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■1.狼の朝(前)

新連載です。よろしくお願いします。

■1.狼の朝(前)


 私の朝は早い。

 朝起鳥が鳴く頃……日本で言えば六時前には身支度を整えているのだから、凄いと思う。かつての私なら八時の電車に乗りたいのに七時半に起きるのも珍しくなかったのだから、今の私は素晴らしいと自画自賛もするものだ。

 改めて言おう。凄いぞ私。うん。

 誰も言ってくれないから自分で言ってみた。


 では、何故こんな偉業が出来るようになったのか。

 その前に「日本で言えば」って、ここ日本じゃないの? って話だよね。



 はい。日本じゃありません。

 ここは『乙女ゲームの皮をかぶったBLゲーム』の中なのです。


 そんなの言われてもびっくりですよねー。でも今流行りのアレです。ゲーム世界への転生。お年頃の女性としては、いっちょ流行りにのってみるのも悪くないかなー、なんて。まぁ悪役令嬢じゃなくてヒロイン枠なところは、流行りに乗り切れてないかとか思っちゃったりもするけどさー。

 ……嘘ですごめんなさい。気付いたら、ディスプレイ越しでだけよく見知った世界が目の前にあるのだ。夢なのかなと手の甲をつねったら痛いし。あの時はパニクったわー。

 転生キター、とか喜べないもん。

 でも、どう考えても現実なのだ。手を伸ばせば触れるし、音も聞こえる。会話も出来る。こっちの話したことで相手が反応する。

 ……うん、これはもう現実と受け止めるしかないでしょう。夢の可能性? それならそれで有だよね! だって元になったゲーム、何周したか数えちゃいけないレベルでやりこんだオタクだから、幸せってもんでしょう。

 あ、ちなみにゲームの正式名称は「貴方に捧げる私の気持ち」といいます。オタクの間では「BL乙女ゲー」で通じます。

 というわけで、これは現実なんです。

 現実ってことは、つまり着々と時間は過ぎていくってことで。ぼうっとしていたら仕事にならない。

 ってことで、お仕事行ってきます。





 深呼吸をしてから目の前の立派なドアを二回ノックする。返答はないけどいつも通りだから気にしない。ゆっくり五つ数えてからドアを開けた。


「ヴォルフ様、おはようございます」


 ドアを閉めて部屋の奥……ベッドのある方に体を向けてから声をかける。

 私の一日の始まりは、この部屋の……いや屋敷の主であるヴォルフガング様の起床のお手伝いから始まる。ヴォルフガング・テイナー様が、私の雇い主、つまり御主人さまです。

 ヒロインの役割は、職業メイドなのだ。だからそれに転生した私もメイドさんやってます。これぞメイドって衣装がこの体に似合ってて毎日楽しい。

 ん? 今、ヴォルフガング様じゃなくてヴォルフ様って呼んだじゃないか、って? なんでメイドが御主人さまを愛称で呼んでるんだよとか思った? うん、私もゲーム初めてやったときは思った。でもヴォルフ様の強いご希望だからね! 主人の意向に沿うのもメイドの正しい姿ってもんよ。

 ああ、ふつーただのメイドが屋敷の主人を起こすとかないって思ったでしょ? うん、私もゲーム初(以下略)。これについてはゲーム制作者が「乙女ゲームだから」と超理論で説明したので、そういうものかと受け入れることにした。

 深く考えちゃいけないのだ。男盛りの二四歳男性(独身)を、メイドとはいえ未婚女性が起こしにいくのは倫理的に有なのかとか、下は穿いてるけど上半身裸で寝てるヴォルフ様の寝起きとかどんなご褒美ですかとか、女性関係は不自由してなさそうだけど男性の朝って、ホラ、特有の生理現象あるんじゃないかとか。考えちゃダメなのだ。

 乙女ゲームだからは魔法の呪文です。素晴らしいデスネ!


「おはよう」


 もうさ、私起こしにくる必要ないよね? がっつり起きてたよね? 的なしっかりした返事もいつものこと。

 つか朝から色気たっぷりのエロボイスやめてください。これ聞きたさにゲームでは音声オフにしなかったんだからー。リアルボイスで聞いたら腰砕けそうになっちゃうじゃないですかー。けしからん。もっと聞かせろ。

 騎士様らしく、素晴らしく鍛え上げた均整のとれた体につい視線が吸い寄せられるのを必死でおさえる。痴女って思われたら生きていけない。


「今日はどうしますか? いつものコーヒーにします? それとも紅茶?」


 メイドの朝のお仕事は、ヴォルフ様に目覚めの一杯を提供することだ。

 そのための道具一式が置いてある場所に向かい、まずはお湯を準備することにした。

 水の魔石からポットに水をためる。それを火の魔石で加工された台のうえにおけば数分でお湯がわく。あー、やっぱりヴォルフ様の部屋にあるだけあって、どっちの魔石も質がいいわー。素敵。


「ローズのお勧めは?」


 よくぞ聞いてくださりました!


「昨日届いたリズ産の紅茶でしょうか。今年のはサッパリ爽やか風味でヴォルフ様もお好きだと思いますよ」


 こうやって味きかれるからさ。やっぱ試飲って大事じゃない?

 昨日飲んだ時、ああヴォルフ様に飲んでほしい、って思ったもの。早速聞かれるなんて嬉しい。


「じゃあそれで」

「かしこまりました」


 何がおかしいのか、ヴォルフ様は楽しそうに目を細めて笑った。


「ヴォルフ様?」


 ゲームでは起こしにいって、飲み物提供して、今日の予定を確認、で終わっていた。でもここはゲームじゃないので、飲み物は何にするか、そして定型外の会話も発生する。その会話によって自分と相手の感情がかわるので、やっぱりゲームと思えないのだ。ゲームの世界観はそのままだけど、ボタン連打していけば話が進んでいくゲームじゃない。現実なのだ。


「なんでもないよ」


 ただのメイドにこれ以上の追及などできるはずもない。まあヴォルフ様が楽しそうだからいいや。

 それにちょうどお湯も沸いたしね。

狼様の朝の続きは、今日中に。

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