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計画その2 子供と撮る

 デパートの外部には公園がある。デパーに買い物をしに来る親子のために設立されたもので、親が買い物をしている間、子供はそこで遊べるようになっていた。

 麦わら帽子をかぶった一人の少年が、蝉を追って公園を走っていた。少年に追われていた蝉は、大急ぎで羽を羽ばたかせて、一本の木にとまった。少年は木に近づくと、ゆっくりゆっくりと木の根本へ歩み寄り、そしてサッと持っていた網で、木に掴まっていた蝉を捕まえた。

 俺はそんな無邪気な少年を見て、心を揺るがせた。俺にもそんな時代があったのだと改めて実感した。でも今日はそんな甘い考えではいけない。

 その子がターゲットだ。

 俺は黒いサングラスをかけて少年に近づいていった。少年は自分の危機が迫っていることも知らず、捕った蝉を夢中で虫籠の中に入れていた。

「蝉捕えるのうまいね」

 俺が少年にそう呟いた瞬間、少年はビクッと体を震わせた。青ざめた顔で俺を見た少年は唇を痙攣させ、妖怪を見るかのような目つきで、俺のことを睨んだ。

「ちょっと見せてよ、その蝉」

 俺は少年に手を伸ばした。少年は俺のサングラスに隠れた瞳が、悪の色に染まっていることを悟ったのか、無言で俺に虫籠を渡そうとした。

「!」

 少年は目を見開いて、恐怖で怯えている様子であった。それもそのはずである、俺は虫籠を掴むことをやめ、少年の腕を握りしめたからである。

 次の瞬間、俺はポケットから、小さなナイフを取り出した(しかしそのナイフは、祭りで買った、刃が柄に引っ込む玩具)そして、少年に見せた。

「何も言わずについて来い! いいか、今からお前は俺の弟だ。もしそれが出来ないようだったら……わかるよな?」

そう言って、俺は少年にわざとらしくナイフを見せつけた。少年は一度息を飲み込むと、黙って静かに頷いた。

 俺と弟は、仲良く(偽り)手を繋ぎ、仲良く(偽り)ゲームセンターにやってきた。蝉の入った虫籠は、邪魔になるからといって、弟から受け取り(偽り、訂正・奪うと)公園のベンチの下に置いてきた。そのことが気になるのか、弟は心配そうに周りを気にしていた。

「プリクラ撮ろうか」

 俺の一言に、弟は素直に(偽り、訂正・一瞬躊躇ったが、俺のナイフを見てしぶしぶ)頷いた。

 肌をこんがりと焦がしたアボリジニー風の女二人の写真が印刷されたプリクラを選び、その内部へと潜入した。そのあと俺は、弟の身だしなみに気を配った。

「お前、帽子とれよ」

 俺は何となくそれが気になった。弟は(多分)お気に入りの麦わら帽子を取られるのが嫌だったのか、首を横に振った。でも俺の「取らなきゃ殺るよ」という優しい言葉で弟は納得した。

「えっ!」

 少年が帽子を取ったとき、俺は嫌な予感がした。この少年、どこかで見たことがある。俺の頭の中で、記憶が渦を巻いて激しい螺旋を形成し、走馬燈のように記憶がどんどん蘇っていった。そして、おとといの華麗なる戦いのワンシーンが思い出された。

 戦闘の第三幕のときである。俺は雑誌を買ってきた少年を拉致し、雑誌を読もうとしたときだった、それを遮るかのように、少年の父であるやーさんが現れた

そう、その時の少年と弟は同一人物なのだ。

「なぁ……お前もしかして」

 俺がそう言うと、少年は、小さく頷いた。

 最悪だ。

 まさかおとといと同じ少年を拉致ってしまうなんて! 普通の少年ならそれでもいい、最もその方が、俺の怖さを知っているのだから、何でも言うことを聞くのであろう。しかしこの少年はまずい。バックには、何とか組とかに入っていそうな親父がいるのがわかっているのだから! 

「なぁ……ひょっとして、今日も……?」

 お父さん来ているのか? そう続けて聞こうとしたが、少年が返事をする前に、その難問は解けてしまった。質問の答えは……イエスだ。

「われ! わしの倅に何しとんじゃ!」

 聞き覚えのあるドスの効いた声が、耳に届いた。プリクラのカーテンを開き、少年の親父であるやーさんが現れた。

「いや、その……」

 俺は目に見えて怯えていたと思う。先日もこの状況に陥ったが、雑誌に炭疽菌が挟まっていたから、という何とも不思議な嘘をついて、やーさんを騙すことで、その場を回避できた。

 だが、もし仮に、少年が昨日あった事実をこのやーさんに言ってしまっていたのなら、俺の人生は、きっとここで終わってしまう。俺は神に身の安全を守ってもらいたかった。

 しかし、自分の首を自分で絞めるような行動をしてしまった。額に流れた冷や汗を腕で拭おうとしたとき、サングラスが引っ掛かり、顔から外れ、下に落ちてしまった。

「お、お前!」

 一瞬にして、やーさんの目の色が変わった。

 終わりだ!

 俺が心の中で死を覚悟した刹那、驚くべき出来事が起こった。やーさんが俺をその厚い胸の中へ抱え込んだのだった。俺は優しさと汗臭さが充満する抱擁の中で、何がなんだかわからなく、逆に恐ろしくなっていた。

「あれ……」

 俺が必死に彼の牢屋から逃げ出そうとしていると、俺の肩を握り、嬉しそうに俺を見つめた。鼻息が荒く、俺は彼から出る排気ガスを避けることで精一杯だった。

「この前はありがとな! 研究上手くいっているか?」

 しめた! こいつはまったくわかっていない! どうやら少年は、俺がやったことを、この馬鹿に説明していないらしい。

 俺は命拾いをしたその瞬間、緊張の糸がプッツリと音を立てながら切れるのがわかった。こうなれば、あとは俺の世界だ。

「あなた方のお陰で、いい研究が出来ましたよ。本当に心からお礼を言いたいです。今何しているのか疑問に思いましたね? これはですね、その研究を手伝ってくれたこの子の写真を撮って、毎週うちの研究室が編集している『研究のススメ』という新聞に載せようと思っていたんです。ですが、あの時は急いでいたので、写真を撮ることが出来ず、その上、住所を聞くことも出来なかったので、後悔していたんです。しかし、たまたま公園を通り過ぎようと思ったときに、この子がいたのに気が付きまして、本当はカメラで撮りたかったんですが、あいにくカメラを持っていなかったんで、一緒にプリクラを撮ろうってことになったんですよ」

 そうか、そうか。そう言ってやーさんは笑顔で少年の頭を撫でた。

「……わしも写ってよいか?」

 は? 俺は思わず顔を顰めた。あんたずうずうしいな! 確かにあんたはこの少年の保護者だけど、あんたみたいなやばそうな面、写したくないよ! そんなことも言えず、俺はやーさんをカーテンの中へ招いた。 どうやって撮るんだ? カメラはどこだ? シールになったらどこから出て来るんだ? などと、やーさんは終始質問してくるので、俺は嫌々全ての問いに答えていった。

機械が『カシャッ』という子供騙し的な効果音を発音し、三人の停止した姿が、画面上に写し出された。 こんな歳で初体験を経験したやーさんは、満面の笑みでピースをしている。かたや俺と少年は、別々の私情で顔を暗く曇らせていた。



「今日は楽しかったぞ。この紙に住所書いたといたから、新聞が出来たら持って来んしゃい」

 そう言って、やーさんと少年は、親子仲良く(少年はいまだに怯えているが)ゲームセンターから出て行った。俺は彼らの後姿を見ながら、途方にくれていた。

「……どうしようか」


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