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勇者さまは女の子  作者: 三ツ陰 夕夜
8.番外編 それからの私たち

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番外編(8)心の中で言い訳しながら

 コーダンに相談しても、気持ちが落ち着くまでに1週間かかった。

 即断即決をモットーとしている私にとって、1週間は覚えている限りで1番時間がかかった問題。

 問題?悩み?いや、そんな簡単な物じゃないな。

 これはきっと決意だ。これからの私の人生を大きく変えてしまうような、重大な決意だ。

 晩ご飯もお風呂も終えて、寝室に1人きり。

 ベッドに腰掛けて魔術書を読んでいても落ち着かなくて、剣でも振ろうかと、思い始めた時。

 ドアをノックする音が聞こえた。

「入っていいよ」

 声をかけるとゆっくりとドアが開く。

 叱られた後の子どものように、おずおずと俯きながら部屋に入ってきたのはディーナンだった。

 命令通りずっと姿を消してたけど、こいつの配下であるダアラに呼び出してもらったのだ。魔族の主であれば魔力の繋がりでどこにいても呼べるんだって。

 バタンと後ろでドアが閉まっても、ディーナンはそれ以上部屋に入ってこない。

 しおらしくしてるから本気で反省してるんだろうけど、いじめてるみたいで罪悪感湧くからその顔本当にやめて欲しい。

「私がなんで怒ったか分かってる?」

「ミアが、泣いてたの見てたから・・・?」

 そうか、人のいないところでこっそり泣いてたのも見てたのか。

 でもこれを最初に言うってことは、やっぱりこいつ私がなんで怒ったのか分かってないな。

「違うよ」

「見てたこと、黙ってたから?」

「違う」

「好きって言ったから?」

「ちがう・・・!」

 やっぱりコーダンの言う通り、こいつら魔族にとって人間のプライベートを覗き見るのは大した事じゃないのか・・・。

 それにしても、トイレやお風呂より泣いてるとこを見られる方が嫌がると思っているのは感覚が違い過ぎる。

 それに「好き」って言われたのだって、嫌だなんて、思わなかったのに。

 ディーナンは馬鹿だなぁ。

「人間のトイレとお風呂は見るの禁止。あと寝てるところと着替えも許可がないと禁止」

「なんで見ちゃダメなの?」

「恥ずかしいからだよ!あ、あと生殖行為とかそういう言い方も禁止」

 魔族的な言い回しは都度注意するしかないけど、それはまぁ仕方ないだろう。

 私の都合でルールを敷いてるんだから多少の譲歩はしてあげるつもりだ。

「それ守れば俺ミアの傍にいていいの?」

 凄く情けない顔なのに、全然かっこよくないのに、伺うように見上げられるとドキッとしてしまった。

 また心臓がうるさくなる。これはきっとしばらくは落ち着いてくれないんだろうな。

「いていいけど、今までみたいにからかったり、触るのは、駄目」

 なんだか顔が熱くなってきてしまって、ディーナンから隠すために顔を反らした。

 ディーナンは「なんで?」って聞くかと思った。それに答えるための言葉も考えていた。

 でも、何も言わなかった。何も言わないで、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

「ミア」

 家族の呼び方で、ディーナンが私を呼ぶ。

 家族だと思ってないくせに、私の事「好き」って言ったくせに、出会った頃の変わらない口調で私を呼ぶんだ。

 まるで変わったのは私だけみたいで、腹が立つ。

「禁止と駄目ってどう違うの?」

「駄目は、駄目」

 ディーナンの重みでベッドがギシリとたわむ。わざわざ私の顔が見えない方に座るのは、意地悪なのか親切なのか分かんなくて。でも、そう、ムカつく事に嫌じゃないんだ。

「駄目なのは、嫌だから?」

 すぐそこにディーナンがいて、近くでこいつの声がするだけでもう涙が出そうになった。

 素直には、なってあげないけどね。

「ねぇ、ミア?」

「うるさい馬鹿」

「ミアって、もしかして俺の事好き?」

「うるさい馬鹿」

「触ってもいい?」

「うるさい馬・・・っ!」

 小さな衝撃の後、締め付けるような感触と共に温もりがやってきた。

 ディーナンの体温だ。私のと同じくらい煩いのはディーナンの心臓の音だ。

 ハグって、こんなにドキドキしてフワフワするものだったっけ?お父様やお母様、侍女やラーニカとハグした時と全然違うや。

「いいって言ってないけど」

「でも禁止って言わなかった」

 低くて優しい声が耳の近くで聞こえる。

 胸がギュってなるのに心地いいなんて変な感じ。しかもこいつなのに、こいつだからこんな気持ちになるなんて。

「ミア好きだよ」

「うるさい馬鹿」

「キスしてもいい?」

「だ、駄目」

「禁止じゃなくて?」

 やっぱりこいつは魔族だ。

 どんなに人間の見た目を真似ていても、人間を騙して弄ぶ、卑劣な魔族だ。

 嫌い。でも・・・好き。

「今すぐ黙らないと禁止にする」

 そう言うと、さすがにこいつもすぐに口を閉じた。

 こいつ、本当に私の事好きなんだなぁ。魔族の癖に、魔王の息子の癖に、私の、配下の癖に。

 ずっと好きだったんだって。私が自分の魔力の色に気づいて泣いてた時も、お父様やお母様に酷い事言って八つ当たりしてた時も、魔獣を始めて殺して泣いてた時も、ずっと傍で見てたんだって。

 それで、好きなんだって。あんなに私カッコ悪かったのに、ずっと好きで、そしてこれからもずっと傍にいてくれるんだって。

 ディーナンって変なやつだ。私以上に変なやつだ。

 どんな顔をしてるか見たくて、見上げてみた。

 お尻がムズムズするような今まで見たことないような顔で、私を見ていた。

 その顔がゆっくりと近づいて来る。

 あ、そうだ。キスしていいんだと勘違いしたんだ。勘違い・・・だけど、避けたく、ないな・・・。

 こういう時は目を閉じるんだと知ってた。「こいつ勘違いしてるんだ」って心の中で言い訳しながら目を閉じた。

 目を閉じても、唇に触れてすぐに離れて行ったものが何か分かった。

 ドキドキはやっぱり煩い。もう何が言いたいか分かったんだから少しは収まればいいのに。

 目を開けると、ディーナンは笑っていた。凄く凄く幸せそうに笑っていて、だからつい、また目を閉じてしまったんだ。

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