誰か私に心を読むスキルをください
さらに1週間が経った。
プログラムのグラフに並ぶ名前はさらにぐんと減った。
それでもまだ攻略対象を含めて数十人ほどの名前は並んでいるけれど、明らかに数百人単位の名前が並んでいた当初と比べると随分と減った。
それもこれも両親とともにこれから入学する高校、すなわち物語の舞台となる高校に挨拶に行ったからに他ならない。他の攻略対象者と接触する危険性はあったけれど、入学手続き上どうしてもスキップする事などできない部分だから涙を飲んでついて行った。
そんなに行きたくないなら別の場所へ引っ越すなり他の高校行くなりすればいいじゃないとお考えの向きもいるだろうけども、今の私にとって少々それはハードルが高い。
引っ越す前ならいざ知らず、引っ越しを終え再受験も合格し転入手続きもある程度以上まで進んでしまっている時点で逃げ場など無いに等しい。
チキンと笑いたければ笑え。両親に迷惑はかけたくないんである。
対象攻略者に接触するかも、接触されるかも、という不安は、結果からいってしまえば杞憂におわった。
当然だ。春休みだ。
よっぽど赤点が込んでいて留年がかかっているという事が無ければ学校に来る事は無いだろう。あるいは部活動をしているか。
春休みにまで部活に参加しているという事はそれだけそちらに集中しているという事で、つまり校長先生をはじめとした先生たちへの挨拶等に来ていた私たちと接点などできようはずも無かった。
とはいえ、攻略対象者は一部を除き学校にいたらしい。
例の「他キャラの好感度が一定以上だと最初の出会いで好感度が超下がる&フラグがばっきり折れる」キャラこと皆川拓斗と、「全員の好感度を一様に下げようとするとちょっかいを掛けて来る」キャラこと真田明、さらに「他人のものを奪う事に喜びを見出す」変態こと柿崎芳樹。
いつ何処で見かけたか、あるいは見られたのか全く記憶に無いが、グラフに突然増えた棒たちが彼らの存在を如実に物語っていた。
まあでも、軒並み55%前後で推移している好感度の値を見る限り、然程気にしなくてもいいのかもしれないな、と思う。
特に本来ならばゲーム中盤にファーストコンタクトが来る皆川拓斗の好感度が他と同じく5・6割くらいの位置にあることにはほっとした。
好感度ががっつんがっつん上がる他のキャラと違って彼の好感度は本当に上がらない、というより減りやすい。上がる時は一気に上がるのだけれど、友人レベルである7割くらいまで持っていこうとする前に、大抵は他キャラの好感度の高さに邪魔されてほぼどん底、すなわち二度と関わらないで下さいレベルにまで減ってしまう。
実際物語の中で会う頃には誰か彼か好感度が高いのに囲まれているから、大体出会う前からして好感度は低め安定だし(噂や傍から見ていてどうこうということなのだろう)、それが接触した瞬間にさらにズドンと大幅に暴落するのは最早お約束に近かった。
「けど、誰かとくっつけろ、とか相談相手になれ、とか……そもそもある程度好感度無いと無理なんだけどなぁ」
そう、問題はここだった。
友達にはならないといけない。それも出来る限り親しい、「異性の友人」に。
だけれども恋人にはなってはいけない。振ればいいじゃないという問題ではなく、いわゆる異性に向ける感情というものをこちらに向けさせてはいけない。
好感度を上げすぎず下げすぎず、とはそういうことだ。
「相手の感情なんて知らないよ……どうコントロールすればいいんだっつの」
……というところまで考えて、ふと頭をよぎった疑問が1つ。
相手の感情云々も不明ではあるけれど、そもそも各々のキャラと本来くっつくべきだった相手、とは一体誰なんだろうか。