表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅する二人は  作者: cc4966
7/7

第七行:凍てつく大地

労働基準法によって定められているのは「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準」だそうです。

 暖炉で薪がパチパチとはぜる。はぜながら刻々とその色を白化させていく。

 窓の外に見えるは雲ひとつない闇色。ひどく寒々しい、針葉樹の森。

 ここで少し待って欲しい。

 …………、……。

 やっぱりもう待たなくていいや。待ったところでなにひとつ変わらないのは明々白々だ。

 理解した。


 ここはロシアだ。


 昨日エジプトへ行くと言われていたのだが、この際気にしない。どこだろうとなんら変わらない。日本ではないというだけで十分過ぎる。だから──気に、しない。


「いやいや、気にするだろ」


 独り呟いた。なんだろう、少し虚しい。

 出発するまで、否、ここに到着するまで俺はエジプトへ行くつもりだった。つまりは三時間前まで。

 いつもチケットは直前に渡される。しかも特に考えもせずに乗ってしまうのだ。なんかずいぶんと緑だなぁ、エジプトの方って意外と森あるんだな、とか思っていたら、


 なぜかロシアに着いた。


 どうでもいいけど──何もかもがどうでもいいけど今は寒くて仕方がない。熱源は見ているだけならほのぼのする暖炉だ。

 が、暖炉しかないのはなぜだ。

 というかなぜ暖炉がある?


「ココア飲む?」


 俺をここに連れてきた張本人の登場だ。実はさっきからずっといる。寒くないのだろうか。椅子に座って読書中である。


「飲む。凍え死ぬ」


 しばらくして彼女がココアを手に戻ってきた。それを受け取り一口飲む。

 火傷した。


「ココアパウダーの賞味期限切れてた」


 そういうことは飲む前に言って欲しかった。

 いやいや。どうせ飲んだだろうから言わないで欲しかった。

 何か言おうかとも思ったが今日は寒くて話す気力が出ない。

 暖炉の真ん前に座ってココアをすする。

 暖炉からの音に眠気を誘われる。


 ……。


 …………。


 ………………。


「ん?」


 寝ていたらしい。振り返ると彼女が椅子の上で毛布を被って寝ていた。椅子の手摺にはココアが入っていたカップがのっている。

椅子のわきに本が転がっている。

『労働基準法』

 一体何がしたくてこんな本を読む?

謎だ。それにこんなに頻繁に海外に出掛けて金がなくならないのも謎だ。俺が引っ張り回されるのも謎だ。


「あー、そうか」


 彼女はきっと会社を経営してるんだ。なるほどなるほど。だから労働基本法か。納得だ。

 うむ。意味がわからねー。大分脳が停滞している。

 また寒くなってきた。

 薪を二、三本暖炉に突っ込んだ。

 しばらくそれを眺めた。

 今更のように時計を見ると二時だった。午前二時。確か丑三時か?

 後ろの彼女は眠ったまま。

 こうやって見ると、とても絵になる。


 暖炉の前。

 椅子に座る少女。

 毛布を被り眠る。

 手元にココア。

 近くには本。


 まるで──

 そう、


 まるで、凍え死んでいるようにみえる俺の思考回路は一体なんだろう。

なんとなくそれなりのペースで更新しています子のシリーズ。まあ、細かいところにも大きなところにも突っ込まないでください。

そんな感じで今回は「暖炉」「ココアパウダー」「労働基本法」でした。

次回は「アッサム茶」「十和田湖」「エンドロール」です。

多分滅茶苦茶になります。それでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ