劇場版・魔法少女(♂)!?マジカルバンピー!! -ロストメモリーズ(後編)-
まさかの事態ではあった。
マナがオーバーフローしたことにより、思いもかけず『集団出産』となってしまったわけだ。
それでも、14年ぶりの出産となったセイヤも、クラムディオ戦に続いてのいわば『巨大児出産』だったユイトも、
そして二人と共鳴しあった街中の産婦さんたちも、みんな無事に出産を終えることができたのは何よりのことだった。
景色の共有も終わり、また部屋の中は四人だけになったところで、
ユイトはなんとなく疑問に思っていたことを、ガーディアンたちにぶつけてみた。
「ねぇ、ブンベ、ジョーさん」
「ん?どうしたの、ユイトくん?」
「なんだ?なんか気になることでもあったのか?」
「いや・・・その・・・そういえば、この産まれてきたマナって、どうなってるのかな、って
ブンベやジョーさんが、昇華させてる?のは聞いてるし、ボクたちの世界にもマナは流れてるって言ってたけど、
それって結局・・・どういうことなの?何かにはなってるの?」
「ああ、それ、俺も気になってた
結局俺たちが産んだマナはどうなってるんだろう、って」
ユイトの疑問にセイヤも同調した。
考えてみれば、セイヤはその疑問を14年間抱え続けたまま、今日まで過ごしていたわけだ。
ユイトでさえ、これまでの期間ずっともやもやしていたことなだけに、彼には尚更だろう。
その答えは、あまりにもあっさりと返ってきた。
「ああ、俺たちの世界でミディアイとして産まれてくるんだよ」
「僕たちのところでは、マナは命そのものだからね
リスファクターを倒したそのエナジーが、僕たちの世界でミディアイとして転生してるんだよ」
衝撃の事実だった。そんなに簡単に明かされていいものなのか。
あまりの衝撃に、セイヤもユイトも開いた口が塞がらず、さらには身も震え出した。
そして勢いに任せて、二人は口々に捲し立て始めた。
「なっ・・・なんでそんな大事なこと言ってくれなかったんだよぉぉぉぉぉ、ブンベぇぇぇぇぇっ!!!!!」
「いや、だって、聞かれなかったから・・・」
「そういうことはちゃんと言っておくべきだろ、ジョーさんんんんんんっ!!!!!
なんで俺は14年も経ってからそのことを知らなきゃいけないんだよぉぉぉぉぉっ!!!!!」
「言うまでもないことかな、って・・・言ったところで理解できたか?」
「そういう問題じゃないんだよぉ!!」
「そういう問題じゃねぇだろうがよぉ!!」
ユイトもセイヤも頭を抱える。
少しの静寂の後、ブンベとジョーさんが二人に声をかけた。
「黙ってたのはごめんね
でも、ジョーさんも言った通りだけど・・・」
「言ったところでお前たちは理解できたか・・・信じてくれたか、って話なんだよ・・・」
ジョーさんのその言葉に、ユイトとセイヤが答える。
「信じるとか信じないとかじゃ、ないじゃないですか、ジョーさん
てことは、ですよ?ボクたちのお腹にあったマナがミディアイになってる、ってことは」
「結局、俺たちは本当に出産してた、ってことじゃないか!!」
セイヤが言ったことこそが真理だ。
マジカルバンピーの胎内に満たされていたマナが、巡り巡ってミディアイとして産まれてくるということは、
結果的に二人は『ミディアイを産んでいた』ということだ、セイヤの解釈は間違っていない。
しかし、そう言ったセイヤを、ユイトは少し冷めた眼で見つめ、そして言い放った。
「父さん」
「なんだ、ユイト?」
「・・・父さんは、ホントに産んでるじゃん」
「あっ・・・すまん、ユイト・・・」
そのセイヤの返答に、ユイトは思わず無邪気な笑みがこぼれた。
ユイトがセイヤに言ったことも間違いではない。実際にセイヤは、ユイトを産んだのだから。
その上でユイトは、さらにセイヤに尋ねた。
「そういえば父さん、ボクの名前って、父さんがつけたんだよね?」
「あぁ、そうだ」
「なんでこの名前にしようと思ったの?『夢を結ぶ人』、って」
ユイトの屈託のない質問に、セイヤも表情を崩した。
確かに言われてみれば、自分は我が子に、その名の由来を話したことがなかったかもしれない。
よくぞ聞いてくれたとばかりに、セイヤは話し始めた。
「その字の、そのままの通りだよ、ユイト
『平和を願うみんなの想いを結び繋ぐ存在であれ』、それがお前の名前の由来だよ」
ユイトはその言葉をじっくりと聞いていた。
ユイトだけではない、ジョーさんも、ブンベも、だ。
セイヤは遠い目をしながら、その先を続けていく。
「マジカルバンピーとしてサイフォルースを倒した14年前のあの日、とりあえずは平和が戻ってきた
いつまでもこの、穏やかな日常が続いてほしいと誰もが願った、当たり前だよな
そんなときに産まれたのがユイトだ
だから俺は、その想いを我が子の名前に込めたんだ」
掛けている眼鏡をいったん外し、眼を少し拭ってから、掛け直す。
セイヤの眼が赤く潤んでいるのは、他の三人にははっきりと見えていた。
「そのサイフォルースが・・・リスファクターが復活するだなんて、俺も思ってなかった
ああ・・・また、怯えながら過ごしていたあの日々が戻ってきてしまうのか、と
そうしたら・・・マジカルバンピーも帰ってきたんだ!しかも俺の息子だったんだ!
ユイトがマジカルバンピーになったのは確かに偶然だったのかもしれない
でも・・・ユイトはこうして、リスファクターを滅ぼしたんだ、世界を救ったんだ
その『夢を結ぶ人』という字の通りに、ユイトは・・・みんなの想いを結んだんだよ・・・」
そこまで話すと、セイヤはおもむろに、ユイトたちに背を向けた。
その様子はまるで、自分を恥じるかのような雰囲気があった。
その雰囲気のままに、なおもセイヤは言葉を続けていく。
「俺は・・・父親失格だ
自分の子供をこんな危険な目に遭わせていて、何が父親だ・・・何が親だ!
もっと早く気付いてなきゃいけなかったんだ、ユイトがマジカルバンピーだということに!
本当は・・・ユイトが名前通りの存在になれたことを、喜んでちゃいけないんだ・・・
そのために我が子を犠牲にしていいだなんて道理は・・・どこにも・・・どこにもあっていいわけが・・・」
肩を震わせるセイヤを見て、ユイトは思わず背中に抱き付いた。
そして力の限りに声をかけた。
「父さん!!」
「ユイ・・・ト・・・」
「それは違うよ、父さん
ボクは本当に・・・父さんの子でよかったと思ってるんだ
そりゃね、マジカルバンピーになったのはボクだって怖かったよ
父さんがマナをボクとして産んだから、ボクがマジカルバンピーになったんだ、って
でも、そんなことは・・・そんなことはどうだっていいんだよ!」
セイヤに抱き付くユイトに力が入る。
といっても、それは怒りや失望などではない。
明らかに親を想う心からのものだ。
「どうだっていい、って・・・」
「父さんだって、ボクと一緒に戦ったんじゃん!父さんだって世界を救ったんじゃん!
ボクは・・・ボクは父さんと一緒にやれたのが、ホントに嬉しかった・・・
ホントに・・・父さんの子でよかった、って・・・」
セイヤはユイトが抱き付いているのを振り払うと、
背中を見せていたところから振り返って、そのままユイトを正面から抱き締めた。
二人の間に言葉はない。もう言葉なんて必要なかった。
それを見ていたジョーさんとブンベも、ただ何も言わずに、二人を見守っていた。
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---15年後
『・・・モールで行われます!子安台中央駅から自由通路で直結・・・』
『・・・の拡充を進めてまいります、杏山市はこれからも、子育て世代に優しい街であり続け・・・』
あの日、マジカルバンピーが救った街は、それ以来ずっと平穏な日々を過ごしていた。
サイフォルースとの戦闘で破壊された駅前広場はすぐに復興された。
「街の救世主であるマジカルバンピーたちの銅像を建てよう」という動きも見られたものの、
さすがに・・・と却下されるようなこともあったが、それに安堵する者がいたことは言うまでもない。
「あっ・・・お腹蹴った!」
「えっ、ホント!?・・・あっ、俺もだ!!」
「ふふっ、もうすぐ産まれてくるんだね」
「ああ・・・そうだな!」
少し変わったこともあった。
アレ以来、街の出生率が上がった。
元々この街は子育て世代に優しいとされ、周りの他の自治体と比較して出生率が高めではあったが、
最終決戦が終わって以降、妊婦さんが増えただけでなく、男性も妊娠するようになったのだ。
そのことを、街の誰もが普通に受け入れていることも、変わったことの一つだ。
『5018番の番号札をお持ちの方、2番相談室へお越しください』
「はじめまして、杏山市役所子育て支援課の龍ノ井です
今日の面談を担当させていただきます、よろしくお願いいたします」
「は・・・はい・・・こちらこそ・・・」
「ああ!そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ!
初めての妊娠で不安かもしれませんが心配しないでください・・・私も経験者ですから(ボソッ」
「・・・えっ?」
「ふふっ、内緒ですよ?さ、では面談を始めていきましょうか」
セイヤは役場内で配置転換された。
リスファクターの脅威がなくなったことで、それまで在籍していた災害対策課の規模が縮小され、
その代わりに上がってきていた出生率のために、子育て支援課が拡張されることとなり、
シングルファーザーとしてユイトを育ててきたセイヤが、人員として充てられることになったからだ。
もっとも、セイヤはユイトを産んだことを公表してはいない。公表する必要もないからだ。
こうしてボソッと、窓口を訪れた妊婦さんや妊夫さんたちに、悪戯っぽく、それでいて事実を軽く告げているだけだ。
しかし、それだけでも、彼ら彼女らに安心感を与えているのも、紛れもない事実である。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅんっっっ!!!!!」
「いいですよー、もう頭出てきてますからね、短い呼吸にして、はい、はっ、はっ、はっ・・・」
「はっ、はっ、はっ、はっ・・・はぁぁぁあああっ!!」
「はーい、おめでとうございまーす、元気な赤ちゃんですよ・・・ほら、パパそっくり」
「あ・・・ああ・・・俺の、あか・・・ちゃん・・・」
産まれてきた我が子を愛おしく抱く産夫を、ユイトもまた優しい瞳で見つめている。
ユイトは大学を卒業し、医師になった。
今は市立病院の医局に在籍し、産科医として勤務している。
ユイトが医師を志したのは理由があった。
『父さんはなんで公務員になろうと思ったの?』
『それはな・・・一人でお前を育てていくために安定した仕事に就きたかったのもあるんだが・・・』
『あるんだが?』
『・・・マジカルバンピーじゃなくなっても、『みんなのヒーロー』であろうと思ったからさ』
『みんなの、ヒーロー・・・』
『・・・実は採用試験の小論文で、俺がマジカルバンピーだったことを書いたんだよ
マジカルバンピーだった俺なら、きっと災害対策に携わることができる、それを訴えたんだ
マジカルバンピーだったからこそ、今度はその立場で、みんなを護れるんじゃないか、って』
『・・・やっぱ、セイヤさんって、ユイトくんのお父さんなんですね』
『なんだよブンベぇ・・・何が言いたいんだよぉ・・・』
『ユイトが優しいのは、セイヤもそうだからってことだろ、だよな、ブンベ?』
『その通りですよ、ジョーさん』
自分を育てていくためだったのもあるとはいえ、セイヤが公務員となり、災害対応に従事していたのは、
『ただの人間』に戻ってからも、『みんなを守るヒーロー』であり続けようとしたからだった。
それを知ったユイトは、『自分だからこそのヒーロー』になろうと考えた。
そしてユイトは医師に、産科医になることを選んだ。
今ではユイトは、自身の経験をフルに活かし、受け持ちの妊婦さんや妊夫さんたちに寄り添っている。
その評判は、街の中でもとびきりのものとなりつつあった。
そもそも何故、ユイトたちが暮らすこの街では、こんなことになっているのか。
それは、15年前のあの日にすべて繋がっている。
あのときにオーバーフローしたマナは、街全体に影響を与えた。
それによって、性別に関係なく妊娠するようになり、それが出生率の上昇に繋がっていたのだ。
元々この街は子育て支援に予算を多く割き、その世代に住みやすい街であると地域では知られていたが、
あの日以降そうなったことで、転入も相次いで人口が増え、地域最大の都市として成長していった。
ひとつ、面白い話がある。
セイヤが子育て支援課に転属となったとき、市が発行する母子健康手帳とマタニティマークのデザインが変わった。
それらに描かれているのは。
「あー、これこれ!なんかかわいいよね、このマスコット」
「ホントにね、俺のマタニティマークは、黒い猫のやつだよ」
「あ、そっちだったんだ、私は青いワンちゃんのやつ!」
そこにデザインされた存在のことを知るのは、街には二人しかいない。
しかし、こうして街の妊婦さん・妊夫さんたちにも受け入れられている。
『それら』は、彼ら彼女らを護るガーディアンとなったのだ。
成長していく街と共に、ユイトも成長していった。
セイヤと同じように、ユイトはこれからもヒーローであり続けていく。
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行けども行けども、ゴツゴツとしていて切り立った岩山の中。
空は暗雲で覆われ、雷鳴が轟き、辺りからは悲鳴のような叫び声も響いている。
そんな中を『それ』は一人、アテもなく彷徨い歩いていた。
その姿は巨体に見事なバストと大きなお腹を湛え、見る者に畏怖を与える様相をしている。
自分があの場で倒されたときの、そのままをしていることを、その者---サイフォルースははっきりと理解していた。
「我は・・・何故この姿をしているのだ、それに・・・ここは、どこ・・・だ・・・?」
周りを見渡しながら、リスファクターの総帥として恐れられた者らしくもなく、
恐る恐る歩みを進めていくと、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「そのお姿・・・貴方様は・・・」
「ん・・・?その声、まさか貴様は・・・」
「ああ!!サイフォルース様!!サイフォルース様なのですね!?
私でございます、クラムディオでございます!!お会いしとうございました、サイフォルース様!!」
声の主は、サイフォルースが半身。
その最期まで自分の片腕であり続けたクラムディオだった。
眼には感涙を浮かべ、待ち焦がれた想い人に再会できた喜びを感じさせる。
しかしその姿は、サイフォルースから見ても、どこか様子がおかしかった。
「クラムディオか、どうしたというのだ、その身体は
それにその格好・・・まるで『囚人』のようではないか・・・」
「そ・・・それは、ですね・・・」
ドラマや映画でしか見ないような黒と白のボーダー柄の、あからさまな囚人服に身を包み、
そのバストとお腹は、今の自分のように大きく膨らんでいる。
ボーダー柄は体型によって引き伸ばされ、その間隔が大きく開いており、そもそも収まりきらないお腹が裾から溢れ出ていた。
見た感じ、どう考えても『結構な多胎』を抱えているようなクラムディオの姿は、サイフォルースには理解しがたかった。
すると、また別の声が聞こえてきた。
その声色、その喋り方は、できることならサイフォルースは、二度と聞きたくなかった。
「あぁ、その顔ぉ・・・サイフォルースじゃないかぁ・・・
ようやく『こっち』に来たんだねぇ、待ってたよぉ・・・!」
「貴様・・・っ!!何故『マジカルバンピー』がここにいる!?」
「『マジカルバンピー』・・・?
あぁ、そっかぁ・・・貴様には私の姿がそう見えてるんだねぇ・・・
まぁ、『もっとも恐れを抱いたモノ』の姿を借りてるから、そう見えるんだねぇ・・・」
黒と赤の衣装に身を包んだその姿は、14年前に自分を追い詰め、
そしてまた、ついさっきまで自分と戦っていたはずのマジカルバンピー=セイヤをなぞっていた。
しかし、バストこそ大きくはあったが、大きく開いた腹部から覗いているはずのお腹は膨らんではいない。
そして『本当のマジカルバンピー』にはなかった、赤黒い毛並みを持つ猫のような耳と尻尾を持っている。
これはいったいどういうことなのか、サイフォルースは悪態をつきつつ問いかけた。
「我がもっとも恐れを抱いたモノだと?はっ!笑わせてくれる、我が人間ごときを恐れるはずがなかろう!
だが・・・貴様はマジカルバンピーではない・・・のか・・・?」
「ふっ、ふふふふふっ・・・ここはミディアイの世界の『地獄』
私はここを統べる『閻魔様』ってわけだよ、サイフォルースぅ・・・」
「地獄・・・?地獄だと?何故我がそんなところにおらねばならぬのだ!
我はサイフォルース、リスファクターの総帥だぞ?」
やれやれ・・・という雰囲気を隠すこともなかった。
サイフォルースの反応に、閻魔は冷笑を浮かべて答える。
「アレだけのことをしておいてさぁ、まさか自分が地獄に堕ちないだなんて、よく思えるものだねぇ・・・
貴様たちによって殺されたミディアイたちの怨み、考えたこともなかったのかなぁ~?」
従者が主君の腕をつかんですがり付く。
クラムディオはクラムディオで、その姿がマジカルバンピー=ユイトに見えている。
クラムディオにとっては、ユイトが恐怖の対象となってしまったからだ。
閻魔はそれに気付くと、二人にさらなる恐怖を与えるために、その身を二つに分けた。
片方はセイヤ、もう片方がユイトの姿をしていることは言うまでもない。
そのユイトの姿も、お腹は大きくなっておらず、青白い毛並みをした犬のような耳と尻尾を持っている。
「ひっ・・・ひいぃぃぃっ!!ま、マジカルバンピーが・・・二人・・・ぃっ!!」
「狼狽えるな、クラムディオ!!アレはマジカルバンピーではない!!それでも我の従臣か!!
貴様、いったいなんのつもりだ!?そこまでして我らをどうするつもりなのだ!?」
なおも強気な態度を崩さないサイフォルースに、閻魔たちは『悪い笑顔』を浮かべる。
これは『分からせ甲斐』がありそうだ、という雰囲気で、
ユイトの姿をしたほうがサイフォルースのお腹を指差した。
「それだよ、サイフォルース
アンタたちは『ここ』で、これまでの贖罪をし続けるんだ」
「そうだよぉ、サイフォルースぅ・・・そしてクラムディオぉ・・・
てめぇらはここでずっと、『私たちの眷属』を孕んで産み続けるんだぁ・・・
ここはいいところだよぉ?老いもなければ死ぬことも・・・ないからねぇ・・・っ!」
「その身体をもって、アンタたちには現し世での罪を贖ってもらうよ
それだけのことをしたんだ、償いきるまでにはどれだけの時間がかかるんだろうね?
もしかしたら一生・・・いや、ここでは死ぬことはないから、ずっと・・・続くんだろうなぁ!」
サイフォルースの顔に絶望の色が広がった。
クラムディオはここに堕とされたときに閻魔から同じことを聞かされていたが、
今こうして再び聞いて、クラムディオも改めて絶望した。
そんな二人を見ると、閻魔たちはなおも言葉を続ける。
「まぁ、安心するといいよ
無事に『私たちの新しい家族』が産まれてこれるよう、そのときだけは最低限の補助をつけてあげる
それに、変な気さえ起こさないのなら、この辺りでは自由にしてていいよ
もっとも・・・変な気なんて起こしたらどうなるか、もう分かるだろうけどね?」
「それにねぇ・・・サイフォルースはその格好のままでいさせてあげるよぉ
クラムディオには示しをつけるためにその服を着させたけど、
サイフォルース・・・これはリスファクターの総帥への、せめてもの『礼儀』だよぉ、感謝しなぁ?」
閻魔たちがサイフォルースに話すが、その言葉は二人にはもはや入っていなかった。
それを知ってか知らずか、かんらかんらとした笑い声を出しながら、
閻魔たちは背中を向け、脚音を鳴らして去っていった。
あとに残されたサイフォルースとクラムディオ。
永遠の囚人、永遠の『産む機械』とされてしまったことを知った二人は、どっちからともなく声をかけあった。
「クラムディオ・・・」
「さ、サイフォルース様・・・」
サイフォルースとクラムディオは顔を見つめあった。
リスファクターがミディアイに仕掛けていたのは、紛れもなく戦争である。
争い事である以上、そこに勝者と敗者が存在するのは仕方がない。
それでいうなら、二人は間違いなく『敗者』だ。
敗者であるならば、犯した罪は償う必要がある。
ここに及んでサイフォルースは、自身がミディアイに対して行なったことを後悔した。
「は・・・はは・・・はははっ・・・
そうか・・・そういうことか・・・ははっ・・・はっ・・・ははは・・・」
「ああ・・・サイフォルース様・・・おいたわしや・・・
もし・・・もし赦されるのならば、私め一人だけがこの罪を背負いたい・・・
こんなこと・・・サイフォルース様にまでさせるわけには・・・」
そう言ったクラムディオを、サイフォルースは一喝した。
一喝したといっても、その語調と眼差しは優しい暖かさを持っていた。
「それは違うぞ、クラムディオよ
我は確かにマジカルバンピーに敗れたのだ、我は紛れもなく『敗者』なのだ
であれば・・・これは、受け入れねばならぬ運命なのだ」
「・・・」
「貴様、今しがた言ったな?『赦されるのなら自分一人だけが背負いたい』、と
それが間違っておるのだ、貴様の罪も何もかも、我こそがすべてを背負わねばならぬのだ
貴様に罪などない、すべての責は我にあるのだからな」
それを聞いたクラムディオは、大声を上げて泣き崩れた。
自分がこの方に従い続けたのは決して間違いではなかった、と改めて思った。
もはや嗚咽とも言っていいそれは、周りの岩山に反響する。
響き渡っていた他の者の悲鳴すらかき消すほどであった。
「お・・・おおお・・・おおおおおおおっっっ!!!!!サイフォルース・・・様ぁぁぁぁぁっっっ!!!!!
私めなぞに・・・私めごときに、なんともったいないお言葉を・・・あああああああっっっ!!!!!」
「貴様が最期まで我の側にいてくれたこと、本当に感謝しておるぞ、クラムディオよ」
「もし・・・もしよろしければ、このクラムディオのわがままを聞いていただけないでしょうか・・・?」
いつまでも、この方のお側にあり続けようと決めたのは自分だ。
14年前に倒されたあのときから、再び立ち上がり、世界を手に収めるときまで。
世界を手に収めたならば、仮に収められなかったとしても未来永劫、命尽き果てるそのときまで。
栄えるときも、苦難のときも、どんなときでもこの方と共に歩もうと決めたのは、紛れもなく自分だ。
ただその一心のみで、このクラムディオ、サイフォルース様と共にあり続けたのだ。
「是非・・・これからも、貴方様のお側にいさせてください、サイフォルース様・・・!!」
「貴様・・・こんな『負け犬』でも、仕えていたいと言うのか?」
「サイフォルース様は『負け犬』などではありませぬ!!
貴方様は立派に・・・立派に戦って敗れたのではありませんか!!
『敗者』だとしても、心まで『敗者』になる必要など、どこにもないのですよ・・・サイフォルース様!!」
サイフォルースは目を伏せた。
その視線に入るように、クラムディオは膝立ちになり、サイフォルースの顔をしっかりと見つめた。
「貴方様の苦しみは私の苦しみでございます、貴方様の痛みは私の痛みでございます
貴方様のお側にいることで、少しでも和らげられるのであれば・・・私めは喜んでお側にお仕えしましょう
いつまでも・・・そう、『どこにあろうといつまでも』、で、ございます」
「そう、か・・・そうか、そうであったな・・・」
サイフォルースは思い出した。
14年前のあの日、マジカルバンピーとの戦いで傷付き、いつ果てるともしれなかったこの身を、
再び立ち上がり、戦えるようにしてくれたのは、ここにいる他でもないクラムディオだ。
クラムディオがいたからこそ、自分は今ここにいるのだ。
今度こそ命尽きたにせよ、再びこうしてクラムディオと会い、その『告白』を受けた。
となれば、それに応えてやるのが、『王』たる器ではないだろうか。
サイフォルースは、慈悲をもってクラムディオに答えた。
「よかろうクラムディオ、貴様には忘れ得ぬ恩がある
それを返すことは今はならぬが・・・我の側に付き従い続けることを赦す
貴様と共にあれるならば・・・どんな苦しみも乗り越えられる気がしてならぬ」
「で・・・では、サイフォルース様・・・」
「我にとって貴様は我が半身だ
貴様と我が揃っていてこその、このサイフォルースであり、リスファクターなのだ
しっかりと付いてくるがいいクラムディオよ・・・いつまでもな」
「なんともありがたきお言葉・・・!!
そのお言葉通り、このクラムディオ・・・いつまでもお側におりますとも!!」
二人はお互いのお腹に手を置いて、顔を見つめあった。
恐らくこの地獄から抜け出すことはできない。
このままずっと、途方もない未来の先の先までずっと、ここにいる。
その間ずっと、二人はミディアイを孕み、産み続けることになる。
サイフォルースもクラムディオも、その運命を受け入れた。
サイフォルースも、クラムディオも、二人でいればその苦しみは乗り越えられると信じている。
こうしてすべては終わった。
そう、何もかもが片付いたのだった。
Fin.




