考察、します
「普通に考えれば攻略対象の周辺の人々、ってなるんだろうけども」
問題はその「周辺の人々」の情報が全く無い事だ。
いや、一部はある。例えば接触して会話するだけで好感度がドカンと上がる連中こと、佐倉俊一に中川智明。そこまで好感度の上がり幅は凄くない、むしろかなり上がりにくいものの、一度上がると何をどうしても絶対に下がらなくなるという意外と厄介なタチをしている長谷川雅樹。
順に生徒会の会長と会計、そして副会長であるこの3人は、校内でもファンの多い、いわゆるイケメン金持ちエリート様だ。親衛隊やら見守る会やら何やらとあるのも定番パターンだろう。
彼らの周囲には常に女の子の影が大量に見える。単にミーハーなのもいるだろうけれど、あるいはあわよくば玉の輿的な思考のもいるだろうけれど、同じくらい真剣に彼らに恋焦がれている子達もいると思う。
……というか思いたい。
「後は……」
グラフをスクロールする。まだ接触していない人々の名前の中で、2つの名前に目が止まる。
片山茜。
佐倉忍。
片や生徒会書記、片や風紀委員長にして生徒会会長の妹。
少々ややこしい感じで生徒会に食い込んでいるこの女子2人、当然犬猿の仲である。
結局はどちらが思っていることも同じで「会長や他の生徒会関係者を親衛隊その他含む日常のごたごたから守りたい」というだけなのだけれども、それが裏返って互いを大いに敵視しているというのが実情である。
「生徒会の規律を乱さないでもらえますか」が書記の口癖、「どうして私の邪魔ばっかりするの、いらない口を挟まないで」が妹の口癖。
そして生徒会の面々がヒロインに魅かれると同時に、基本いがみ合っているはずの2人が何故か結託してヒロインを排除しようとする、そんないわゆる典型的悪役モブだ。
でも、ちょっと想像力を働かせればまた違うものが見えてくる。
つまり、恐らく2人とも、好きな相手が生徒会の中にいる――
「とりあえず、まずは、片山さんは恐らく会長が好き、なんだろうな」
だからお兄ちゃんを取るな、とばかりに会長妹から噛み付かれる毎日、と。そしてヒロインに対しては生徒会長を奪われる事を恐れて、生徒会に近づくなとばかり多いにけん制する、と。
そりゃそうだよね、何処の誰とも知らない女が急に中に入って来て、しかもその女に意中の相手が猛アプローチかけ始めたら慌てるなんてもんじゃないもの。それで意中の相手が骨抜きになって、公私ともにいろいろ機能しなくなったなんていったら目も当てられない。
「佐倉さんは、副会長か会計が好き。だけどどっちが本命かはちょっと解らないな」
彼女がスーパーブラコンで、会長のことを好き好き大好き本気で男として愛してる、なんてウルトラCが無ければだけれど。さすがにそのあたりの常識は持っているであろう、ことを期待したい。切にお願いします。
まあでも、そんなウルトラCが無い状態で、会長の妹が生徒会に入り浸りたがる理由といったら他2人が好き以外の何があるというのだろう。そしてその2人(残念ながらどっちが本命かわからないけど)を取られるかも、と警戒するからヒロインの排除に入る……うん、全く持って当然の話としかいえない。
でも問題は私に生徒会の面々とねんごろになろうなんて意思は微塵も無いこと。しかしながら近づくと漏れなく3人とも好感度が爆上がりになること。
にもかかわらず生徒会内恋愛を成就させるには、どうしたって生徒会に近づかざるを得ないこと――
「……どうしよう物凄く不安になって来た」
カレンダーを見る。「私が何か」を自覚して、行動を始めて2週間。
あと3日で、4月9日。
……始業式の日。
全ての物語が始まる、その日――