第六行:疑問
バージンロードは日本語です。英語では"aisle"です。
「ところでバージンロード──」
「うん?」
「…………」
いや……。
黙らないでよ。
会話の途中ですよ。少なくとも俺はそうだと思っていますよ。
「主語だけじゃわからないよ」
「だから、光化学スモッグが酷いなぁって」
絶対違うだろ。
まぁ、その奇奇怪怪な言動にもそろそろ慣れた。そのうち突っ込みも忘れてしまいそうだ。つまるところ人間としての機能が徐々に失われているのである。主に大脳が日常生活において外界への興味ないしは関心を失いつつあるのだ。
いやいや、言っていて意味が分からないぞ。そもそも大脳ってそういう機能持っていたのだっけか。
「そりゃメキシコシティって言ったら光化学スモッグだよ」
「日本語なんだね」
おい、今どこに対するコメントをした? 俺の記憶と認識が確かならずっと日本語の会話だったと思うのだが。
「そうそう。怪我全治したよ」
知ってるよ。それを今頃言うのか。
飛行機に乗ってた数時間とか、外出もせずにトランプに興じていた数十時間とか、今までに何度機会があったことか。
「それでね、お祝いにどこか行こうと思うの」
「今ここにいるのはどうしてだ?」
もう既にメキシコなんていう地の果てまで来てるのだが?
「リハビリって言うらしいの」
なるほどなー。
言葉って便利だな。意味がわからなくても成り立つもんな。
「問題! 1600年に起きた事件を答えよ」
……やっぱり慣れないよな。
どこから湧いてくるのか、この唐突さ。
俺もびっくりである。
「イギリス東インド会社設立だな」
「そこは普通関ヶ原の戦いって答えるよ」
あぁ。まさかこいつに普通を諭されるとは。
世も末……世も末? なんか違う気がするな。論点が違うというか視点が違うというか、基点が違うというか……、自分は一体何を考えているのだろうか、とか。
ってかここ二週間でいろいろ旅行してるよな。……ん? 待て待て。どうしてだ? 確か俺はこいつの悩み相談をするつもりだったんだが。いや、それすら怪しくないか?
「まぁ、いっか」
「何か言った?」
おっと、考えを口に出すとはなんとも愚かな。
「なんでもないよ」
「あ、次はエジプトに行くよ」
暑いのは嫌いなんだがな。
しかも『行こう』や『行く?』ではなく、既に決定事項として扱われていることには何か反論しておくべきだろうか。
ああ、もうどうにもなりませんね。
今回は「バージンロード」「光化学スモッグ」「東インド会社」でした。
次回、「暖炉」「ココアパウダー」「労働基準法」です。お楽しみに。