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美食聖女の建国記 〜ポンコツ令嬢は今日も腹ペコ〜  作者: にゃん


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第四話 究極の債務整理(プロポーズ)


 帝国の宮廷会議室。グロム帝国の第一王子エドワードは、目の前に突きつけられた経済指標チャートを見て、目眩を覚えていた。


「……何だ、この右肩下がりのナイアガラ・フォールは。我が国の国力は、どこへ消えた?」


 財務卿が震える指でグラフの底を指す。 「殿下……。アイゼングレイズ家の令嬢が戦車を一台粉砕するたびに、その残骸はアイゼン殿のクランに回収され、イザベラ夫人が運営する商会を通じて、我が国に『新品の鉄材』として三倍の価格で売り戻されています。……現在の我が国の金貨の三割が、彼女の『食費』および『おやつ代』として、アイゼングレイズ家の個人口座に還流しております」


 エドワードは眼鏡を外し、目頭を押さえた。 「……つまり、このまま戦い続ければ、我が国は彼女の胃袋の中で消滅するということか。……最早、手段は一つ。ルナ・アイゼングレイズを我が国に迎え入れ、アイゼングレイズ家と『連結決算』を行うしかない」


 かくしてエドワードは、国家の存亡をかけた「究極の合併プロポーズ」のため、白馬に跨り(もちろんその馬具もアイゼングレイズ商会製である)、学園へと乗り込んだ。


 聖アルカディア魔導学園の中庭。ルナは、カイルが数日かけて仕込んだ「超高密度魔導ミルフィーユ」を、幸せそうに頬張っていた。一噛みするごとに魔力の火花が散り、ルナの細胞一つ一つが歓喜に震える。


「……ふふ、カイル様。このパイ生地の重なり、わたくしの重力魔法よりも緻密ですわ」


「光栄です、ルナ様。……おや、お客様のようですね」


 カイルの視線の先、豪華な騎士団を従えたエドワード王子が、跪いて薔薇の花束を差し出した。


「ルナ・アイゼングレイズ! 我が帝国の太陽よ。これ以上の争いは無益だ。我が国の正妃として君を迎えたい。君が来れば、帝国の広大な穀倉地帯も、国庫の金貨も、すべて君のもの。……毎日、最高級の晩餐を約束しよう!」


 ルナはミルフィーユを咀嚼する手を止め、不思議そうに瞬きをした。 「……国庫を、わたくしに?」


「そうだ! 君が食べたいものを、国を挙げて用意しよう。どうだ、悪い話ではないだろう?」


 ルナの瞳が、一瞬だけ揺れた。 (……帝国の全予算が、わたくしの『自由な肉代』に。……それは、お母様の厳しい家計管理から解放される、唯一の道かもしれませんわ)


 しかし、その刹那。背後のカイルから、物理的な「殺気」を伴う絶対零度の空気が放たれた。  カイルは無言のまま、手に持っていた「特製飛龍のカツレツ」を重力魔法で加熱し続け、ソースを真っ黒に焦がしている。


「……そうですか。帝国の国庫、ですか。僕が昨日、三日三晩寝ずに仕込んだ『魂のデミグラスソース』よりも、帝国の冷たい金貨の方がお口に合いますか」


「カ、カイル様!? 違いますわ、わたくし、ただの比較検討を……!」


「いいんですよ。僕はただの、野蛮なクランマスターの娘に雇われた、しがない給餌係ですから。どうぞ、王宮のシェフに『栄養計算だけは完璧な、味の薄いフルコース』でも作ってもらってください」


 カイルが静かに背を向けた瞬間、ルナの脳内に、帝国崩壊以上の警報が鳴り響いた。  帝国全土の肉よりも、今目の前でカイルが怒りに震えながら持っている「焦げたカツレツ」の方が、彼女の魂には不可欠なのだ。


「――待ちなさい、エドワード王子!」


 ルナは、跪く王子の襟首を、重力魔法で強化した腕力で鷲掴みにした。


「わたくしのカイル様を不機嫌にするなんて、万死に値しますわ! 貴方の国の国庫なんて、お母様の帳簿の上では、ただの『はした金』に過ぎませんのよ!」


「な、なんだと……!? アイゼングレイズ家は、一国よりも富んでいるというのか!?」


「当たり前ですわ! わたくしを養えるのは、世界中でカイル様の料理だけですの! ……お父様! 回収(ガサ入れ)の時間ですわ!」


 ルナの合図で、中庭の木々からアイゼンが、整然とした足取りで現れた。その顔には、娘に手を出し、かつ料理人を怒らせた無作法者への、静かな憤りがあった。


「エドワード殿下。……娘が失礼した。だが、貴殿の馬車は通路の邪魔だ。……騎士道に基づき、我々が適切に『処理』させてもらおう」


「ま、待てアイゼン殿! その馬車は純金製で――」


「素材の質は我々が鑑定する。野郎ども、梱包だ。傷一つ付けるな。イザベラが相場を決めるまで、一点の曇りもなく保管しろ!」


 アイゼンのクラン員たちが、手慣れた手つきで王子の資産を剥ぎ取っていく。通信機からは、本邸でワインを傾けるイザベラの冷徹な声が響いた。


『エドワード殿下、聞こえますかしら?……今回の無断侵入、および我が家の専属料理人に対する精神的苦痛の賠償として、帝国の「南方の穀倉地帯」の権利を頂戴いたしますわ。……ふふ、これでルナの来年のデザート代も、我が家の直轄運営(自給自足)になりますわね』


 王子は、靴すら「希少なドラゴンの皮」として没収され、裸足で国境まで走って逃げ帰ることになった。


 騒動の後、ルナはカイルの袖をそっと引き、上目遣いで彼を見つめた。 「カイル様……。あの、さっきのカツレツ、焦げていても構いませんわ。わたくし、カイル様が焼いてくださるなら、それが石炭であっても美味しく頂けますの」


「……ルナ様。……次は焦がさないように気をつけます。その代わり、一生僕以外の人から肉を貰おうなんて、思わないでくださいね?」


「はい……! もちろんですわ!」


 アイゼングレイズ家。  娘の愛、父の回収、母の運用。  それらすべてが組み合わさり、今日も一つの帝国が、ルナの食卓の「付け合わせ」程度にまで買い叩かれるのであった。

第4話まで読んでいただいてありがとうございます。次はいよいよ完結です。もしも続きを読みたいという方がいればがんばって続編を考えてみます。

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