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美食聖女の建国記 〜ポンコツ令嬢は今日も腹ペコ〜  作者: にゃん


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第二話 アイゼングレイズ・リサイクル・ロード


 アイゼングレイズ王国の北端、聖アルカディア魔導学園の演習場に、鈍い地響きが響き渡った。  国境線の向こう側から現れたのは、グロム帝国の誇る「重装魔導戦車」の一隊。鋼鉄の塊が黒煙を吹き出しながら進軍する様は、並の騎士であれば足をすくませる威圧感に満ちていた。


 しかし、学園のテラスで優雅に紅茶を啜っていたルナは、その音を聞いた瞬間、ティーカップをそっとソーサーに戻した。その瞳には、恐怖ではなく「品定め」の光が宿っている。


「……あら、今日の帝国の方々は、クロム合金の含有率が高そうな『輝き』を放っておられますわね。カイル様、いかがかしら?」


 傍らに控えるカイルが、鋭い視線で戦車隊をスキャンするように見つめ、静かに答えた。


「ええ、ルナ様。あの戦車のエンジンに使われている魔導触媒は、高温での精錬に耐えうる極上品です。……あれを調理場の魔導コンロの芯材に転用すれば、じっくりと火を通す『飛龍のハラミの低温ロースト』が、今の三倍は美味しく仕上がるかと」


「三倍……! それは、見過ごせませんわ」


 ルナは、傍らに立てかけてあった巨大な鉄傘を手に取り、ふわりとテラスから飛び降りた。  着地と同時に、ルナの周囲の重力が「変質」する。  彼女が傘を一振りするたび、帝国の戦車はまるで巨大な見えない手に押し潰されるように、その砲身を曲げ、車体を歪ませていく。


「はぁっ!!」


 ルナの動きは、舞踏の如く美しかった。  それは単なる破壊ではない。彼女は、カイルが言った「エンジン部」や「触媒」に傷がつかないよう、最小限の打撃で戦車を「解体」していたのだ。


 その光景を、演習場の外縁で直立不動の姿勢で見つめる男がいた。  アイゼングレイズ家の主であり、元王国騎士、現在は物資回収クランの長を務めるアイゼンである。


 彼は無精髭を綺麗に剃り込み、手入れの行き届いた革の甲冑を纏っていた。 「……素晴らしい。ルナ、実に洗練された一撃だ」


 アイゼンは右手を高く掲げ、控えていた回収員たちに、騎士のような厳かな声で命じた。 「全員、傾聴せよ。帝国が国威をかけて作り上げた傑作たちが、今、役目を終えて地に伏した。……彼らの魂を泥に塗れさせておくのは、騎士の礼に反する。……一台残らず、丁寧に『救出(回収)』し、我が家の精錬所へ送り届けよ」


「「「はっ!!」」」


 回収員たちは、軍隊さながらの規律正しい動きでスクラップの山に駆け寄り、魔導クレーンを操って残骸を運び出していく。彼らにとって、これは「略奪」ではなく、資源を循環させるという「神聖な任務」であった。


 その頃、本邸の書斎では、お母様・イザベラが羽ペンを走らせていた。  彼女の目の前には、帝国の軍事相場と、アイゼングレイズ家の食費、そして夫のクランが回収した資材のリストが並んでいる。


「……あら、あなた。今日の回収品は、なかなかの上物でしたわね」  通信用の魔導具から聞こえるアイゼンの声に、イザベラは満足げに目を細めた。


『ああ。ルナが綺麗に落としてくれたおかげで、歩留まり(ぶどまり)は最高だ。……イザベラ、これなら来週の「マンモス牛」の輸入資金に十分か?』


「ええ、十分すぎますわ。……ついでに、この鉄材を中立国の商人を通して、また帝国に買い戻させましょう。彼ら、また新しい戦車を作るための素材がなくて困っているようですから。……ふふ、利息は少し多めに積ませておきましたわ」


 これこそが、アイゼングレイズ家の「鉄鋼円環経済」である。  武骨で紳士的な父が戦場で「素材」を慈しみ、知略に長けた母が「市場」を操り、そして空腹の娘が「現場」で傘を振るう。


 戦いを終えたルナは、学園の厨房でカイルが用意した「最高密度のスープ」を口にしていた。   「……ああ、五臓六腑に染み渡りますわ……」


 ルナは、自分の戦いがお母様の「経済の刃」となり、お父様の「騎士の務め」となっていることなど、露ほども知らない。  彼女の脳内にあるのは、明日のお肉がどれだけ分厚くなるか、ただそれだけである。


「カイル様。……わたくし、もっともっと頑張りますわ。お父様のためにも、お母様のためにも、そして何より……わたくしの、お腹のために」


「ええ、ルナ様。……あなたのその食欲が、この世界の経済を回しているのです。誇りを持って、召し上がってください」


 カイルは恭しく一礼し、二皿目のステーキをテーブルに置いた。  それは、帝国の一個小隊の予算を溶かして作られた、贅の極みであった。

第2話でルナ様が「鉄クズを売って肉を買う」と決意しましたが、彼女の脳内シミュレーションでは、既に「帝国軍の主力戦車1台 = 特上カルビ300人前」という独自の換算レートが出来上がっています。 彼女にとって、敵の進軍は「出前がやってきた」のと同じ意味なのかもしれません。


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