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第3話「絆の力!最終決戦、サイフォルース!」

平日の午前中である。

リスファクター出現により休日出勤が重なっていたこともあって、その日は振替で休みを取っていた。

先日見た面影がどうしても気になる。

『疑惑の当人』が家にいないのをいいことに、彼はその部屋のドアを開けた。


「・・・嘘・・・だろ・・・?」


彼の目に入ってきたモノ。

それは、机の上におとなしく佇んでいるぬいぐるみの姿だった。

彼にはそれに心当たりがある。


「・・・やっぱ・・・『俺の子』、ってこと・・・か」


彼の名は龍ノ井星矢(りゅうのい・せいや)

彼が今いるのは我が子、龍ノ井夢結人(りゅうのい・ゆいと)の部屋である。

そしてまた、セイヤ自身はこのときまで知らなかったが、その『ぬいぐるみ』の存在をもって確信した。


『自分の息子がマジカルバンピーである』ということを。


----------------------------------


クラムディオとの戦いの後、またしばらくリスファクターの出現は収まっていた。

幹部としては上級にあたる存在であったクラムディオを倒したことで、リスファクターもこれ以上の侵攻は無益と思ったのだろうか、

とにかく元のような平和な日々が続いていることに、ユイトは安堵していた。


「よう、ユイト、おはよう!」


「ユイト氏、おはようございます」


「うん、おはよう、ダイチくん、ナオキくん」


教室ではいつも通りの挨拶が交わされている。

あのとき、クラムディオによってノクターンアッパーにされていたダイチとナオキの二人も、

もうそんなことがあったなんて思わせないような、いつも通りの様子になっていた。

もっとも、二人はそんなことになっていたなんて知る由もないだろうが。


「しかし・・・まさかだよなぁ」


「ん?何が?」


ダイチが何かをユイトに切り出そうとし、

その先の言葉をナオキが引き継いだ。


「僕たちの前にマジカルバンピーがいて、助けてくれたんですよ」


「へ・・・へぇ、そんなことがあったんだ・・・」


「マジでビックリしたよな!!なんであんなところに俺らもいたのか分かんねぇけどさ」


ダイチの言葉に、なんとか表情に出さないようにはしていたが、ユイトの内心はヒヤヒヤものだった。

ダイチとナオキがそこにいたのは、まさしく自分と戦っていたからであり、

「自分たちを助けてくれた」とナオキが言うマジカルバンピーとは、まさしく自分だからだ。

体型や髪型が違っていたことで、二人にはマジカルバンピーが自分であることは分かっていないように思えるのが救いだった。


そして予鈴が鳴り、その日もユイトたちは本分をこなし始めた。

できることなら、ただそれだけの日々がこのまま続いてほしい。

今のユイトが願うことは、ただそれだけだった。


----------------------------------


ユイトの部屋のドアをそっと閉めると、セイヤはそのまま自分の部屋に入り、

クローゼットから段ボール箱を出してベッドの上に置いた。

その箱の中から取り出したのは、やや古びてはいたものの、

大事に取り扱われていたことがはっきりと分かる『ぬいぐるみ』だった。


その『ぬいぐるみ』は、黒と赤の毛並みを持つ、ふわふわした猫のような見た目をしており、

もしユイトがそれを見たなら、何か感じるものがあるのは間違いない様子があった。

セイヤはそれを丁寧にベッドへ寝かせると、正面に向き合って語りかけ始める。


「久しぶりだね、ジョーさん

もう、ジョーさんの声が聞こえなくなってから、どれだけになったんだったかな・・・

『あのとき』からだから・・・14年か・・・

もしかしたら、俺の声もジョーさんには聞こえてないかもしれないけど・・・

俺にも子供ができたんだよ、ジョーさん、『あのとき』に産まれたんだ

その子供が、今・・・俺と同じように、アイツらと戦ってるんだよ・・・

ユイトが・・・俺の息子が戦ってるんだ・・・あの子一人にすべてを押し付けるわけにはいかない・・・

このままだと、アイツは・・・ユイトは・・・っ!!

頼む・・・お願いだジョーさん、俺をもう一度・・・俺にも戦わせてくれ・・・ジョーさん・・・っ!!」


そう言ったセイヤの眼からは熱いモノがとめどなく溢れ出ていた。

その雫は『ぬいぐるみ』へと、一滴、また一滴と染み込んでいった。


世界が一瞬にして夜の暗さを広げた。

時刻はまだ14時である。

ランチタイムが終わり、午後の授業も始まってしばらく経った頃だ。

急激に訪れたそのときに、教室にいた者たちだけでなく、誰もが驚くしかなかった。

すると、空一面にホログラムのようなモノが浮かび、大地を揺るがすような低い声が響き渡る。


『人間どもよ、よく聞くがいい

 我こそはリスファクターの総帥、サイフォルースである

 マジカルバンピーめ、よくも我が腹心、クラムディオを倒してくれたな

 いや・・・その強さ、まずは称賛してやろう、よくぞ我の首筋に切先を突き付けたものだ』


突然現れたその姿に、ユイトは動揺し、戦慄を覚えた。

総帥ということはすなわちラスボスだ。

そのサイフォルースが、自ら宣戦布告をしてきたのである。


『聞こえているだろう、見えているのだろう、マジカルバンピーよ

 我はこの言葉をもって、貴様に『決闘』を申し入れる

 きっかり、今日の17時だ

 我は持てる戦力のすべてを貴様に叩き付ける、そして我も貴様と戦ってやろうではないか

 これこそはまさしく最期の戦いだ、我が負けることなぞ万に一つもあり得ぬ

 貴様を滅ぼして、我が貴様ら人間どもを統べる者となってやろうではないか』


「サイフォ・・・ルース・・・リスファクターの総帥・・・っ!」


『さぁ、マジカルバンピーよ、まさか逃げるとは言わぬな?

 よいな、きっかり17時だぞ、我は逃げも隠れもせぬ

 貴様のすべてをかけてかかってくるがいい、ははは・・・はーっはっはっはっはっはっ!!』


それを言い残すと、ホログラムは消え、空はまた時刻相応の青空を取り戻した。

しかし、空気感はどこか淀んだものが残っている。

それはまさしく、サイフォルースが残した爪痕であることを感じさせた。

ともあれリスファクターが現れたことは疑いようもない事実である。

しかも、その決着を今日のうちにつけようではないか、というのだ。

授業はその時点で打ち切りとなり、生徒は全員帰宅、事態収拾まで自宅待機となった。


ユイトも自宅へと帰ると、セイヤが出迎え、しっかりと抱き締めた。


「ユイト!!大丈夫だったか!?」


「あ・・・うん・・・父さんは?」


「あ、あぁ・・・もしかしたら緊急出動になるかもしれないな、ユイトはどんな指示が出たんだ?」


「自宅待機・・・だって」


「そうか・・・とりあえず家でゆっくりしてよう」


「うん・・・」


一通りの会話が済むと、ユイトは自分の部屋に行き、

セイヤも「役場からの連絡を待つ」と言って、自分の部屋へと移った。

部屋でユイトを待っていたのはブンベだった。


「ユイトくん・・・」


「ブンベ・・・ついに『そのとき』が来ちゃったんだね・・・」


「うん・・・そうだね、ユイトくん・・・」


午前中にあったことをブンベはユイトに話すべきかどうか迷った。

しかし、セイヤが何を思っていたのか、ブンベにははっきりと分かっていなかった。

はっきりと分かっていない以上、不確かなことをユイトに言って混乱させるわけにもいかない。

今はただ、目前に迫ったサイフォルースとの決戦に向けて、ガーディアンとしてユイトを支えるだけだ。

セイヤのことはいったん置いておいて、ブンベはその想いを確かにした。


そのセイヤもセイヤで、自室にて件の『ぬいぐるみ』を傍らに、ベッドに腰掛けて一人呟いた。


「・・・生きていたのか・・・サイフォルース・・・っ!!」


セイヤは『ぬいぐるみ』を抱きかかえると、改めて語りかけた。

その眼にはやはり涙が流れている。


「ジョーさん・・・頼む・・・」


交錯する父子二人の想い。

ユイトはこれからマジカルバンピーとしてサイフォルースに臨むことになる。

クラムディオを倒した自分なら、ブンベと一緒なら、きっとサイフォルースだって。

すべてが終わったときにどんな目に遭うのかが分かっていようとも、

それがマジカルバンピーの宿命なのであれば、もう覚悟の上だ。

意を決したユイトは、時間が迫っていることをスマホの画面で確認すると、ブンベを連れて、セイヤに気付かれないよう、そっと部屋を出た。


「・・・ごめん、父さん・・・ボク・・・行かなきゃ」


気付かれないように部屋を、そして家を出たつもりのユイトだったが、

午前中にブンベを見たことで、セイヤにはすべて見通されていた。

セイヤもまた腕時計で時刻を確かめると、そろそろユイトは出ていったころであることを察した。


「・・・」


セイヤは無言のままに、古びたぬいぐるみをギュッと抱き締めた。

眼からは相変わらず涙が流れ続けている。

その一滴一滴が、しっかりと抱えている『それ』へと染み込んでいった。


「あの子が・・・俺の子が戦いに行ったよ、ジョーさん・・・

俺は・・・俺はあの子を・・・ユイトを護らないと・・・

ユイトがいなくなったら俺は・・・俺はどうしたら・・・ジョーさん!!」


すると、セイヤは抱えているお腹の辺りに確かな温かさを感じた。

温かさというよりは、もはや熱さだと言ってもいい。

それを感じたセイヤは、乱暴ではあったが、軽く投げ捨てるようにベッドへと放った。

そして、『ぬいぐるみ』であったはずのそれは、確かに自分の意思で動き出し、言葉を発し始めたのである。


「いてて・・・ここは、どこ・・・だ・・・んんん・・・?お前、もしかして・・・セイヤか?

うわ、マジか・・・そんなにでかくなっちまって・・・俺は、どれだけ寝てたんだ・・・?」


セイヤにとって、あまりにも懐かしく、そして今どうしても聞きたかったその声。

忘れかけていたその声が聞こえてきた瞬間、元々泣いていたセイヤは、さらに感極まった。


「ジョーさん・・・ホントに・・・本当にジョーさんなんだね・・・?」


「お・・・おう、俺だよ・・・どうしたんだよセイヤ、そんな顔して・・・お前がそんな顔してるの、見たことな

「14年だよ!!アレから14年も経ったんだよ、ジョーさん!!いや、そんなことよりも実は・・・」


感傷に浸っている余裕なんて、今はない。

セイヤはなるべく簡潔に、要点を絞って、『ジョーさん』と呼んだ存在に状況を説明した。

14年の雌伏の時を経て、リスファクターが再び人間界に侵攻してきたこと。

『我が子』がマジカルバンピーとして戦っていること。

そして今さっき、仇敵サイフォルースとの決戦に向かっていったことを、だ。


「なるほど、そうか・・・そんなことになってたのか、リスファクターどもめ・・・

分かった、それなら俺も一緒に戦おう、あのころのようにな」


「じゃ・・・じゃあ、ジョーさん・・・」


ジョーさんはセイヤをしっかりと見つめると、

これまでの礼を述べつつ、はっきりと断言した。


「当たり前だろ、それに・・・セイヤお前、今までずっと俺のこと大事にしてくれてたんだな

そこまでしてくれて、しかも起こしてくれたんだ

セイヤ、俺は・・・いつまでもお前のガーディアンだ」


「ジョーさん!!」


セイヤは改めてジョーさんを抱き締めた。

男と男の熱い抱擁、ほどけたかに見えた絆はしっかりと繋がれたままだったのだ。

セイヤの腕の中で、ジョーさんは感慨に耽るように呟いた。


「・・・しかし、まさか、お前に子供が産まれた上に、その子までマジカルバンピーになるなんてな」


「俺だってビックリしたわ!!

まさかと思って見てみたら、ユイト・・・俺の息子だったなんてさぁ!!」


「まぁいい・・・時間がないんだろ?そろそろ行くぞ、セイヤ

俺もここまでの借りを、ヤツらにしっかりと返してやる」


「14年ぶりかぁ、身体もつかな・・・」


セイヤのその言葉に、ジョーさんが返す。

その雰囲気は、長年の『戦友』でしか言えない感じがあった。


「おいおい、俺を誰だと思ってんだよ、セイヤ

俺がついてるんだ、お前だけじゃなくて、お前の子だって無事でいさせてやる

お前の子もマジカルバンピーだっていうんなら、俺は」


---その子のガーディアンでもあるのさ


駅前の大広場。

この街で一番開けた場所であり、周りには商業施設やバスセンターが建ち並んでいる。

普段なら人の流れもかなり多いところではあるが、リスファクターの、

それも総帥たるサイフォルースの出現が予告されていたことで、

このときはいつもの喧騒が嘘のような静寂に包まれていた。


時刻は16時59分を回ったところ。

あと少しで予告されていた17時だ。

ユイトはブンベを従え、変身しないままでロータリーに佇んでいた。


「来るよ・・・ユイトくん!!」


時計が17時ちょうどを指したところでブンベがそう言うと、

後ろに相応数の戦闘員を従える、ドス黒いオーラに包まれた者が現れた。

その雰囲気に気圧されそうになりながらも、ユイトは問い掛ける。


「お前・・・が・・・」


「小僧が、口の聞き方がなっておらん

それと・・・そこにおるのはミディアイか?となれば、貴様が・・・

なるほど・・・なるほど!!クラムディオが好みそうな顔をしておるなぁ!!」


「お前のせいでみんなが・・・この街が・・・ブンベたちミディアイが・・・!!」


怒りに震えながらも、ユイトはなんとか自分を制御し、

そして力の限り、高らかにその言葉を叫んだ。


「マジカルエクスペクティング!!」


ユイトの身体が光に包まれ、変身のシークエンスが始める。

いつものように足先から順番に衣装へと変わっていき、いつものように最後はお腹が大きく膨らむ。

が、さすがに相手がサイフォルースとあって、その姿はこれまでにないものとなっていた。


マジカルバンピーの戦闘力は、そのお腹に満たされるマナの量に依拠している。

相手の力が強ければ強いほど、満たされるマナの量は多くなり、それに比例してお腹の大きさも変わる。

実際、クラムディオのもと、ノクターンアッパー二人を相手にしたときは、小さめの双子を抱えた臨月ほどの大きさになった。


しかし、今日の相手はサイフォルース、曲がりなりにもリスファクターの総帥である。

ましてやサイフォルースが背後に従えているのは総帥直属の精鋭兵たち、いわば『近衛師団』だ。

それは、これまでの怪人が使役していた戦闘員たちとは、そもそも能力が違う。

リスファクター版マジカルバンピーと言えなくもなかったノクターンアッパーほどではないにしても、

並みの人間でもなんとかすればなんとかできる一般戦闘員と比べると、力量の差は明らかなものがある。


そんな精鋭たちを従えた上で、ラスボスが出てきたわけだ。

このときのマジカルバンピーのお腹は、大きめの五つ子を孕んだ臨月の大きさまで膨らみ上がっていた。


「うーん・・・やっぱり・・・そうじゃないかなぁとは思ってたけどさ・・・」


「・・・ごめんね、マジカルバンピー」


「まぁ・・・もう仕方ないよね、それに・・・これで最後なら・・・っ!」


「何をごちゃごちゃと言っておるのだ・・・かかれ!!」


サイフォルースが号令をかけると、戦闘員たちが一斉に襲いかかった。

一般戦闘員と比べて、見るからに屈強なそれらを相手にどこまで立ち回れるものかと思ったが、なんのことはなかった。

マジカルバンピーが戦闘員に向かって一蹴り入れると、その衝撃で三人の戦闘員が吹っ飛ばされ、

叩き付けられたそれらは一撃で戦闘不能になったのだ。


「な・・・なにぃ!?」


「え・・・?いや・・・こんな強くなるの!?」


確かに、今蹴散らした相手はサイフォルースではない。

それでも、サイフォルース直属の精鋭部隊だ。そのはずだ。

だとしても、まるで一般戦闘員を蹴散らしたかのように、

なんなら一般戦闘員が相手だったなら、小指の爪先で戦えたかもしれないと思わせるように、

いとも簡単に蹴散らせてしまったことに、マジカルバンピーも困惑を隠せなかった。


考えてみれば最初から、『対サイフォルースを想定したマナの量』が、そのお腹に満たされているわけである。

変身した時点で、『サイフォルース以外は相手にならない』状態に強化されていたのだ。

さらに、それを補強するようにブンベが言い放った。


「僕らを侮らないでほしいなぁサイフォルース

『前の戦い』から何も研究してないわけがないじゃん」


「おぉぉのれぇぇぇぇぇ・・・虫けら風情がぁ・・・小賢しい真似をぉぉぉぉぉっ!!」


サイフォルースが怨嗟の雄叫びを上げる。

その叫びが響く中で、それでもブンベはマジカルバンピーにそっと囁いた。


「だからといって油断はダメだよ、マジカルバンピー

僕らも研究してたとはいっても、相手はやっぱりサイフォルースだからね」


「うん・・・分かってるよ、ブンベ」


「えぇい!!手を緩めるな!!マジカルバンピーを・・・ミディアイを潰せぇっ!!」


改めてサイフォルースが号令し、まだ残っている戦闘員たちが矢継ぎ早に向かってくる。

しかし、対サイフォルースを想定した戦闘力を持つ今日のマジカルバンピーには、

いくら精鋭だけを揃えた近衛師団であっても、相手にはならなかった。

気が付くと、舞台に立っているのはマジカルバンピーとブンベ、そしてサイフォルースだけとなっていた。


「・・・もう、お前だけになっちゃったね、サイフォルース?さぁ・・・どうする?」


「・・・ふっ・・・ふっ、ふふふっ・・・」


唐突に不敵な笑い声を出し始めたサイフォルースを、マジカルバンピーは怪訝そうに見返した。

為す術ないと思って気が狂ったか、それとも負け惜しみか。

不思議そうにマジカルバンピーが見つめていると、サイフォルースは口を開いた。


「な、る、ほ、ど・・・なるほど・・・なるほどなぁ・・・

あぁ、クラムディオ・・・貴様が『遊び甲斐がある』と言ったのが、我にもよぉーく分かったぞ・・・」


「何を言ってるんだ・・・わけ分かんないよ・・・」


「まさか再びこの姿を見せることになるとは思わなかったがな・・・

貴様の『忘れ形見』、ありがたく使わせてもらうぞクラムディオ・・・変身!!」


「なっ・・・変身・・・!?」


「マジカルバンピー!!アレが・・・アレがサイフォルースの・・・」


「『真の姿』・・・とか言わないでよ、ブンベ?」


「・・・ごめんね」


ブンベのその言葉に、マジカルバンピーは思わず頭を抱えた。

言葉にされなくても、それがサイフォルースの真の姿、完全体であることは、マジカルバンピーにもよく分かった。

自分とほぼ同じくらいの大きさのバストを持ち、自分とほぼ同じくらいの大きさのお腹を持っているように見えるが、

そもそもサイフォルースは自分よりも遥かに体格がいい。背も高ければ、何もかもがでかい。

それはすなわち、『相対的に自分よりも戦闘力が高い』だろうことを示していた。


ミディアイたちは前回の戦いから研究し、サイフォルースの力量を見定めにかかったものの、

この真の姿のサイフォルースを相手に『前のマジカルバンピー』は、

その身体を傷付け、しばしの戦闘不能と撤退に追い込むことはできたが、

完全に亡き者とすることはできなかった。

逆にミディアイは、『種族最強の勇敢な戦士』を失うこととなってしまった。


それがために、サイフォルースの力量の分析は完璧なモノとはならず、

そのときのマジカルバンピーが抱えていたとされるマナの量から逆算して、

「これくらいなら完全体のサイフォルース相手でも勝てるだろう」とされただけだった。

そして今、こうしてサイフォルースは、再度リスファクターを率いて人間界に侵攻してきたわけだ。


そのサイフォルースは、前回の戦いと同様、真の姿をマジカルバンピーに見せ付けている。

なんなら、この姿は以前よりも強化されていることが、サイフォルースの表情から窺えた。


「ふぅむ・・・さすがはクラムディオ、我が側に置き続け、我の側に居続けただけのことはある

この身体、この力・・・実に馴染むではないかぁ!!やはり王たるものは、こうでなくてはなぁぁぁ!!」


もはや勝利を確信したかのような、その叫びは空に轟き、大地を揺らした。

その声にマジカルバンピーもブンベも、思わず怯んでしまう。

少し絶望に呑まれそうになったそのときだった。

マジカルバンピー=ユイトにとっては馴染みのある声が聞こえてきた。


『そこまでだ、リスファクター!!

 ・・・久しぶりだなぁ、この感じ・・・っ!!そうだった!!ユイト、助けに来たぞ』


「嘘・・・だろ・・・父さん!?それに・・・それ、もしかして・・・!?」


『お前が今のマジカルバンピーのガーディアンか、よくここまで頑張ったな、もう大丈夫だ』


「そのお顔、もしかしてあなたは・・・伝説のガーディアン、ジョーさん!?」


自分と同じような衣装だが、黒と赤を基調にしたカラーリングで、

その傍らにはブンベに似ているが、黒と赤の毛並みを持った、猫のような見た目をした生き物が随行している。

衣装に包まれた大きなバストを湛え、大きく開いた腹部からは、自分と変わらない大きさのお腹が露になっている。

髪型はショートカットでサイドツインをしているが、眼鏡をかけたその顔立ちは、ユイトには見覚えしかない。

突然に現れた存在にサイフォルースも動揺し、そして声を上げた。


「なっ・・・マジカルバンピーが二人だとぉぉぉぉぉ!?」


「久しぶりだなぁ、サイフォルースぅ・・・まさかまた会えるとは思ってなかったよぉ・・・?」


「待てよ・・・思い出したぞ・・・その雰囲気は・・・

貴様・・・『あのときの』マジカルバンピーかぁぁぁぁ!!!!!」


サイフォルースの言葉に、ユイトは驚きを隠せなかった。

そしてまた、午前中にブンベが抱いた疑問の答えも出たわけである。

それでもユイトはやはり自分で訊いてみたかった。


「父さんが・・・『前の』マジカルバンピーだったの・・・?」


「・・・黙っていて悪かった、ユイト

でも・・・話せるわけないだろぉ、こんなことぉ!」


「あー・・・うん・・・父さんのその気持ち、今ならボクも分かる・・・」


ユイトの問いに、セイヤも軽く頷いてからそう答えたが、

その答えも今のユイトには痛いほど理解できることだった。

実の父親がマジカルバンピーだったというショックはあるにせよ、「話せるわけがない」というのは本当に理解できることだからだ。


「ホントに・・・話せるわけないよねぇ、こんなこと・・・

ボクもそんな気持ち・・・分かりたくはなかったけど・・・」


「ホントになぁ・・・なんで分かっちゃったんだろうな、お互いに・・・」


父子の会話がそれなりに交わされていく裏で、ミディアイ同士の会話も交わされていた。

ブンベからするとジョーさんは種族の誇りであり、レジェンドだからだ。

その伝説の存在であるジョーさんが、なんと自分の目の前にいるのだから、尚更だ。


「まさか・・・あなたに会えるだなんて・・・

本当に、あのジョーさんなんですよね・・・?前の戦いで燃え尽きたという・・・」


「あぁ、その通りだ、お前が言う通り、俺はあのとき燃え尽き、しばらく眠りに就いていたようだ

だが・・・アイツが・・・セイヤがその熱い心と涙で、俺を起こしてくれた」


「ユイトくんのお父さん・・・セイヤさんがマジカルバンピーだったなんて・・・

前の戦いでサイフォルースを封じ込めたという、伝説の魔法少女・・・それがセイヤさんだったなんて・・・」


「あぁ、それもその通りだ、セイヤは俺が知る限り、最高のマジカルバンピーだった

だったが・・・どうやらお前は、それ以上の子をマジカルバンピーに選んだようだな、ブンベ

お前が選んだというよりも・・・お前が選ばれたのかもな」


ジョーさんは無愛想ながらも確かな微笑みをもって、ブンベに言ったが、

ブンベはどこかきょとんとした表情を浮かべてから、はにかみ笑いをしてみせた。

憧れの存在であり、話だけでしか知らなかった伝説のガーディアンであるジョーさんに、

自分の名前を呼んでもらえたことだけで、ブンベは舞い上がりそうになった。


一通りの会話がそれぞれ終わると、二人と二匹はそれぞれにアイコンタクトを取り、

自分たちが「ONE TEAM」であることを確認してから、まずセイヤが口を開いた。


「さぁ、あのクソ野郎を待たせちゃってる

同じ力を持つ俺たちが一緒に戦えば、今度こそアイツをあの世送りにしてやれる!!」


「うん・・・そうだね、ボクたちなら絶対にできるよ、父さん!!」


「準備は万全だろうな、ブンベ?

俺は古い戦い方しか知らんから、よろしく頼むぞ」


「こちらこそ、ジョーさん!!僕も勉強させてもらいます!!」


改めてセイヤとユイトは、その傍らにそれぞれのガーディアンを従え、

サイフォルースに向き合って啖呵を切った。


「さぁ・・・命乞いしたって無駄だぞぉ、サイフォルースぅ・・・?」


「今度こそ・・・ボクと父さんで、二度と起き上がれないようにしてやる」


「「「「覚悟しろ、サイフォルース!!!!!!!!」」」」


ここに最終決戦の火蓋は切られた。

まさかマジカルバンピーが二人現れるとは、サイフォルースも予想だにしていなかった。

しかもその二人は揃って最大出力であり、そのうちの一人はかつて拳を合わせたことがある。


だが、自分もリスファクターの総帥、総大将である。

ミディアイを滅ぼし、人間界を支配して、世界中のマナを独占する。

その宿願を果たすためには、こんなところで倒されるわけにはいかない。

そもそも、自分がこうして復活できたのは、今は亡きクラムディオの尽力あってこそだ。


セイヤによって雌伏の時を過ごすことを強いられたあのときから、クラムディオはずっと自身の側に居続けてくれた。

クラムディオがいたからこそ、自分はこうして立ち上がることができたし、

今の完全体になれたのも、クラムディオが強化術を自分に施してくれたからだ。

そのクラムディオも今は亡き者にされてしまった。目の前にいる白いほう---ユイトによって、だ。


「まずは白いほう、貴様からだ!!

貴様の首、クラムディオへの手向けの花にさせてもらうぞ!!」


側近中の側近を討たれた主君の怨み。

その相貌が悪鬼羅刹と化したサイフォルースは、ユイトに襲いかかった。

マジカルバンピーもそうだが、サイフォルースもその身体で、よくもここまで動けるものだと思わせる。

さらに言うならその体格は、いうて一介の人間に過ぎないセイヤやユイトと比べるまでもないわけだ。

荷を満載にしたアメリカメーカーのピックアップトラックが、日本メーカーの軽自動車ばりに小回りを利かせながら、

マクラーレン・F1やブガッティ・ヴェイロン並みのスピードで迫ってくると思えばいい。


「くっ・・・ぬぁっ!!」


「ユイト!!大丈夫か!?・・・喰らえっ!!」


ユイトを援護するように、セイヤが魔法のステッキを振りかざして、サイフォルースに一撃を入れていく。

その隙を見てユイトも同じようにサイフォルースへ攻撃する。

それをサイフォルースは、かたや受けつつ、かたや手で振り払っては、執拗にユイトを追い回し続けた。


「おのれ・・・クラムディオを・・・我が半身が削り取られた苦しみが分かるか・・・

この怨み、晴らさずにおれるものかぁぁぁ・・・マジカルバンピィィィィィーっっっ!!!!!」


そのとき、セイヤが気付いた。

サイフォルースがユイトを追い回しているのは、片腕だったクラムディオを斬り落とされたからだ。

つまり今のサイフォルースは、どちらかというと私怨で動いているということになる。

サイフォルースにとってクラムディオは自身の半分だったわけだが、セイヤからすればユイトは自分の半分だ。

そのユイトを奪われるだなんて、考えるだけでもセイヤは身の毛がよだつ。

そこでセイヤは、ジョーさんとブンベに目配せをしてから、一計を案じた。


「そこまでだ、サイフォルースぅ・・・

どうやらお前の相手はあっちじゃなくて・・・俺みたいだなぁ・・・?」


「ぬうぅぅぅ・・・邪魔するな、マジカルバンピー!!

貴様とは後でじっくり遊んでやる、まずは・・・白いほうからだぁぁぁっ!!」


「まぁ、そう言うなって・・・俺とてめぇの『仲』だろぉ・・・?

てめぇのことは俺のほうが分かってんだよ・・・気持ちよくイかせてやれるぜぇ・・・?」


セイヤのその言葉に、ジョーさんは意に介さない様子だったが、ブンベは少し動揺した。

それぞれにその場の感想を述べる。


「ははははは!さすがセイヤ、変わらんな!

やっぱ『俺のマジカルバンピー』はそうじゃねぇとな!」


「セイヤさん・・・なんて言葉遣いを・・・

ユイトくんがそういう子にならなくてよかった・・・」


「ブンベって言ったっけぇ?うるさいぞぉ?

それよりも・・・俺の言いたいことは、ちゃんと伝わったのかなぁ?」


セイヤの問い掛けにブンベがキッパリと答える。

目配せをもらったときに、セイヤが何を求めていたかは、ジョーさんとブンベにはしっかり伝わってきたからだ。

そして、セイヤの要求に応えるため、ジョーさんとブンベは短い間に擦り合わせを行なった。

その答えが『これ』である。

サイフォルースはお腹を押さえ、その場にうずくまった。


「なっ・・・ぬあっ!?こ・・・これ・・・は・・・ぁっ!?」


「こういうことですよね、セイヤさん?」


「さ~すがぁ、ちゃんといい後輩育ってんじゃん、ジョーさん」


「今はこういう戦い方があるもんなんだな・・・新しい戦い方ってヤツも勉強せんとなぁ・・・」


「いえいえ・・・ジョーさんの力もお借りできたから、このレベルの足止めにできてるんですよ

僕だけだったら、とてもじゃないけど無理ですよ、こんなの」


「き・・・貴様らぁ・・・ふぅっ、うっ・・・いったい、何、をぉ・・・っ!!」


セイヤが案じた計略。

それは、サイフォルースの動きを止めることだった。

リスファクターの戦闘力もまたマナ---マナの暗黒面であることは、セイヤとジョーさんにはすでに分かっていた。

暗黒面であってもマナはマナ、普段マジカルバンピーとして使っているものとは、コインの表と裏だ。


しかし、ライトサイドのマナを扱うことには慣れていても、ダークサイドの扱い方はよく分からない。

これはいわば旧世代であるセイヤやジョーさんにはどうしようもないことではあるのだが、

そこで活用されたのが、ブンベが持つ『現代戦術の知識』である。


セイヤが普通の人間に戻り、ジョーさんが眠っていた14年の間にミディアイの世界では、

リスファクターの研究が進むと同時に、マナのダークサイドについての研究も進められた。

その結果、ブンベたちの世代では、ダークサイドのマナを操作して暴走させることが可能となっていたのだ。

つまり今、サイフォルースがこうしてうずくまっているのは、ブンベがジョーさんの力を借りつつ、

サイフォルースの胎内にあるダークサイドのマナを暴走させたことにより、陣痛を引き起こされたからであった。


「ぬぁ・・・うぐふぅ・・・そんな・・・そんな馬鹿なことが・・・ぐううぅぅぅぅぅっ!!!!!」


「だから言ったでしょサイフォルース、『僕らを侮らないで』って

まさか本当に効果を出せる機会があるとは思わなかったけどね」


ここに形勢は逆転した。

サイフォルースの動きが止まったことで、追い回されていたユイトにも余裕ができ、

この間に体力も回復することができた。


セイヤはというと、突如襲ってきた陣痛に苦しむサイフォルースを目の前にして、

もしこれがニチアサだったのなら、『絶対にお茶の間にはお届けできない笑顔とリリック』を浮かべながら、

致命打になることは絶対にないが、確実に傷にはなる程度の攻撃を与え続けていた。

一撃入るごとにサイフォルースが弱々しい呻き声を上げるその様子に、ジョーさんはゲラゲラ笑いながらセイヤに加勢していたが、

ブンベは苦笑いしながら、少し離れたところにいたユイトに寄り添って、

その光景が目や耳に入らないようにケアしていた。


「ん・・・?父さん、何してるの?」


「うん・・・ユイトくんは見ないほうがいいよ・・・

ていうか見ちゃダメ、知らないままでいて、お願いだから」


「・・・?まぁ、ブンベがそう言うんなら」


そろそろ頃合いが来たようである。

セイヤはその手をいったん止めると、サイフォルースに向かって言い放った。


「てめぇの半身が削られたからって、それがなんだってんだよ、サイフォルースぅ・・・

所詮てめぇは、『その程度』でしかない、ってことだろぉ・・・?」


そして表情を作り直すと、セイヤはユイトがいる方向を向き、『最愛の我が子』を呼び寄せる。

ユイトがセイヤに立ち並ぶと、まずはユイトに話し掛けた。


「ユイト・・・ホントによく・・・ここまで頑張ったな」


「父さん・・・でも、ボク・・・父さんに言えなくて今まで・・・」


「言うなユイト、それは父さんだっておあいこさ

さぁ、これで最後だ・・・とどめの一撃、父さんと一緒にやろうか?」


「・・・うん!!」


セイヤとユイトは、今度は二人揃ってサイフォルースを睨み付ける。

二人とも魔法のステッキを構え、いつでもサイフォルースに『最期』を迎えさせる準備は整っている。

まずはセイヤから、『贈る言葉』が紡がれ始めた。


「サイフォルースぅ・・・てめぇが『その程度』でしかない、ってのはさぁ・・・

俺とユイトにはある『絆の力』が、てめぇにはなかったから、ってことだぞぉ・・・?」


「はっ・・・あっ・・・絆、だと・・・ぉっ?」


「そのクラムディオってのはさぁ・・・さぞやてめぇには、大事な存在だったんだろうなぁ・・・

けどさぁ・・・てめぇは結局、そいつとの絆を・・・信じられなかったってことだろうがよぉ!!」


マジカルバンピーとしてのセイヤはこんな風だったのか、と、ユイトは少しビックリしたが、

さっきブンベが自分に見せようとしなかったのも、なんとなく納得ができた。

ブンベは変なところで幻想を持ちすぎ、もしかしたらいわゆる『ユニコーン』なんじゃないか、とユイトも思ってはいた。

セイヤの啖呵を引き継ぐようにして、今度はユイトが話し始めた。


「うん、確かにクラムディオは手強い相手だったよ、ボクの親友まで手駒にしたくらいだったからね

でも・・・それがクラムディオはダメだったんだよね、それでボクを完全に怒らせちゃった」


「ふっ・・・ノクターンアッパーのことか・・・?アレは・・・ふぅっ・・・うっ!・・・

我から見ても、クラムディオらしい・・・ふぅぅ・・・いいアイデアだとおも・・・

「黙れ、それでクラムディオを倒されたからって、ボクを殺そうとした?ボクを?

父さんがマジカルバンピーだったのはボクも今日知ったけど、

もしボクが死んだら、父さんは間違いなく・・・てめぇのことぶっ殺してるだろうなぁ!!」


ユイトのその話し方に、ブンベは天を仰いだ。

「あぁ・・・やっぱユイトくんも、セイヤさんの子だったんだ」と、思わず胸の前で十字を切りそうになった。

セイヤとジョーさんはというと、そんなユイトを暖かい目で見守っていた。

なおもユイトはサイフォルースに話し続ける。


「感謝しなよ、サイフォルース

これでアンタも、クラムディオにまた会えるんだ

これから父さんとボクの二人・・・いや、ジョーさんとブンベもいるから四人か

これから四人で、アンタをあの世に送って、ア・ゲ・ル♡」


「ははははは!!やっぱ最高だな!!さすがセイヤの子だ!!

『俺のマジカルバンピー』の子も、ちゃんとマジカルバンピーだ、ってことだな!!」


「僕・・・育て方を間違えたのかなぁ・・・」


「遅かれ早かれこうなってたんだと思うよブンベ、だって・・・ユイトは俺の子だもん」


ブンベがため息をつく。

セイヤとジョーさんはやれやれという顔でそれを見て、ユイトはどこ吹く風だ。

それからセイヤは左手、ユイトは右手にそれぞれ持った魔法のステッキを構え直し、その先をサイフォルースへと向けた。

ジョーさんとブンベが二人に言う。


「もう何も考えずに、フルパワーを叩き込め

セイヤとユイト、今の二人のエナジーが合わされば、あっという間に片付く」


「セイヤさんがだいぶ削ってくれたからね

ユイトくん・・・セイヤさん・・・ホントに今までありがとう、これで・・・これで全部終わるよ」


改めてユイトが、最期の言葉をサイフォルースに投げ掛けた。


「・・・最後に言っておきたいことは?」


「・・・あの世で、待ってるぞ・・・貴様ら・・・」


「あっそ、じゃね」


ユイトはセイヤと顔を合わせる。

二人は無言で頷き合ってから、もう一度サイフォルースに顔を向けた。

もう二人の間に、それ以上、それ以外の言葉はいらなかった。

これは、二人がマジカルバンピー同士である以前に、実の父子であるからこその絆の勝利だ。


「マジカル・・・」


「ファイナル・・・」


「「アウスブラストォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」」


白と青、赤と黒の閃光が螺旋を描き、サイフォルースへと突き刺さる。

そのまま、断末魔の叫びすら残すことなく、街を、世界を脅かした悪夢は消え去った。

すべてが終わった。

すべては片付いたのである。


「終わった・・・ははっ・・・終わったんだ・・・はっ・・・ははっ・・・」


ユイトは目を見開き、口も開けて、乾いた笑いを出しながら、

サイフォルースを倒しきった実感が押し寄せてくるのに震えが止まらなかった。

それを見たセイヤは、ゆっくりとユイトの背中に手を回して抱き締めようとする。

しかし、お互いのお腹が邪魔をして、その手は組まれることはなかった。

お腹同士はくっつき合って、お互いに押し合っている。

なんとか手が届く範囲にあった両肩を掴んで、セイヤはユイトに言った。

それに続いて、ブンベとジョーさんもユイトに声を掛けていく。


「そうだ・・・終わった・・・終わったんだよ、ユイト・・・」


「そうだよユイトくん、終わったんだよ・・・僕たち・・・サイフォルースに勝ったんだよ!!」


「ヤツの気配はどこにも感じられん

ここまで完全にリスファクターを滅ぼせただなんて・・・」


ジョーさんのその言葉を聞いて、ユイトは全身の力が一気に抜けた。

腰砕けになって、膝立ちになるように地面へと崩れ落ちていく。

その眼からは大粒の涙が零れていた。


「わっ・・・ゆ、ユイト!?本当に大丈夫か!?」


「あ・・・父さん・・・ボク・・・ボク、本当に・・・本当に終わらせたんだね・・・?

ブンベ・・・ジョーさん・・・本当にボク・・・うっ・・・ううっ・・・」


その状態のユイトの頭を、セイヤはバストとお腹で包み込むようにして抱き締めた。

続柄は父ではあるが、今のその姿は慈母そのものだ。

セイヤは改めてユイトに、今度は優しく語り掛けた。


「いいんだよユイト・・・もう・・・もう思いっきり泣いていいんだぞ、ユイト

お前は・・・それだけのことをやったんだ、お前は世界を救ったんだ!」


「父さん・・・うっ・・・ううう・・・うわぁぁぁぁぁぁぁん!!

ボク・・・ボク、ホントは怖かったんだぁ!!いきなりマジカルバンピーにされてさぁ!!

ブンベも「ユイトくん以上の適材はいなかった」しか言わないしさぁ!!うぅ・・・うっ・・・ぐすっ・・・」


ユイトの涙の告白に、ジョーさんが呆れた顔をした。

そのままブンベに話し掛ける。


「ブンベ、お前・・・まさか、無意識でこの子を選んだとでもいうのか?

さすがにガーディアンじゃなかったとしても、ミディアイなら分からんはずはないと思うが・・・」


「いやぁ・・・さすがにおかしいなとは思いましたよ?

まさか人間で、ここまでマナの循環量が多い子がいるなんて思いませんでしたからね

だから僕はユイトくんを選んだんですよ、この子ならきっと、マジカルバンピーとして戦えると思って」


ジョーさんは開いた口が塞がらなかった。

もしブンベが、何かに気付いてユイトを選んだのだとしたら、恐らくブンベは自分を凌ぐ戦士になれただろう。

しかし実際には、不思議には思ったものの、それ以上のことには気付かずに選んでいたことがはっきりしたのだ。

ジョーさんはただただ呆れるしかなかった、そしてブンベに告げた。


「お前・・・それでもガーディアンか!?それでもミディアイか!?

この子はどう考えても特別だ!!人間でこのマナの循環量はおかしいと思えたことは褒めてやるが、

こんな量、『マナの塊でもない限り』あり得んだろうが!!」


「マナの・・・塊・・・?

いや、でもジョーさん、そんなことがあり得るんですか?ミディアイでもそんなことないってのに・・・

それにユイトくんは・・・この通り『人間』ですよ?」


そのとき、ブンベとジョーさんは『あること』を思った。

特にジョーさんは何かピンと来るものがあったらしい。

二体はセイヤのほうを向くと、ブンベが尋ねた。


「あの・・・セイヤ、さん・・・?

そういえば、ちゃんとお会いするの初めてなんで失礼かもですけど・・・

普段から『だいぶお若く』見られませんか・・・?」


「え・・・えぇ、まぁ・・・」


「ユイトくんって確か、14歳・・・ですよね・・・?」


「そ・・・そうですね・・・」


どことなくセイヤの受け答えも歯切れが悪い感じがある。

それに続くように、ジョーさんも言葉を重ねた。


「セイヤ、お前確か・・・俺が起きたときに「14年経った」とか言ってなかったか・・・?」


「んー・・・そ、そんなこと言った・・・かなぁ・・・?」


「・・・そういえばボク、父さんの歳って聞いたことない

毎年、ボクの誕生日はお祝いしてくれるけど、父さんの誕生日ってお祝いしたことないや・・・」


「ゆ、ユイト・・・お前まで・・・」


「そういえば、母さんの写真とかも見たことないなぁ・・・命と引き換えにボクを残した、って聞いてるけど・・・

でも、父さんと二人で写ってる写真とかもないのって、さすがにおかしくない?ねぇ、ブンベ、ジョーさん、どう思う?」


「い・・・いや、ほら・・・それは・・・だって・・・

父さんとアイツだけの、二人だけの思い出のままにしておきたくって・・・その・・・」


ブンベとジョーさんが疑いの目をもってセイヤを見つめる。

ユイトからも疑問をぶつけられてしまっては、もはやセイヤは観念する他なかった。

これ以上の隠しだては不可能と悟り、少しの沈黙の後、セイヤは腹を括った。


「・・・あー!もう!分かった!全部・・・全部話すから!

その代わり・・・何を聞いてもビックリするなよ、特に・・・ユイト

お前にはかなりショックな話かもしれないから、覚悟してくれ」


【劇場版に続く!!】

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