど。良かったねヴォルフ。大好きだってさ」
「尊敬が真っ先にくるあたりなぁ」
え? ダメでした?
「ふふ。なかなか手ごわいね。手こずるヴォルフは新鮮だから、今のままでいいと思うよ」
よく分からないけど頑張ります。
「じゃあさ、大好きなヴォルフのためなら何でも出来る?」
あ。これイベントだ。
お膝抱っことかなかったけど、ゲームでもこの会話あった。
「何でも……は微妙ですね」
ゲームのローズの神経は素晴らしい。ここって「何でも出来ます!」って即答する場面じゃないの? なんでこのセリフ言えちゃうの? ゲームに沿ったセリフがつい口をついて出た私なんてガクブルですよ。不敬罪とかならないかな……。
でも出来ないことは出来ないしなぁ。
「素直で大変よろしい」
大丈夫だった。思わずほっとして体の力が抜けたのがヴォルフ様には丸分かりだったろう。くすりと笑った息がくすぐったかった。
「君にね、手伝って欲しいんだ。ヴォルフ程は無理でも、信頼できる家臣が欲しい。彼らの説得をヴォルフと一緒にやってくれないか」
乙女ゲームだから、で流される御都合設定だよねぇ。
なんで王太子の家臣を、一介のメイドが説得出来るというのか。無理やりな説明は出てくるけど。
「私なんかに出来ることがあるのでしょうか」
ヴォルフ様にお膝抱っこされながら言うセリフじゃないけど。
「説得をお願いしたいのは二人。異母弟のマリウスと、文官のロイズだ」
マリウスがにゃんこ王子、ロイズがツンデレ狐様です。このイベント発生時点ではわんこ傭兵は登場してないので名前は出てこない。余談だけど王太子様のお名前はジークフリードという。マリエッタで恋愛エンドを迎えたときぐらいしか呼ばれない名前だ。もちろん同人誌ではたくさん呼ばれてるけどね。
「マリウスは変人だから貴族令嬢なんかには絶対会わないから君のほうが好都合。ロイズについては妹のマリエッタと親しいと聞いているから大丈夫だろう。信頼できる人にしか頼めないからね。俺は君のことを知らないけれど、ヴォルフが信用してるから大丈夫なんだよ」
改めて聞いても無理のある理由だ。でもここで『はい』と言わないと話が進まない。ゲームだと『でも……』を選ぶと延々と説得され、しまいには『君にしか頼めないんだ』しか言われなくなるという実質一択のイベントだ。ついでに長引かせれば長引かせるほど王太子様とヴォルフ様の好感度は下がる。
だからとっとと頷くが吉。
「わ、私で出来ることならお手伝いさせていただきます」
ていうかさ。王太子様、自分の弟のこと、変人って言いきったよね……。にゃんこ王子は単に人見知りして人嫌いなだけですよー。超可愛いんだから。
余談ですが、王太子様×にゃんこ王子は、二番人気のカップリングです。一番人気は狼様×ツンデレ狐様。
「よろしく頼むよ」
このイベントを終えることで、ゲームのストーリーが進むのだ。ローズが動きまわる大義名分が出来たからね。
やっぱり、こうやって話は進んでいくんだなぁ。
ゲームじゃなくて現実だけど、やっぱりゲームの要素がある。
いっそどっちかに偏ってたらいいのになぁ。
次は狐様が登場します……でもメインは妹のマリエッタです