8.落とし穴は特別仕様
ここ数十日間、私は落とし穴を黙々と製作している。
聖女(嘲笑)様一行への特別仕様にしようと思っているからだ。
私たちが楽しめるだろうか?
それは、彼らの活躍にかかっている!
前回の『聖女(嘲笑)顔面フルボッコ事件』があるから少し不安だ。
反省はしないが、後悔はしている。
すぐ分る唯一の取り柄を取り払った彼女は、見ていて表情が分からなくてつまらないからだ。
穴掘りは、落魔のグレーヴリリーにしてもらった。
彼女は一気に好みの穴の大きさ深さが掘れるのだ。
かなり便利な能力なので、テンションが上がったのは言うまでもない。
それからは、落とし穴に入れる『物』の下準備だ。
姉たち直伝なので、えげつない『物』を入れている。
私やエクソシストの同僚たちは一度も姉たちが作った落とし穴に落ちたことがないがな。
やっと、聖女(嘲笑)一行のための特別仕様の落とし穴を作り終えた。
得心の出来だと自負している。
彼らがどういう反応をしてくれるか今から楽しみだ。
一仕事終え満足感に浸っていた私は思っていなかった。
まさか、あんなことになろうとは...
「月香さん、次のイベントに必要な仕掛けは完成したか?」
「先ほど、完成しました。魔王様」
「無事に間に合ったか!ところで気になったのだが、この世界に誘拐されている間は、向こうの世界でも同じ時が流れているのだろ?その間の学校は問題ないのか?」
「大丈夫です。現在は高校に通っていますが、実は飛び級で大学を卒業していますので」
「ほう、わざわざ高校に通い直しているのか」
「ぶっちゃけ、家の方針です。出身国の高校は、面白・素敵イベント満載なので体験してこいと」
「面白・素敵イベントはあったのか?」
異世界のまだ触れていない娯楽に興味があるのか、興味津々に聞いてくるこの世界の魔王様。
「特にないです。一部の人たちの娯楽物による思いこみで言ってましたね。実際は、ごく普通で何の変哲もありませんよ」
「残念だったな」
期待して行ったのに、本当に残念な結果でしたよ。
ゲームや小説のような展開が見れずに...
「ちなみに、学校の出席的にはきっと知り合いたちと姉たちが色々誤魔化してくれています。学校の代表の弱みを握っているとか言ってましたし」
「まさかの脅し!?」
「それはともかく、異世界間の問題とか常識をすっ飛ばして、ここに姉たちが私を迎えに来ても驚かないですね」
「お前の姉たちは何者だ?」
「いまやだ私にも解らないですね」
もう、姉たちはどこを目指しているか分からない。理解不能な域に達している。
真のラスボスを倒す『最凶の道』とかでなければいいが。
姉たちにとっての真のラスボスとは、インド人の姉(癒し系の美人)だ。
私にはどういう理由なのか分からないが。
全く凄んでいないのに、あの笑顔を見ると拒否できない不思議な力がある。それに、理不尽なことは何一つ言わない。
なので私は、あの姉たちがインド人の姉を恐れる理由が分からない。
現在、迷魔のエストゥルーナが聖女(嘲笑)一行たちを道に迷わせ、私が全力で製作した落とし穴の方向に誘導している。
そしてついに、聖女(嘲笑)一行たちは何の反応できないまま、まっすぐに落とし穴に次々に落ちていった。
無抵抗で落ちていくにしても、騎士っぽい奴や魔法使いっぽい奴がいるのに気付かないのだろうか?
ひょっとして、騎士や魔法使いの格好をしているニセモノなんてことはないよな?
これで、騎士っぽい奴や魔法使いっぽい奴の謎が深まった。
落とし穴の中には、泥水を入れてある。
使用済みの注射器や虫は定番すぎるし、不衛生だからな。
その点、泥水なら洗い流せるし。
聖女(嘲笑)一行たちは、泥水の中で溺れて何度も泥水の中から手を出し、脱出しようとしているができない。
まるで、泥人形が蠢いているようだ。
冷静になれば、すぐに泥水の中から出れる仕掛けを施していたのに...
数時間後、やっと聖女(嘲笑)一行たちが泥水入りの落とし穴を脱出した。
落とし穴の端に梯子を設置していたのだが、なかなか気付いてくれないので気付かないのかとある意味ドキドキした。
落とし穴から出た後、聖女(嘲笑)は、
「なんで、魔族ってこんな嫌がらせするの―――!ふざけてるんじゃないわよ!私は、聖女様なのよ―――!」
と、美少女顔も台無しな百年の恋も冷めるような形相で叫んでいた。
近くに、取巻きたちがいなくてよかったな。
ちなみに、取巻きたちは聖女(嘲笑)の機嫌を取るべく、食料を探しに出て
た。
その後、魔王城の中で私が作った落とし穴と同様の物を作った魔人がいて、その落とし穴にこの世界の魔王様が落ちた。
言っておくが、私は魔王城の中でそんなことをする魔人がいるとは思わなかった。
完全に、『予想外です』。
落とし穴を作った魔人は、サイ・ショウでこの世界の魔王様に〆られたことだけは言っておこう。
主人公が、「騎士っぽい奴や魔法使いっぽい奴の謎が深まった」とか言っていますが、彼らには謎になるようなことは一切ありません。
主人公が謎だと思っているだけです。




