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美食聖女の建国記 〜ポンコツ令嬢は今日も腹ペコ〜  作者: にゃん


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第一話 鉄傘の淑女と、おにぎりの誓い

数ある作品の中から、本作を見つけていただきありがとうございます!


この物語は、 「戦車をも簡単に破壊する最強の食いしん坊令嬢」と、「彼女を胃袋から支配する独占欲強めな料理人」による、 美味しくて少し物騒な建国ファンタジーです。


敵兵器をスクラップにして再販する「ブラック経済」や、飯テロ描写、そしてちょっぴり甘い主従関係を楽しんでいただければ幸いです。


それでは、アイゼングレイズ家の「食卓」へ行ってらっしゃいませ!

その日、アイゼングレイズ男爵領の国境線は、鋼鉄と火薬の匂いに支配されていた。  隣国・グロム帝国の最新鋭魔導戦車師団。地響きと共に現れたその鋼鉄の怪物たちは、平和な農村を蹂躙せんと、その禍々しい砲口を一斉にこちらへ向けていた。


 その絶望的な光景の前に、一人の令嬢が立っていた。  ティターニア・ルナ・アイゼングレイズ。  銀糸のような髪をなびかせ、泥の跳ねたドレスの裾を優雅に持ち上げながら、彼女は不釣り合いに巨大な「鉄傘」を手にしていた。アイゼングレイズ家に代々伝わる聖遺物であり、呪いの武具――鉄傘「アイゼン・ガイスト」。


「――わたくしの愛する領地を、これ以上汚さないでいただけますかしら」


 ルナが鉄傘を地面に突いた瞬間、大気が軋んだ。  彼女の細い腕が傘を一振りするたび、周囲の重力密度が異常な数値まで跳ね上がる。  ドォォォォン!! という衝撃波と共に、帝国の誇る重装甲が、まるで巨大なプレス機にかけられた空き缶のように無残にひしゃげた。


「はぁ、っ……!!」


 一秒間に十回。  正確無比かつ暴力的な連撃。ルナの意識は、鉄傘と完全に同調していた。だが、振るえば振るうほど、彼女の体内では「異変」が起きていた。  この鉄傘は、凄まじい破壊力を生む代償として、装着者の生命エネルギーを――脂肪を、糖質を、血液の一滴までもを「燃料」として喰らうのだ。


 最後の戦車をスクラップの山に変えた瞬間、ルナの視界が急激に暗転した。   (……ああ。また、これ……。意識が、遠のいて……)


 内臓が焼け付くような、殺人的な空腹。  それは「お腹が空いた」という生易しいものではない。全身の細胞が悲鳴を上げ、自らを食いつぶそうとする飢餓の猛り。ルナの手足はガタガタと震え、握っていた鉄傘が重りとなって彼女を地面に引きずり下ろす。


 ルナは戦車の残骸の影に隠れ、泥の上にへたり込んだ。  公爵令嬢として、淑女として、誰にも見せてはならない姿。  だが、朦朧とする意識の中で、彼女の瞳は敵兵が落としていった、泥まみれの「乾パン」を捉えていた。


(……はしたない。わたくし、なんて浅ましい。あれを、口にしてしまえば、もう……)


 涙が溢れ、泥に汚れた頬を伝った。  最強の武力と、あまりに惨めな代償。自分は守護者などではなく、ただの「飢えた怪物」ではないのか。そんな絶望に沈もうとした、その時だった。


「――そんな泥のついたものは、あなたの口に相応しくありません」


 頭上から降ってきたのは、静かだが凛とした少年の声だった。  ルナが顔を上げると、そこには見習い士官の制服を着た少年――カイルが立っていた。  彼はルナの前に跪き、自らの真っ白なハンカチで彼女の泥をそっと拭った。そして、懐から大切に包まれた「何か」を取り出した。


「これを。……まだ、温かいですよ」


 竹の皮を解くと、現れたのは真っ白な湯気が立ち上る、握りたての大きなおにぎりだった。  炊き立ての米の、甘やかで清潔な香り。それがルナの鼻腔をくすぐった瞬間、彼女の生存本能が激しく打ち震えた。


「カ、カイル様……。わたくし、このような……無様な姿を……」


「いいえ」


 カイルは首を振った。  彼は見ていた。誰もが「銀髪の悪魔」と恐れた彼女が、一振りごとに肩を震わせ、苦痛に耐えながら世界を守っていたことを。


「あなたが食べた分だけ、救われた命があるんです。はしたないなんて、絶対に言わせない。……あなたは、世界で一番誇り高い、僕の聖女様だ。……さあ、食べて」


 ルナは、縋るようにそのおにぎりを受け取った。  指先に伝わる温もり。一口、かじる。    ――衝撃が走った。    絶妙な塩加減が、細胞の隅々にまで染み渡る。噛みしめるほどに米の甘みが爆発し、中からは丁寧にほぐされた塩鮭の濃厚な旨味が溢れ出した。  カイルの魔力が込められたその米は、ルナの空っぽの胃袋を優しく、しかし確実に満たしていく。


「……っ……おいしい……おいしいですわ、カイル様……!」


 ルナは人目も憚らず、おにぎりを頬張った。  涙がボロボロとこぼれ落ち、おにぎりを濡らす。それでも彼女は止まらなかった。  カイルは、そんな彼女を嫌悪するどころか、慈しむような、聖母のような眼差しで見守っていた。


「これからも、あなたが戦うなら、僕があなたの胃袋を支えます。一生、飽きさせることはありませんから」


 その言葉が、鉄傘の冷たい重みで凍りついていたルナの心を、熱く溶かした。  ルナはこの時、確信した。  この少年の作る料理を一生食べ続けるためなら、どんな「鉄クズ」でも作ってみせると。


(……決めたわ。わたくし、この人を、離しませんわ!)


 数分後。  父・アイゼンがクラン員を連れて駆けつけた時には、そこにはいつものように、凛として微笑む「無敵の令嬢」と、彼女に寄り添う一人の少年の姿があった。


「お父様。スクラップの回収は終わりましたかしら? さあ、帰りましょう……わたくしたちの、美味しい夕食へ」


 こうして、世界最強の「食欲」と、それを支える「究極の料理人」の伝説が、幕を開けたのであった。

第1話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


記念すべき最初の一皿(一話)は、カイル特製の「おにぎり」でした。 最強ゆえに飢えていたルナ様が、ようやく安らげる場所を見つけた瞬間です。


次回からは、そんな二人のもとに「騎士道の塊だけどリサイクル業者なお父様」や「大陸の経済を牛耳るお母様」も合流し、アイゼングレイズ家の快進撃(と暴食)が加速します。


第2話:アイゼングレイズ・リサイクル・ロード


敵の戦車がどうやってルナ様の「肉代」に変わるのか……その驚愕のシステムをお楽しみに!


【読者の皆様へお願い】 もし「おにぎり美味しそう!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、 下にある【ブックマーク】や【ポイント評価(☆☆☆☆☆)】をいただけると、執筆の大きな励み(ルナ様のカロリー)になります! よろしくお願いいたします。

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