第6話 初陣2
(まずいぞ……雪瀬さんを見逃してしまった。)
蒼矢は一人でどう動けばいいかわかれなくなっていた。そして、考えた結果ひとまず見晴らしいのよい場所に移動しようと考え、周りの建物の屋根に登ろうとした。
得意の身体能力で、素早く駆け上がる。しかし、建物の高さに凹凸があり、思ったより広く見えなかった。
しかし、かすかに音はする。生き物の音だ。それもどんどんこっちに近づいてくる気がした。
(雪瀬さん……それとも、いや、敵!)
素早く後ろを振り返ると、敵が鋭い剣のようなもので蒼矢を狙った。蒼矢は腕にかすり傷を負ったが、体制を既に立て直し、反撃しようとした。
「ははははは、お前、データにいねえやつだな。新人ってとこかよ。」
敵はそう言い、蒼矢を圧倒する。
(くっそ、捕まった。しかも、今まで訓練していたときはまるで違う。そうだ、やっぱり聖都さんの戦い方にいちばん近しい……)
蒼矢は1か月前の感覚を取り戻そうと自分の体に集中した。
「だったらさっさと潰さねえと。本物の第一部隊は全員厄介者だ。新しい芽は潰す!俺たちの計画のために!」
「ぐはぁっ!」
みぞおちを蹴られた蒼矢は、ぐらつき壁で体を支えた。
「さあ、トドメとしよう。」
(くそ、全然歯が立たねえ。肉体的に見ても日本人の平均をはるかに超えている……でも、勝たねえと、勝たねえと雪瀬さんたちを失望させてしまう、そうなったら家族の仇どころではなくなるだろう!)
そして、敵の刃が蒼矢の喉を貫こうとするその時、蒼矢は最後の力を振り絞り、壁を伝って避けた。
(そうだ、あの練習試合の後意識してたじゃないか、変則的な相手には変則的な攻撃を!)
「っ何!?やるじゃねえかよ。」
「俺は!お前らの存在を知った以上、手足がもげ、全身から死が溢れようとも、地獄まで道ずれにする覚悟がある!より多くの輩を道ずれにするまで、死ぬ訳には行かないんだ!うおおおおおお!」
蒼矢は思い切り攻めに切りかえ、帯刀していた刀を抜刀し、敵に切りかかった。
(まだ銃はなれねえ、だったら長年染み付いているこの剣で……!)
敵は即座に守りの体制を見せたが、運良くその刃は敵の手首を切った。
「ぐっっ、くそっ。血が、止まらねえ……だが!」
敵は止血も気にせず即座に懐にあった銃を構えた。
パン パァァン
銃声がなった。距離的にも体力的にも避けることが難しいと考えた蒼矢は咄嗟に手で自分を庇った。
しかし、その音と同時に敵が持っていた銃が地面に落ちる音がした。そして、前にバタンと敵が倒れた。蒼矢がふと顔を上げると、敵の後ろに銃を構えた雪瀬が居た。
「雪瀬……さん?」
「へ〜生き残ってんじゃん!上出来上出来!」
雪瀬は若干ニヤつきながら蒼矢に近づいた。
「えっ、それってどういう……」
「試してたんだよ」
変わらないニヤついた表情で倒れ込む蒼矢の目線に合わせて言った。
「今回の敵、雑魚だったでしょ?だから、そんな奴に負けてたら論外じゃん?だーかーら、僕たちはわざと全力を出して新人と歩幅を合わせずに動いて、蒼矢を試したってこと。あのときから変われたかをね。」
「……そうだったんですか。」
「てか、僕の助言ちゃんと聞いてたんだ。偉いね。前より動きが遥かにいい。この調子で行けば今は心配することないね。まだ経験が足りない分はこれからさ。」
終始にこやかに雪瀬は語った。成長してくれたのが思いのほか嬉しかったのだろう。しかしそれとは裏腹に、蒼矢はしっかりと敵をし止められなかったことに後悔して、俯いた。
「そうですね、やはりそう上手くは行かなかったです。最後は助かりました。」
と、しんみりした声で言うと、
「でも、死んでないじゃん。この世界では死んだら負けだよ。この勝負は君を殺せなかったあの雑魚敵の負け。粘れることも一種の実力だ。」
そう言い、雪瀬は蒼矢の頭をコツンと叩いた。それと同時に蒼矢の気持ちは少し軽くなった気がした。
「あ、聖都〜!本部に連絡したー?……聖都?」
ふと聖都の方に顔をやると、少し複雑な表情をしていた。
「雪瀬さん、こいつ……2週間前の宝石店強盗殺人事件の首謀者らしいです。雪瀬さんの言葉を借りるならと雑魚のトップレベルぐらいいだと思います。これ相手に新人当てるのはきつかったんじゃありませんか?」
「え、まじ?手応え全然なかったけどな〜」
「それは雪瀬さんの実力と比べ物にならないぐらいの差があったんでしょう。」
「え、そいつ……強いんですか?」
蒼矢が恐る恐る聞くと
「僕が思ってたより大物だったな。普通、あのレベルはもう少し経ってからか対峙させようと思ってたけど、新人の子がここまで生き残ってくれたのも久しぶりだし、よく分かんなくなっちゃたよ。」
「確かに、今まで道中でやられて任務にすら参加出来ない子ばかりでしたしね。」
「ははっ、そうだったな。蒼矢、安心しろ。これを生きのびたお前は、きっとすぐには死なない。」
蒼矢は雪瀬の目を見た。ニヤついてはいるが、真剣な目だ。
「頑張ってついてこいよ。今度は助けないからな。」
「はい!」
そう言うと力強い目で雪瀬を見た。
加賀野蒼矢は、剣道の全国常連で連覇経験のある猛者です。並の人間が蒼矢の立場だと一瞬で死んでます。慢心しないようにしましょう。(←自分で妄想する私に向けて)