(6)盗賊のアジト
さて、次は何をしようか。と、辺りを見回して気づいた。
近くに、いる。
ただの盗賊だからと油断していたが、気配を消す魔法を使えるようだ。
私と同時に気づいたのか、コーダンはおもむろに体を起こして、自然な流れで剣に手をかけた。
いるのは3人。気配は消しても足音を完全に消せてないから、使い捨ての下っ端といったところか。
2人コーダンの方に行って、1人はこっちに近づいてくる。そいつからラーニカを庇うように立つと、地面を思い切り蹴った。
木の影に隠れていた男に一瞬で詰め寄り、風魔法で息を吸えなくする。
驚いた顔のまま、男は苦しそうにもがき、そのまま気を失って倒れ込んだ。
後ろで上がった野太い悲鳴は、コーダンを襲おうとした2人だろう。
「リーアン、大丈夫??」
「うん!ロープ貰ってもいい?」
心配して駆け寄って来てくれたラーニカに笑顔を向け、ロープを貰う。
魔力は感じられなかったので男はとりあえずロープで縛るだけにしておいた。
さっきの場所に戻ると、倒れ込んだ男2人を見下ろしながらコーダンが頭を掻いていた。
「全員のしちまったら、アジトの場所分かんねぇな」
「あ」
わざわざ意識が戻るまで待つのも面倒くさいので、勿体ないけど気付け薬で盗賊の下っ端の1人を起こして案内させることになった。
森の中はけもの道すらなくて、すごく歩きにくい。
それに下っ端君は右に曲がったり左に曲がったりで、全然真っ直ぐに歩いてくれなくて、わざと変な方に進んでるんじゃないかと思い始めたそんな時。
前方から微かに煙の匂いがしてきて、ほぼ同時に何人もの人の気配を感じる。
どうやら、ちゃんと案内してくれていたらしい。
私の前を歩くコーダンももう気づいているだろうし、念の為ラーニカには声をかけておくか。
「人間相手だからラーニカは下がっててね」
「分かったわ。でも、危なくなったら魔法使うわよ?」
心配してくれるのは嬉しいが、彼女の炎魔法を使ってしまったら山火事になることは確定だ。
こんな所で使わせる訳には行かない。
「その時はお願いね。あ、コーダン」
「何だ?」
「弓矢と魔法は僕が制圧するから、残りは任せた!」
「りょーかい」
コーダンは対人戦には慣れてそうだし、こんな感じの指示で大丈夫だろう。
盗賊のアジトが近づくにつれて煙の匂いが変化していき、どうやら昼ご飯の準備をしているというのが分かる。
木々の間からチラチラと洞窟らしきものも見えてきて・・・もう少しか。
前触れなく、コーダンが先頭を歩いていた下っ端君を締め上げて気絶させ、振り返った。
その目が「行くぞ」と言っている。頷いて応えてから、コーダンに並ぶようにして駆け出す。
駆け出してすぐに木々が途切れ、視界が開けた。
目の前、崖の側面に作られた人工的な洞窟の入り口両脇に、剣を手にしたいかつい男が2人。
入り口の少し横、崖を切り出した階段を登った先に弓を手にした若めの男が、左右に1人ずつ。
計4人の見張りがこちらに気づいた瞬間に、コーダンはもう入り口に到達していた。
反応が早い方から仕留めに行っているのはさすがと言うべきか。
私も、手にしたロープを風魔法で操り、射手の1人を拘束し終えたところだ。
間髪入れずに、驚いた顔で固まるもう1人の射手の元へ飛び上がる。
「な、だ・・・っ」
経験が浅いんだろうが、見張りのくせにすぐに武器を構えないのはいただけない。
2人目の射手も数秒でロープ巻きにして入り口を見下ろすと、コーダンの方も片付いたようだった。
「あれ、増えてる?」
コーダンの足元には計3人の男が転がっていた。
「わり、増援呼ばれたかも」
悪びれなく言うコーダンの隣に飛び降りると、確かに洞窟の方から怒声のような声が聞こえてきていた。
まぁ、このくらいの強さなら正面からでも全然倒せるからいいんだけどね。
「じゃあ、どっちが多く倒せるか勝負する?」
生け捕りにしないといけない事を考えると、経験値からいってもコーダンに有利だけど、今の私にはロープという最強の武器がある。
これさえあれば、数人まとめて捕らえるのも可能なのだ。
コーダンは一瞬驚いた顔をした後、ニヤリと笑い剣を構えた。
「あぁ、いいぜ」
ハッタリの為に、私も剣を抜いて構える。
ちょうどいいタイミングで、20人程の盗賊達が洞窟から姿を現した。