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魔法少女(♂)!?マジカルバンピー!!  作者: はぐりはるひさ


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劇場版・魔法少女(♂)!?マジカルバンピー!! -ロストメモリーズ(前編)-

「・・・あー!もう!分かった!全部・・・全部話すから!

その代わり・・・何を聞いてもビックリするなよ、特に・・・ユイト

お前にはかなりショックな話かもしれないから、覚悟してくれ」


セイヤは、自身がマジカルバンピーであった過去と、ユイトの出生にまつわる秘密を、

ブンベとジョーさん、そしてユイトに語る決意をした。

と、その前に・・・と、セイヤはまず前置きをした。


「先に部屋を出してくれないか、ジョーさん?

あの中でなら他の誰にも聞かれずに話ができるし、それに・・・」


「あ、そうか、アレって、そういう使い方もできたんだ・・・いつも変身場所困ってたんだよね・・・」


「こらこら、もうその必要はないだろユイト」


確かにユイトもセイヤも、まだお腹が大きいままだ、いつ変身解除が始まってもいいように備えておく必要もあるし、

セイヤが言う通り、例の空間の中であれば、他人を気にする必要はなくなる。

ジョーさんは結界を展開し、全員を部屋の中に入れた。

ブンベの部屋はヨギボーみたいなクッションが置かれ、ウレタンのタイルマットが敷かれたリラックス空間だったが、

ジョーさんのそれは、畳に布団が敷かれた、助産院の分娩室みたいな雰囲気だった。

天井からはロープ---産み綱というやつだ---も垂らされている、純和風の空間だ。


「うわ・・・クッソ懐かしいなぁ・・・ここに来るのも14年ぶりか・・・」


「ねぇ、父さん・・・そろそろ話してくれない?」


「あぁ、そうだな・・・まず最初に俺の歳だが・・・29歳だ」


「へー、にじゅうきゅ・・・29歳!?

え・・・てことは、ユイトくんが14歳だから・・・セイヤさん、15歳でユイトくん作ったんですか!?」


ユイトが目をぱちくりさせている横で、ブンベは狼狽を隠せない。

それはそうだろう、15歳といえば普通は中学3年生あるいは高校1年生だ。

普通に考えて、そんな歳で子供がいるとしたら、それは『相当なやんちゃ坊主』としか思えない。

うろたえているブンベを横目に、ジョーさんは思い出話を始めた。


「そうか・・・そういうことか

なんでユイトのマナが凄まじい量なのか、点と点が繋がったぞ・・・!

いや、しかし・・・本当にそんなことが・・・」


「そういうことだよ、ジョーさん

そう・・・アレは14年前、俺がマジカルバンピーだったころ

今日と同じように、サイフォルースと戦ったときだった・・・」


----------------------------------


---14年前、リスファクターの暗黒城


「はぁっ・・・はぁっ・・・ああっ・・・!!」


「ううっ・・・うっ・・・ふぅ・・・どうしたマジカルバンピー・・・これで、おしまい・・・か・・・?」


「ほっ・・・ほざきやがれ・・・でりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


玉座の間。

当時15歳のセイヤはマジカルバンピーとして、サイフォルースと拳を交えていた。

お互いに打ち合って、もうどれほどになっただろうか。

セイヤもサイフォルースも、それぞれが相応に消耗しきっており、どちらが先に倒れるかは時間の問題だった。


「おのれ、サイフォルース・・・リスファクターの総帥は伊達じゃねぇ、ってことか・・・」


「ジョーさん!!もっとなんか・・・なんかないの!?」


「出せる力の限界なんて、とっくにオーバーしてる!!

このまま・・・ごり押しするしかねぇぞ、マジカルバンピー!!」


「・・・くそっ!!」


今戦っているフィールドはリスファクターの暗黒城、ダークサイドの総本山だ。

光と闇のぶつかり合い、それがここで行われている。

ライトサイドのマナの力を持つセイヤとジョーさんがここまでやれているほうが奇跡なのだ。

ジョーさんがセイヤに言いきった通り、使えるエナジーのすべてを出しており、

ジョーさんもまた消耗しきっていて、いつ倒れてもおかしくない状態だった。

それでもなんとか戦えているのは、世界を護りたいというセイヤの強い意思、

そしてセイヤとジョーさんの間に紡がれた絆の力が為せていることだった。


「はぁっ・・・はぁっ・・・どうだ、マジカルバンピーよ・・・

どうやらお互いに限界が近いようだな・・・?」


「はっ・・・あっ・・・ああっ・・・そいつはどうだかな・・・ぁ?」


「どうだ・・・次の一手を最後にしないか・・・

我が倒れるなどあり得ぬが・・・我もこれ以上は・・・」


サイフォルースの言葉に、セイヤとジョーさんは顔を向き合わせる。

その様子からするとサイフォルースも、言っていることはどうやら嘘ではなさそうだ。

二人がお互いに頷くと、セイヤは改めてサイフォルースに言った。


「・・・分かった、これで・・・はっ・・・あぁっ・・・終わりだぁぁぁぁぁっ!!!!!」


「人間風情が・・・ふっ・・・はあっ・・・よくぞここまでやってくれたもの・・・だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「マジカルバンピー、いや・・・セイヤ!!

これが俺の・・・残りすべてだ・・・受け取れぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」


「マジカル・・・アウスブラストォォォォォォォォォっっっ!!!!!!!」


「ぐおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!!!!!!!!」


黒と赤の閃光が魔法のステッキから放たれる。

その一撃を真っ正面から受けたサイフォルースは、全身に致命傷を受け、崩れた。


「はぁっ・・・あっ・・・ああっ・・・やった、の・・・か・・・?」


セイヤはほうほうの体でサイフォルースに近付くと、ゆっくりと爪先で蹴って確かめた。

それが微動だにしないことを確認すると、今度は地面に落ちているジョーさんを拾い上げ、語りかける。


「・・・ジョーさん・・・ジョーさん!!」


「ん・・・あ・・・あぁ、セイ・・・ヤ・・・」


「もう、いい・・・もう喋らなくていいよ・・・一緒に・・・一緒に帰ろう、ジョーさん・・・」


セイヤはジョーさんを抱きかかえると、ふらふらした足取りで暗黒城から出ていった。

黒き森を抜け、少しでも遠くへ、少しでも街へ近付くために、確かに歩んでいった。

玉座の間に残されたのは、傷付き果てたサイフォルースの姿だけ。

その巨体に、騒ぎが収まったのを察した幹部とおぼしき者が近付いていった。


「サイフォルース、様・・・サイフォルース様ぁっ!!」


その者はサイフォルースの肌に触れると、腕を取って手首を掴む。

間違いなく瀕死ではあるものの、わずかながらに脈を取ることができた。

それを感じて、その声が届いているかの確信が持てないまま、呟くように言った。


「・・・これなら・・・これならまだなんとかできる・・・

貴方様さえ甦らせることができれば・・・私たちはまた戦うことができる・・・

そのときまで・・・ああ・・・そうですとも、そのときまで・・・それからも・・・いつまでもずっと・・・」


---このクラムディオ、貴方様のお側に寄り添い続けましょう、サイフォルース様


森を抜けると、少しずつ街の風景が見え始めてきた。

ゆっくりとした足取りではあったが、セイヤは確かに『元の生活』へと近付きつつあった。

しかし、そのお腹はまだ大きいまま、変身は解除できていない。

マジカルバンピーという『正義の魔法少女』の存在は人々に認知されてはいたが、正体は明かされていない。

傷付いてボロボロになったその姿で街に戻るのは、さすがに憚られるところはあった。

もしそれで病院にでも担ぎ込まれてしまったら、たまったものではない。


「う・・・うぅ・・・セイ・・・ヤ・・・」


「ジョーさん・・・お願い・・・お願いだから・・・喋らないで・・・」


「お前・・・その身体じゃあ、帰れ・・・ないだろ・・・?

ふっ・・・ううっ・・・ここ、で・・・部屋をひら・・・く・・・」


「何言ってるんだよ!!部屋を開くのにもマナを使うんだろ!?

今のジョーさんがそんなことしたら・・・そんなこと、した・・・ら・・・っ!!」


ジョーさんが言う通り、セイヤもこのままの状態では帰れないのは分かっている、分かりきっている。

そのためにジョーさんは、せめて変身を解除させようとしているのだが、

そのための空間を展開するためにもマナが必要であり、今のジョーさんがそれをしたら、

それこそジョーさんは燃え尽きてしまうことも分かりきっていた。

それを承知の上で、ジョーさんはセイヤに言った。


「お前は・・・セイヤ・・・お前は本当によくやった・・・よく戦ってくれた・・・

これは・・・俺からの・・・せめてもの『お礼』ってヤツ、さ・・・」


「ジョーさん・・・いったい、何・・・を・・・」


「マジカル・・・トランス、ポー・・・ト・・・」


ジョーさんがそう唱えると、セイヤは光に包まれ、その身は転送された。

気が付くとセイヤは見慣れたところにいた。いつもの空間だ。

畳が敷かれたその室内には布団が敷かれており、天井からは産み綱が下がっている。

いつもと少し違うのは、セイヤがいつも寝起きしているベッドがあり、デスクも置かれていたことだった。

それはつまり、ジョーさんがセイヤの自室に結界を展開した上で、そこにセイヤを転送したことを意味していた。


「ここは、俺の・・・部屋・・・?・・・っ!!ジョーさん!!」


部屋にはセイヤの他にジョーさんもいたが、もはやその身体はセイヤの問い掛けに応える力すら残されていなかった。

最後の、本当にわずかだけ残されていた最後の力を使い果たして、

セイヤを絶対に安全な場所に送り届け、ジョーさんは燃え尽きたのだ。

セイヤはジョーさんの身体を揺さぶりながら、強く訴え続けた。


「ジョーさん!!ねぇ!!ジョーさん!!起きて・・・起きてよ、ジョーさん!!

ジョーさんが・・・ジョーさんがいなかったら俺・・・俺、どうしたら・・・うぐぅっ!!」


どれほど訴えかけても、ジョーさんは応えてはくれなかった。

そうこうしているうちに、セイヤはそのお腹からの鈍痛を感じた。変身解除が始まったのだ。


「うっ・・・ううっ・・・ふうっ・・・ジョー・・・さん・・・あああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


痛みは少しずつ増していく。

ジョーさんもいなければ、例えそこが自宅だったとしても、

結界内にいる以上はそこで起きていることは誰にも分からない。

セイヤはたった一人で、胎内のマナを産み出さなくてはならなかった。


時間はゆっくりと流れていった。

サイフォルースと戦うために満たされたマナによって、セイヤのお腹は大きめの三つ子を抱えた臨月腹となっていたが、

それだけの大きさを孕んだのは、このときのセイヤには初めてのことだった。

それもあって、セイヤの主観としては、余計にゆっくりとしか時間が流れていかない感じがあった。


「あああぁぁぁぁぁ・・・ふーっ・・・ふー、うっ・・・うぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


セイヤは産み綱にすがりながら、襲い来る陣痛に耐えていた。

いつもだったら子宮口が開き、出産が進んでいく実感があるのだが、

そのマナの量のせいなのか、それともジョーさんがいないからなのか、

いわゆる難産と言ってもいいような状況に置かれている気がしてきた。


「ジョー・・・さん・・・ジョーさん、なんっ・・・で・・・

なんでそこまでして・・・俺・・・ジョーさんがいなかったら・・・

こんなの・・・一人で産める気がしないよぉぉぉおおおおおおおおおおおっっっ!!うぐぅぅぅあああああっ!!!!!」


産み綱を握る手に力が入る。

出産をスムーズに進めるためにはリラックスしていたほうがいいことは、いつもジョーさんに言われていたが、

ジョーさんを失ったパニックと一人で産み出さないといけない不安が、セイヤをそうさせなかった。

それでもなんとか、セイヤはジョーさんから教わったことを脳内でリフレインさせ、マナを産み出すことに集中し始めた。


「ふーっ・・・ふーっ・・・ふっ、ふっ、はぁぁぁあああああっ!!」


ジョーさんに教わった呼吸法を実践しながら、セイヤはなおも産みの苦しみに耐える時間を過ごしていた。

時に産み綱にすがり、時にベッドに身体を預け、時に布団に寝転がるなど、

手を変え品を変え、セイヤは少しでも楽になれそうな姿勢を求め続けた。


「もう・・・やるしか・・・ふぅ・・・やるしか、ないん・・・うぅぅ・・・だよね、ジョーさん・・・」


どれほどの時間が経っただろうか。

お腹の中で何かが弾けるような感覚がすると、セイヤの『あそこ』からは液体がこぼれてきた。破水だ。

それと同時に、ずっと感じていた痛みはさらに激しさを増した。


「あああああっっっ!!腰・・・が・・・砕けるぅぅぅぅぅっ!!」


それは今まで感じたことがない痛みだった。

明らかに何かがおかしい、それはセイヤをさらにパニックへと陥れた。


「はっ・・・あっ・・・なんっ、で・・・なんで・・・あああぁぁぁいたぁぁぁぁぁっっっいいいぃぃぃっ!!」


産み綱を握る手に、さらに力が入る。

ただでさえ一人だけの出産を強いられているのに、経験したことのない状況の連続で、

セイヤは本当に、これ以上どうしたらいいのか分からなくなっていた。


「これ・・・ジョーさん、これぇ・・・

絶対におかしいってぇぇぇええええええっ!!ジョーさんんんんんっっっ!!」


セイヤがそう思うのも無理はなかった。

いや、実はこのとき、セイヤの胎内では本当におかしなことが起きていたのだ。


本来、セイヤの胎内に満たされたマナは、産み出されたときに昇華されていく。

それはガーディアンであるジョーさんが呪文を唱えることでそうなるのだが、

そのジョーさんがいないことに加え、サイフォルースとの戦いによってマナが活性化し、一種の暴走を起こしてしまった。

それによってマナはセイヤの胎内で結合し、一部は胎盤と臍帯---いわゆるへその緒に、

大部分は人間の姿として変質していたのだ。


つまりこのときのセイヤは、いつものようなマナを産み出す『擬似的な出産』ではなく、

世間一般の女性---妊婦が十月十日の末に迎えるような、『本当の出産』を経験していたのだ。


「はーっ!はーっ!はっ・・・あああああっ!なんっ・・・か・・・出てきてるぅぅぅうううううっっっ!」


気が遠くなるような時間の果てに、いつの間にかすっかり開いていた子宮口を押し開いて、

今や『本物の胎児』となったそれが、少しずつセイヤの身体から出てこようとしていた。

締め付けられるようなお腹の痛みの間隔に合わせて、

セイヤは産み綱を抱き込むようにしっかりとつかんで、息みをかけていく。


「ふっ・・・ふぅっ・・・ふぐぅぅぅうあああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」


ゆっくりと胎児が降りてきて、娩出が進んでいく。

頭がすっぽりと骨盤に挟まる感覚を覚えたとき、セイヤは叫んだ。


「あああああぁぁぁぁぁ!!あっ・・・か、ちゃん・・・俺の・・・

赤ちゃん・・・んんんんんんんうううぅぅぅぅぅっ!!」


その叫びの後に幾度か息むと、子宮口から胎児の頭が抜け、

そのままそれに続いて、身体も一気に出てきた。

自分のお腹の中にいたものがすべて外に出てくると、それは元気な産声を上げた。


「おぎゃっ・・・おぎゃ・・・おぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!おぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」


「はっ・・・はぁっ・・・ああっ・・・あか、ちゃ・・・ん・・・?

え・・・ほんとに・・・ホントの・・・赤ちゃん・・・?」


続けてへその緒が繋がったままに胎盤も出てくると、セイヤは元の姿に戻っていた。

マジカルバンピーの衣装でなければ、マジカルバンピーのときにあった豊かなバストもない。

中身が出てきたことでお腹の膨らみも消え失せ、セイヤの身体はいつもの、年齢相応の中学生男子のものに戻っていた。

なおも産声を上げている新生児を、セイヤは恐る恐るながらも、

ジョーさんをそうしていたように優しく抱きかかえた。


「おぎゃ・・・ほにゃっ・・・ふにゃぁぁぁ・・・」


生母の温もりを感じたのか、その子は泣き声を抑え、すっかり落ち着いていった。

セイヤは困惑することおびただしかったが、何か大きなことを成し遂げた達成感を感じてもいた。

結界の中で赤子を抱え、しばらくあやしているうちに、セイヤは一つの大きな決心をした。


この子は・・・何があっても俺が育てる


この子は・・・ジョーさんが俺に残してくれた『最後の思い出』だ


俺はこの子と共に生きていく、この子は


---『俺の子』だ



----------------------------------


「そうか・・・じゃあ、やっぱりユイトは・・・」


「そう・・・ジョーさんが思った通り、ユイトは人間だけど人間じゃない

この子は・・・あのときにジョーさんが昇華できなかった、マナの結晶なんだよ」


「まさか・・・まさか本当にそんなことが・・・

だからユイトくんはマジカルバンピーの適材・・・言葉を変えたら・・・

ユイトくんは・・・『本物の救世主』だったのか!!」


セイヤ自身から語られた真実によって、場は静寂に包まれた。

ミディアイの世界の中でも、今まで観測されていなかったことが、実際に起きていたのだ。

ミディアイたちの尺度でも予想だにしなかったことが実際に起きていて、

実際にそうして産まれてきた存在が、自分たちの目の前にいるのだ。


ブンベとジョーさんはユイトを見つめる。

ジョーさんの眼差しはどこか後ろめたさを匂わせ、そのままにユイトに話しかけた。


「その、なんだ・・・ユイト・・・

お前・・・大丈夫か?今の話聞いてて・・・」


「え?なんで?何が?」


ユイトの顔色がまったく変わらないことに、今度はジョーさんが困惑の色を隠せない。

そんなことお構いなしに、今度はユイトが話し始めた。


「え?だって、ボクが父さんの子なことは変わらないんでしょ?

ボクがマナの結晶だったとしても、父さんのお腹から産まれてきたのは変わらないし、

父さんはボクの父さんなんでしょ?」


「ユイト、お前・・・本当に大丈夫なのか?」


ジョーさんの心配をよそに、ブンベは「あぁ、そうだった」というような表情を浮かべた。

その様子を感じたジョーさんはブンベのほうを向くが、ブンベはジョーさんに言った。


「そうなんですよジョーさん・・・ユイトくんって、『こういう子』なんですよ・・・」


「なんだ?どういうことだ、ブンベ?」


ジョーさんの質問に、ブンベが答えていく。

ここまでの付き合いの中で、ブンベがユイトに感じた率直な感想だ。


「ユイトくんってね、本当に優しい子なんですよ、ジョーさん

そのお腹にあるのはマナでしかないのに・・・人間じゃないのに・・・

『自分のお腹の中にある以上は自分の赤ちゃんだ』って思ってくれてるんです

マナを産み出すときも、自分の赤ちゃんだと思って産んでくれるんですよ・・・

ホントに・・・本当に優しい子なんですよ、ユイトくんは・・・」


ブンベのその声が涙声になっていくのが分かった。

その想いは確かにジョーさんにも伝わってきた。

その上でジョーさんは、自分の意見を述べていく。


「じゃあ・・・なにか!?

ユイトは、自分がそう考えているから、セイヤが自分を産んだことは気にしてない、ってことか!?」


「だからそう言ってるじゃないですか、ジョーさん

例えマナだったとしても、父さんのお腹の中にいたんだから、ボクは父さんの子なんですよ

ボクは父さんの子だし、父さんはボクの父さんなんですよ、ジョーさん」


あっけらかんと、事も無げに答えるユイトを見て、ジョーさんは表情を変えた。

そして思わず。


「はっ・・・ははっ・・・はははははははっ!!

さすがだよ!!さすがとしか言えねぇよ!!こんな最高なことってあるかよ、なぁ、セイヤ!!

そりゃ確かに、あのときのマナを送り出せなかったのは気になってたがな、

それで産まれてきたのがユイトだってんなら、お前、マジで恵まれてんなぁ、セイヤ!!」


水を向けられたセイヤだったが、その眼もまた涙で潤んでいた。

まさかユイトが、自分がお腹を痛めて産んだ愛しい我が子が、そんな考え方を持っていたなんて。

何がどうあっても、ユイトは自分のことを父親として想ってくれていたなんて。

昇華されるはずだったマナがユイトとして産まれてきたことは、どう考えても一種の事故でしかないのに、

その真実を知ってもなお、ユイトはこうして、「俺の子」であることを疑っていないなんて。


「ユイトぉ・・・お前ぇ・・・」


「どうしたの?泣かないでよ父さん

ボクはいつまでも『父さんの子』だよ?

父さんがちゃんと産んでくれたから、ボクはここにいるんだよ?

ていうか・・・父さんだから、ボクを産めたんじゃないの?違うの?」


自分がユイトを産んだことは間違いじゃなかったことが証明された。

それどころかユイトは、『最強で最高のマジカルバンピー』として、リスファクターを滅ぼしたのだ。

その我が子と共に戦えたことは、今のセイヤにとっては何よりの誇りとなっていた。まさに『自慢の我が子』だ。


セイヤは改めて、ユイトの頭を抱えてバストで包み込んだ。

ユイトもそれをあるがままに受け入れる。

父子の絆を感じられる抱擁を目の当たりにしつつ、ジョーさんはブンベに尋ねた。


「なぁ、ブンベ・・・今どきの子ってのは、みんなそんなもんなのか・・・?」


「いや・・・ユイトくんが特殊なだけだと思いますよ、ジョーさん・・・

なんていうか・・・感性だって、他の同じくらいの子よりも、明らかに違ってますからね・・・」


「・・・まさに、『導かれし者』・・・ってことか」


「・・・ですね」


「じゃあ、父さんはそれからずっと、ジョーさんと一緒にいたんだ」


「あぁ、そうだ、例え返事をしてくれなくなっても、父さんにとってジョーさんは、大事な存在だったからね

何かつらいことがあったときは、クローゼットからジョーさんを出して、話を聞いてもらってたんだよ」


「そんなことしてたのかセイヤ・・・なんか・・・寝てたのが申し訳ないな・・・」


部屋の中では、セイヤとユイトがお互いのお腹を撫であいつつ、他愛もない会話が続いていった。

まさに歓談といった雰囲気であったが、そんな中でもブンベだけは気がかりなことがあった。

こういうとき結構喋るタイプなはずのブンベが、あまり口を開いていないことに、ユイトも気付いた。


「・・・」


「ブンベ、どうしたの?なんかあった?」


「・・・いや、その・・・」


「どうしたんだブンベ、雰囲気悪いぞ?」


「・・・ジョーさん、なんかおかしくないですか?」


「なんかおかしくないですか、って・・・何がだ?」


ブンベはそわそわしながらも、はっきりとある仕草を取った。

人が時間を気にするときにやるような、手首を指で叩くアレだ。

それを見てセイヤが「そういえば」という感じで言った。


「・・・始まらないな」


「始まらない、って・・・あ・・・ああ!!」


その言葉でジョーさんもハッとした。

戦闘も終わり、セイヤが「誰にも邪魔されない空間」を求めて部屋に入ってからしばらく経ったはずだが、

比較的すぐに始まるはずの『アレ』が、未だに始まっていないのだ。

ジョーさんは慌ててブンベに向かって言い放った。


「ブンベ!!情報出せ!!」


「あ・・・は、はいっ!!」


ブンベがホログラムのようなモノを展開すると、その画面をタブレットのように操作していく。

「今はこんなことができるのか・・・」とジョーさんは思いながら、その画面を見ていると、

あるページにたどり着いたところで、とんでもないことに気付いた。


「あった!これだ・・・しまった!」


「これは・・・ヤバいですよ、ジョーさん・・・」


「ヤバいヤバいヤバい・・・マジで気付いてなかった・・・」


急にうろたえ始めた二人を見て、セイヤとユイトも、いったい何があったのか心配になってきた。

確かになかなか始まらないことは気にはなっていたものの、「そういうこともあるだろう」と気安く考えていたが、

このブンベとジョーさんの様子を見ては、そんな悠長なことではないのかもしれないと思えてきた。


「ブンベ・・・?ジョーさん・・・?何かあるの・・・?」


「今夜は・・・満月だった・・・」


「あと、もうすぐ・・・満潮だ・・・」


ブンベとジョーさんからその言葉が出た途端、セイヤとユイトは身体に違和感を感じた。

お腹の中で水風船が破裂したような感覚、それと同時に股間からは生温い液体が溢れ出てきた。


「あ、あ・・・ああ・・・じょ、ジョーさん・・・?」


「ブンベ・・・こんな始まり方って・・・あっていいの?」


二人揃って破水した。

なかなか来なかった変身解除のときが、いきなり訪れたのである。

あまりにもリラックスしすぎていたせいで、こうして急に始まったことは、

セイヤとユイトを軽い混乱に陥れた。

ましてやセイヤは14年ぶりに経験することである、不安はひとしおだった。


「ごめん、ユイトくん・・・」

「すまん、セイヤ・・・」


ブンベとジョーさんは、揃ってそれぞれの相方に謝った。

満月か満潮の、どちらか一方だけでも条件が揃ったときのことを話した記憶がなかったことを思い出したのだ。

もっとも、そういう条件下での変身解除を経験していなかったこともあったのだが。


「ど・・・どういうこと・・・?」


「そういや、なんか聞いたことあるな・・・満月の夜や満潮の時間辺りは出産が始まりやすいとか・・・」


セイヤがそう言うと、ジョーさんは軽く頷いた。

そしてブンベと共に、セイヤとユイトに対して説明を始めた。


「人間界にもそういう話があるんだな

セイヤはなんとなく知ってるみたいだが、俺らミディアイの中での話をさせてもらう

満月や満潮のときってのは、マナが『引っ張られやすくなる』んだよ」


「人間の身体や人間界にも、わずかではあるけどマナが流れててね

特に妊婦さんやお腹の赤ちゃんは、普通の人よりも少しだけ多いんだ

それで満月や満潮のときにマナが活発になって、出産が多くなるんだよ」


ブンベの説明に、セイヤが息を呑んだ。

簡潔で分かりやすかったのもありがたかったのだが、分かりやすすぎたが故に、大きな問題があることにも気付いた。

それが冗談であってほしいと思いつつ、セイヤは疑問をぶつける。


「じゃあ・・・満月と満潮が重なったときってのは・・・

俺とユイトは今、そのマナをクソほど抱えてる上に、ユイトはそもそもマナの塊なんだが・・・?」


「大丈夫、セイヤさん!そこは安心して!

マナが引っ張られやすいということは、思ってたよりはスルッと出てくる、ってことだから!

ただ・・・その・・・あのぉ・・・」


「なんだよブンベぇ・・・はっきり言えよぉ!!」


歯切れの悪いブンベに、セイヤが苛立ちをぶつける。

なかなか言い出せないブンベに代わって、ジョーさんが答えた。


「・・・このままだと、マナが・・・オーバーフローを起こす」


「オーバー・・・フロー・・・?が起きると、どうなるんですか、ジョーさん?」


「・・・この辺りで出産を迎えている妊婦たちと『共鳴』を起こすことになるな」


ジョーさんがそう言った瞬間、セイヤとユイトの脳内には、

ジョーさんが言った通り、街中の病院や産婦人科で、まさに陣痛や出産に臨んでいる妊婦さんたちの様子が、

まるで自分たちもその場にいるかのようにフラッシュバックしてきた。

そしてそれはまた、それらの産婦さんたちにも同じことが起きていたのだ。


『ふっ、ふっ・・・ふぅぅ・・・え・・・アレ・・・?』

『ふぅぅぅ・・・マジカル・・・ううう・・・バンピー・・・?』

『マジカルバンピーが・・・ふぅっ・・・ふた・・・り・・・?』

『もしかしてマジカルバンピー、も・・・ふぅっ・・・赤ちゃん産まれる・・・の・・・ううっ!!』


「なんっ・・・なんだよ、これ・・・」


「こんなことに・・・なるんだ・・・すごい・・・」


「ああ・・・始まっちまったか・・・ブンベ、もうやるしかねぇぞ」


「ですね、ジョーさん・・・!」


破水してからそこまで間を置かずに、セイヤとユイトは陣痛も始まった。

満月と満潮が重なったことで、スタートは遅かったものの、進みは悪くない、むしろ少し速いように思える。

ユイトは、クラムディオとの戦いのときに身に付けた姿勢を、セイヤに教えながら過ごしている。


「ね、父さん・・・この姿勢だと、なんか・・・楽になるんだよ」


「・・・ホントだ、すごいなユイト、自分で見つけたの?」


『マジカルバンピーが・・・はっ・・・シムズの姿勢してるぅ・・・ああっ・・・』

『ふーっ・・・ふぅぅ・・・ねぇ、マジカルバンピーって・・・』

『私たちのことも・・・ふうっ・・・うっ・・・』

『見えてるの・・・ふぅー・・・かなぁ・・・?』


「あ・・・ふぅー・・・ふぅぅ・・・うん・・・見えてる、よ・・・」


「声も聞こえてるからね・・・ふぅっ・・・うぅー・・・皆さんも、頑張って・・・」


『はっ・・・はっ・・・はっ・・・マジカルバンピーたちも・・・だよぉ!』

『ふぅーっ・・・ふぅーっ・・・そうだよ、みんな・・・で・・・』

『ふっ・・・ふうぅ・・・元気な、赤ちゃん・・・ふぅー・・・』

『はぁー・・・ふっ・・・うう・・・産もう、ね・・・ふぅううーーーんっ!!』


どう考えても想像の範疇を超えたことが起きている。

しかし、今のユイトとセイヤ、それと産婦さんたちには、そんなことはどうでもよかった。

ただでさえ不安でいっぱいになり、心寂しくなる出産という大仕事の場を、

こうしてみんなで共有して、共に分かち合えるのだから。

自分にはみんながついている、みんなにも私たちがついている。

それぞれの脳内だけで広がっていることだから、他の誰かにも見えているということもない。

これはまさしく、今、出産に臨んでいる自分たちだけの光景、『自分たちだけの分娩室』なのだ。


「ふぅっ・・・ふーっ・・・ユイト・・・うぅっ・・・俺・・・」


「どうしたの・・・ふっ・・・ふぅっ・・・父、さん・・・」


セイヤが不安をユイトに漏らした。

サイフォルースとの決着をつけるために、再びマジカルバンピーに変身したときから感じていたことだ。

果たして自分の身体はもってくれるのか、それがセイヤには不安だった。


「お前をっ・・・はぁっ・・・あああ・・・産んで以来っ、なんだよ・・・ふぅぅぅぅぅっ!!」


「ふーっ・・・なんだ・・・ふーっ・・・そんな、こと・・・ううぅぅぅぅ・・・」


ユイトは「なんだそんなことで」みたいな顔でセイヤを見た。

それと同時にその顔は、「何も心配しなくていい」という雰囲気も見せていた。

それを補強するかのように、共鳴している街中の産婦さんたちが口々に言った。


『大丈夫、だよ・・・マジカルバンピー・・・はあああぁぁぁぁぁんっ!!』

『私たちっ、もっ・・・ふぅぅぅぅ・・・ついてるから・・・うぅぅぅぅーっ!!』

『私だって・・・ふー・・・10年ぶりの出産だよ・・・?ふーっ・・・ふーっ・・・』

『はっ・・・はっ・・・はあっ・・・私なんて・・・この歳で初めてだからね・・・ふぅぅぅぅぅっ!!』


「ほらね、父さん・・・うぅぅぅぅ・・・ボクだって、ふーっ・・・ここにいるから・・・はあああぁぁぁぁぁっ!!」


セイヤは思い直した。

そうか、そうだった、ここ最近でいえば、ユイトは何度もやってることだ。

それによくよく考えてみれば、ジョーさんもここにいる、ブンベだっている。

あのころと同じように、それどころか、今回は『みんな』がいてくれることに気付いた。

セイヤはユイトと手を繋ぎ、言った。


「そう、か・・・ふぅっ・・・はぁぁぁぁ・・・そう・・・だな・・・うううぅぅぅぅぅんっ!!」


何も心配することなんてなかった。

何も怖がることなんて、恐れることなんてなかった。

こうなることはマジカルバンピーである以上は避けられないことだし、それを覚悟でセイヤは変身したのだ。

マナのオーバーフローによってこうなったとはいえ、これほど心強いことなんてあるはずもなかった。

満月と満潮が重なったことにより、ブンベが言った通り、出産はスムーズに進んでいった。


「さぁ、セイヤ、もうすっかり開ききってる、あとは出すだけだ!」


「ユイトくんもあとちょっとだよ、次に痛いのが来たら、思いっきり息んで!」


そのときは来た。

ユイトもセイヤも、お腹に一際締まる痛みを感じると、それに合わせて息んだ。


「ふっ・・・ふうううううぅぅぅぅぅんんんっっっ!!!!!」


「はっ・・・はあっ・・・はああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」


『ふぅぅぅ・・・ふううううぅぅぅぅぅぅぅっ!!』

『はぁっ・・・ふぅーっ・・・うううううぅぅぅぅぅぅぅんっっっ!!』

『はあーっ、はっ・・・あああああああぁぁぁぁぁっ!!』

『ふぅぅぅぅぅううううううううううんんんんんっっっ!!』


街中に新たな命たちの産声が響き渡った。

それと同時に、ユイトとセイヤの胎内からも、マナが産み出された。

そのマナは光を放って、世界に広がっていった。


【後編に続く】

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