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勇者さまは女の子  作者: 三ツ陰 夕夜
1.旅のはじまりとパーティの結成
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(8)再びの黒

 計28人の盗賊と、囚われていた2人の女性を警備に引き渡してから再びカーゴ村を出発した。

「報酬くれるって言うんだから貰えば良かったのに」

 ラーニカが不満そうに呟く。

「僕は報酬より名を挙げたいんだ」

 昔と違い、今は名声だけでは勇者にはなれない。けれど、人生初の慈善活動は、たくさんの人に感謝されて、それだけでもう胸がいっぱいだった。

 それに、報酬を辞退したことでカーゴ村ではしばらく「盗賊を討伐してくれたリーアン一行」の話で持ちきりだろうし、報酬なんかよりそちらの方が遥かに重要なのだ。

 あまりゆっくりしてられないっていうのもあるしね。

「そう・・・?」

 振り返ると、ラーニカが不満顔だったのでニコッと微笑んで見せた。

 つられて笑顔になってくれたラーニカだが、何故か私の方に駆け寄って来て、そして、抱きつかれた。

「あたし、あんなに繊細な魔法操作見るの初めて!リーアンって凄いのね!」

 身長に差があるせいで、正面から抱きしめられると、ラーニカの胸元に顔が埋もれてしまう。

 大人の女性だけあって、彼女の胸は大きい。埋もれると当然苦しい。

 下手に顔を動かすのも失礼だし、苦肉の策としてラーニカの腕をタップした。

 「あ!ごめんね!」と拘束を解いてくれたが、どう考えてもラーニカは私を子ども扱いし過ぎな気がする。

 見た目しか男の子じゃない私だってこんなにドキドキするんだ。私が本物の男の子だったら今のは危なかったぞ!



 カーゴ村を出発してから3日。

 夜は野宿だけど、コーダンに冒険の話を聞いたり、ラーニカに収納魔法を教えてもらったりしながらだったので毎日が楽しくて仕方なかった。

 ラーニカが少し調薬できるけど料理は苦手で、逆にコーダンの料理が上手いのが人は見かけによらないというか、なんというか。

 お昼ご飯を食べて「夕方には次の街に着くぞ」とコーダンが教えてくれたそんな時だった。

 街道脇の林の木陰に隠れるようにして、その男性は立っていた。

「また会ったね」

 あの黒い瞳は、そうカーゴ村の手前ですれ違ったあの男性だ。

「誰?」

「何日か前に会った人」

 一応警戒しつつ、ラーニカを庇うように立つ。

 コーダンも剣に手をかけてくれていた。

「何の用?」

「そんなに警戒されると傷付くなぁ」

 イケメンの部類に入る顔で苦笑する姿は、まるでお芝居みたいで、物凄く胡散臭い。

「俺も一緒に連れて行ってよ」

 両手を上げて武器を持っていないのをアピールしてくるが、敵意はなくとも簡単には信頼できないほどに男性への不信感があった。

 本能的なとでも言うのだろうか?

 コーダンが警戒を解いたのを見るに、襲ってくることは無さそうだが・・・。

「目的は?」

 無名の、明らかに結成したばかりのパーティに入れてくれなんて、どう考えてもおかしい。

 そういえば最初に会った時も同じような事を言っていたし、それを考えるとなおさら意図が分からなかった。

 男性は、ゆっくりと歩き出し私たちの目の前に立ちはだかるように立つ。その目はずっと私だけを映していた。

「君に一目惚れしたから、かな?」

「え”」

「え?」

「は?」

 口から勝手に変な声が出た。

 それと同時に想いきり顔が歪んだというのに、男性は愉快そうな視線を私から外してはくれない。

 え?私、今男の子の姿だよね?だよね?

「うちのリーダー、一応男なんだが?」

 フォローしてくれたのはコーダンだった。凄い変な顔をする彼に、でも男性はさらりと答える。

「だから?」

 だから?って・・・え?

 え、だって、私は今男の子で、あの人は男の人で、それで、一目ぼれ・・・??

 意味が分からなくてラーニカを振り返ると、困ったような顔で私の隣に来てくれた。

「えっと、色んな趣味の人がいるのよ・・・」

 男の人なのに、男の子が好きってこと?で、男の子の姿の私に一目ぼれしたから追いかけてきたってこと??

 理解した瞬間に背中をぞわりと悪寒が撫でた。

 まさか男の姿になったことで変態さんに目を付けられるなんて考えても見なかった・・・!

「僕、そういう趣味はないんだけど!」

 ラーニカの後ろに半分体を隠しながら叫ぶ。

 魔獣なんかよりこういう変態さんの方がよっぽど怖い。

「だ、そうだ。諦めろ」

 私が拒否したことで、コーダンは男性を遮るように立ってくれる。

 凄く頼りになる!今日の晩ご飯はお酒を奢ってあげよう。

「あー、ごめんごめん誤解させちゃった?」

 筋肉モリモリでいかつい顔のコーダンが恐らく睨みつけてくれているはずなのに、男性の声は軽薄なまま。

 変態さんというのは、恐れ知らずなんだろうか?

「一目ぼれって言ってもそういう意味じゃないよ」

「ならどういう意味だ?」

「俺、目だけはいいんだけど・・・」

 男性の間にラーニカとコーダンが挟まっていて、私の姿は男性から見えるはずはなかった。

 なのに、なぜかあの漆黒の瞳が、私を視ているような、そんな気がした。

「その子、『祝福』持ってるよね?」

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