ループする世界の抜け出し方
この世界は神々の遊戯板でしかない、とはよく聞いた表現だけれども、それがいざ自分に降りかかるとなると――
「まさに悲劇でしかない、よねえ」
鏡を見る。
いつもの私。
そしてずっと前にも見たことのある私。
もっとずっと前にも。ずっとずっと前にも。……この世に生まれる、その前にも。
「乙女ゲームのヒロイン、ループする世界、繰り返される恋愛模様……ってほんと何でこんなことになってんの」
そう、この世界がゲームと同じ世界だという事を私は知っている。というか今思い出させられた。
本来「シナリオ」どおりに動くならば私がここで鏡を見ることは無かったのだけれども、ふと目に映りこんだのをしっかり二度見してしまったせいで。
同時によみがえった全ての記憶によれば、ここは「攻略の度合い」に合わせてループする世界で、ループを終わらせるにはトゥルーエンドとやらに行くしかなくて、でもトゥルーエンドとやらの条件が難しくてだから既に何周もループしていて、そして何よりも。
「私がヒロイン。……無いわー」
うん、無い。これは無い。
確かにかつてこのゲームの「外」に生きていた頃はゲーム大好きっ子だった、けれどもゲームと実際は違っていて当然なわけで。
自分がヒロイン、となると「よっしゃー全員攻略!二股三股当たり前、果てはハーレムも!」とかなる連中もいるようだけども、申し訳ないけれどもそんな頭も股も緩い連中とのお付き合いは本気で遠慮したい自分としては大変に厳しい。「この世界は私のためにある!」とか本気で頭沸いてるよなと思うし、そんなおめでたいおつむの持ち主をちやほやする男どもも男どもだ。
まあ鏡の中に移る自分は自分でもちょっと吃驚するくらいの天真爛漫系美少女だから、目はだまされるわなと思わなくは無い。中身がこんな残念系で大変に申し訳ない気はするけれど。
とはいえ世界のヒロインに設定されていようが何だろうが、ちやほやされるのが嫌だというならば出会わないようにするとか向こうのテリトリーに近づかないとか、とにかく避ければいいと思われるだろう、が。
「……問題は私がモテ過ぎるということか」
はいそこ引かない。これにはちゃんと原因があるのだ。
『ファスト・ラブ~気軽に恋愛してみませんか~』。この何ともいえないタイトルのゲームがこの世界の大元だ。
ゲームをやった事が無い超ビギナーからヘビーゲーマーまですべて満足させてみせます、が売りだった。大仰な売りのわりにやっていたことは攻略キャラを大幅に増やし、かつその攻略難易度を超簡単なのから超難しいのまで振るというだけだったけれども。
ただしメーカーが上手かったのは「超簡単に攻略できるキャラがいる」に「ちょっと攻略難しいキャラ」を掛け合わせることで「攻略するとか無理じゃね」キャラを生み出すという手を取った事だ。
ほら、現実でもいるじゃないですか。人の彼氏彼女奪いたがる人がいる一方で、思い人に彼氏彼女いる事が解ったらその思いごとさっぱり冷めちゃう人。あるいは誰ぞが多数の異性に囲まれてるのを見たとして、『何だアレ』という珍獣扱いしか出来ない人。かつての私がそうでした。
で、そういうキャラがいるのだ。別に隠しでも何でも無いから「出会う」だけならいくらでもできる。しかしその時に他キャラの好感度が一定以上になっていたらその場でフラグはばっきり折れ、二度と攻略はできないどころか徹頭徹尾「その他大勢」扱いをされる。
……が、問題はヒロインに対しゲーム開始時から好感度MAXなのが既に複数いること。さらに接触した途端に好感度が一定ラインを超えるのが複数いること。好感度を落とそうとすると逆に上がるという天邪鬼タイプも若干名。あげく1人に絞ろうとしたら今度はそれまで興味も示していなかったのに好感度が勝手に上がって襲いに来るのもいれば(人の彼女奪いたがる系)、全員の好感度をイーブンに落としても「かわいそうに俺が構ってやんよ」なのが登場する。
もっとも後者は条件が揃っていても出会わなければいいという逃げ道があるのでどうにかならなくは無いけれども。
何れにしても厄介すぎるキャラの面々、こいつらをまずどうにかしないと詰む。必ず詰む。
クリアするだけなら確かに楽勝、だけどもやり込むとなると凄まじく大変というのがこのゲームの特徴だった。
そして肝心のトゥルー・エンドであるが。
ここまでの話で行くならば「上記の攻略最難関キャラを落とす」あるいはいわゆる「ハーレム・エンド」がトゥルーだと思いませんか。思いますよね。……違うんである。攻略キャラのバリエーションをこれでもかと作りウルトラC級の攻略ルートを多種多数に作ったメーカーが設定したトゥルー・エンドは、何と
攻略キャラ全員の恋のキューピッドになる
……ちょっと待ってこれ乙女ゲームで恋愛ゲームで私ヒロインですよね?