りーいん・かーねーしょん?前世から妻がついてくるンですけど
国名はキングダムブリテッシュ
馬車に轢かれかけて前世を思い出した。
「……お、俺……男だったー!?」
道端で土にまみれたドレス姿の令嬢が突如叫んだことにより、王都ドンロンはその日、小さな騒ぎに包まれた。
私の名前はダイアナ・フォン・デール・ミューゼンシュタイン(長い)。上級貴族の令嬢であり、趣味は昼寝とパン食い。特技は気配を察知すること。
その日も普通にパンを買いに出かけた帰り道――馬車に轢かれかけ、命の危機を感じた瞬間に、なぜか脳内でムービーが再生された。
『やあ、俺は前世で放浪貴族・チャールズって名乗ってた男さ! 気ままに生きて、気ままに死んだ!』
(※最期:野犬に追われて沼に落ちて窒息死)
さらに映画は続いた。そこには三人の妻。……一番目は政略結婚、二番目は金目的、そして――三番目。
「……って、あれ、三番目の妻……うちの従姉妹じゃね?」
「ダイアナ、お茶、どうぞ。温度はあなたの好みに合わせてあるわ」
「……気味が悪いわカミラ」
「えっ、なんでぇ?いつも通りでしょぉ?」
カミラ・フォン・デール・ミューゼンシュタイン(こっちも長い)。私の従姉妹。生まれも育ちも似ていて、周囲からは「仲良し姉妹♪」と勝手にラッピングされてきた。
でも真実は一つ。
彼女、ずっと私のストーカーです。
幼少期、私の後ろを常に5メートル以内で歩く。私が食べれば真似して食べ、寝れば起きる。会話も行動も、もはやリアルコピー。
「お姉さまって、ほんっとうに私の理想なんですぅ♪」
「やめろその目ぇ!!その距離ぃ!!」
しかも今思い出したわ。前世でもこの粘着質だった女、ずっと私――いや、**前世の“俺”**を追ってた。砂漠だろうが雪山だろうが、なぜか現れ、
「あなたの三番目の妻ですから」
と涼しい顔していた。もう呪いの類だろコレ。
その後、私は思い切って都に飛び、距離を置く作戦に出た。自由に生きよう。過去は過去、転生はやり直しだ。
そんなある日、王宮騎士団の公開訓練で見かけた細マッチョの青年に目を見開く。
「お前……ハスナットか!?」
「ん?あれ、ダイアナ?って、うわ前世のあいつじゃん!?」
前世の親友、剣豪ハスナット=ヴァンガルドも転生していた。再会は喜ばしいもので、次第に意気投合し、いい感じに。
(あれ……今世の私はダイアナで、彼も転生者で、前世の性別とか無視すれば普通に恋人候補じゃ……?)
そう思った私は、ついに結婚を決意。
「カミラには悪いけど、幸せになります!」
と誓ったその日の夜、寝室のカーテンの影に妙な気配が。
「おめでとう、ダイアナ。貴女が幸せなら、私は……」
「うわあああああああ!出たああああああああああ!」
「ちょっとだけ、屋根裏に住ませて?」
「やめろおおおおお!」
時は流れ、私は結婚し子どもも授かった。幸せいっぱいの中で、ある日、家令が持ってきた一通の手紙。
《今週のダイアナ観察日記》
・朝6時、起床。寝癖が右に跳ねていて可愛い。・朝食:パンケーキ(シロップ多め)幸せそうで何より。・夫ドディ(ハスナット)氏に「遅刻しちゃうよ」と声をかけた際の顔が非常に良い。
末尾の署名はもちろん、
“永遠に貴女の三番目の妻より”
「……なあ、ダイアナ。俺たち、また引っ越さないか?」
「賛成。今度は魔境にでも行きましょ♡」
でもなんだかんだで、私は彼女に感謝している。
ここまで執着されるって、ある意味、愛だもの。……ストーカーっていうか、ファン?いや、やっぱストーカーだわ。
「りーいん・かーねーしょん? 私の人生、いつからホラーだったのかしら……」
今日もどこかでカミラは、私を見つめている――たぶん、木の上あたりから。
シリアスバージョンも書きます
カーネーションの花言葉は深い愛、濃い赤い色は哀しみ。