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■5.知らないイベント(後)

■5.知らないイベント(後)


 驚きのあまり呆然とするのを、図星をつかれた為とベリたんが勘違いしたのはよかったのか悪かったのか。

 元の倉庫に戻されても、混乱はおさまらなかった。


「あいつ、終わったな」


 どこかで話を聞いていたらしいソルが現れた。遠い目をしているのは仕方ないだろう。きっと私も似たり寄ったりだ。


「終わったかどうかはともかくとして、どうしてそうなったかなぁ」


「そりゃあかなりの頻度で通ってたからじゃねーの?」


「え、だってソルさんも一緒だったじゃんですか。仮に、万が一、そんな関係だったとして、男連れで会いにいくとかないわー」


 私がそこそこのペースでにゃんこの元に通っているのは、ヴォルフ様を通じた王太子の指示だ。元々盤石な王太子の立場をより確実にするため、政治に無関心なマリウス王子を自派閥に取り込もうとしている。


 ヴォルフ様は王太子の信頼のあつい部下だ。そのヴォルフ様に可愛がられているテイナー家のメイドがマリウス王子の元に通っている以上、政治的なあれこれを勘ぐられるのは分かっていた。

 王太子も、ヴォルフ様も、ついでにいうとマリウス王子だって、そう思われるのは分かっていて、だからこそソルをつけてくれた。王太子については分かっていて利用する向きもある。


 それが、だ。

 王太子もヴォルフ様も、ソルのことすらすっ飛ばして、一人の女がマリウス王子の元に通っているところだけ抜き出して恋愛事情に発展させるのは……きっと誰も想像していない。


「それは、俺らの発想だろ」


「はい?」


 どういうこと?

 ソルの言いたいことが分からず、首をかしげた。


「あいつは貴族なんだろ。だから誰が誰に会いにいこうと、一人で行動するって発想がないんじゃないか」


 目から鱗とはこのことか。


 従者とか侍女、護衛。それらを一切なしで動く貴族は少なくない。マリエッタは中の人が日本人だし、ヴォルフ様はなまじの護衛なんて目じゃないぐらい強いので単独行動するからうっかりしていたよ。


「あー……なるほど?」


「なんで疑問系?」


「いや、私は平民だけどなーって思いまして」


 ふん、とソルは失笑した。


「あの手の人間が、俺らの行動様式になんて興味もつものか」


 ……なるほどー……。


「脱力したけれど、とにかく納得しました。とりあえず、ソルさんはヴォルフ様に事の次第を伝えてくれませんか。ヴォルフ様は無理でもセバスさんとか、とにかくサボりじゃないです、今は無事ですって」


 私とにゃんこ王子の仲の勘違いに気づかれるまでは、身の安全は大丈夫そうだし。

 だったら、何が起きているのか、テイナー家に伝えてもらったほうがいいだろう。


「えー? それは……うーん……」


「なんか駄目な理由でもありました?」


 ないよね?


「さすがに一人にさせるのはなぁ」


「さっきの話だと、大丈夫そうじゃないですかね。というか、ここで二人でいてもどうしようもないので……。あの勘違いのまま話をもっていかれると、マリウス様にもヴォルフ様にもご迷惑が」


「……仕方ないか」


 大きくため息をついてから、ソルは立ちあがった。

 よろしくお願いします。






 そこからは、怒涛であると同時に予想通りだった。


 ソルから話を聞いたヴォルフ様がソルだけを連れてやってきた。

その様子が「激怒」と名前をつけて飾れるレベルで、慄いたのは内緒だ。いわゆる攻撃力はあがるけれど我を忘れた状態ではなく、冷静に怒っていたので、ベリたんにこっそり同情したぐらいだった。

 まあ、ねぇ。ベリたんレベルの人に出し抜かれた形になったら、ヴォルフ様のプライドも傷つくだろう。少しは勘違い恋人設定も怒りの原因のようで、嬉しいようななんというか……。


 そんなこんなで、この事件は「なかったこと」にされた。

 何故かっていうと、私の”名誉”のためだ。

 まあなんといいますか、その。こういう発想は非常に腹がたつのだけれど、(設定上)若い女が単身とらわれていたというのは、あらぬ誤解を招きかねないから。

 実際何もないし、殆どの時間はソルが居てくれたので単身ではなかったとはいえ、なかったことに出来るならその方がいい。ヴォルフ様とソルだけで来たのも、関わる人間は最低限にするためだろう。どうしても関係者が増えると、話は広まってしまうから。

 まあヴォルフ様って、一騎当千を体現したような人だからね。数だけ揃えたところで意味はないだろう。

 結局のところ、事件のことを知っているのは、私、ソル、ヴォルフ様、にゃんこ王子、王太子のみとなった。本当に必要最小限だ。

 何事もなかったことにしなければいけないので、私とソルの魔法使いの塔通いも続けることになった。


 当事者中の当事者でありながら、私は蚊帳の外状態で色々な物事が決まっていく。

 そのことに異論はないけれど……疑問、というよりは違和感のようなものがしっかりと根をはっていった。






 だから。


「聞いたわよ。大変だったわね」


 いつもの紅茶屋で、マリエッタが心配そうに言ったときに。


(あれ。黒幕って、麻里じゃないの)


 と、気づけたのだった。


次の第6話で完結予定です。

一月中を目標としています。


今年はお世話になりました。

来年もよろしくお願いいたします。

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