第二行:味気ない日々
ヒロインに話が通じないのは仕様です。
「地球儀って丸い」
丸くない地球儀ってあるのだろうか。あるとすればそれは不良品だ。返品することを奨める。
俺は目の前に出された水入りのコップを睨みながら思った。
「地球って丸いのねー」
なんでこんな話してるんだ?
思い出してみても、ここで会話をする理由は思い当たるが、こんな会話をする理由は見当たらないぞ。
待て待て、よく考えたらクラスの女子の家にいるってのもおかしな話じゃないか? とすると『ここで会話する理由』すら危うくなってくる。
「なんか反応してよ」
どうしろと?
「明日のレク、だるまさんころんだだってね」
やっとまともな話題だ。いや、というよりは既に“まとも”の基準が狂ってしまっている気もする。
「らしいね。でも高校に入ってだるまさんころんだやるとは……」
「いいじゃん。楽しいと思うよ?」
果たしてそうだろうか。
俺にはクラスメート達──特に一部男子が、楽しそうにだるまさんがころんだをしている光景には生理的な忌避感を覚えるのだが。
「でもさ、他に選びようってものがあるじゃんか」
「南アメリカと北アメリカってよく繋がってるよね」
壮絶に無視された。
だから会話しようよ? な? 地球儀はもういいからさ。なんでそんなくるくる回し続けてるのさ。確か俺は悩み相談に呼び出された筈なんだがな?
しかし、まさか本当に相談されるとは思っていなかったが。
「あ、クラッカー食べる?」
答えも聞かずに棚からに頭突っ込んでるし。水じゃなくてワインだったら良かったんだけどな。
「水とクラッカーじゃ果てしなく味気ないからいらない。それよりはやく本題に入らないか?」
ガサゴソと音が聞こえてくる──けど、君は一体何をしていらっしゃるので?
あー、なんかもう相談になりそうもないなぁ……。
「マーマレードいる?」
そもそも相談する気あるのか? 何を相談する気なのか知らないけど。
「じゃあ、貰うよ」
それならまだクラッカーに合うだろう。
もう、どうとでもなってくれ。
「クラッカーないけどね」
どうしてだ!?
今回の話は、まあ──察してください。だるまさんころんだを中心にもってくれば何とかなったのかな。
三題で書いているこのシリーズ。
今回は「地球儀」「だるまさんがころんだ」「マーマレード」でした。
次回は「風鈴」「入道雲」「おせち料理」です。