番外編(7)こいつらもうデキてんじゃねぇのか?
リーミアが魔族の土地で生活をし始めて早7か月。どう考えても、魔族についてはこいつの方が知っていると思うんだが。
それにこいつの近くには魔族であるディーナンがチョロついてるはずだ。あいつに聞けば早いだろと思ったところでひとつの可能性に気づく。
「知ってたら、でいいから、教えて欲しいんだけど・・・」
この煮え切らない態度、もしかしてディーナンと何かあったのか?
つーか、こいつがここまで言い淀むって事は・・・進展、したのか?
「魔族の人ってさ、人間と感覚違うでしょ?」
「そうだな」
「トイレとか、お風呂とか、行かないじゃん」
「必要ねぇからな」
「人間の、トイレとかお風呂について、どう思ってるのかな?」
「は?」
俺はてっきり、ディーナンがリーミアに強引に迫ったとか、リーミアがディーナンを異性として意識するようになったとか、そういう恋バナ的な質問をされると思ったんだが、予想が大きく外れたらしい。
てかあいつ、あんだけ分かりやすくアピールしてあんだけリーミアにスルーし続けられてるくせに一切関係性を進展させようとしねぇって、そういう趣味でもあんのか?
「あー、お前の配下の鉤羽つったか?あいつが前ぼやいてた言葉によると、『魔獣みたい』らしいな」
「人間だと動物のトイレとお風呂見てるみたいって事?」
「そんな感じなんじゃね?まぁ他の魔族にも聞いてみねぇと正確なところは分かんねぇだろうがな」
「そう、か・・・」
リーミアの在住する建物にトイレと風呂は作られてたはずだが、使用するのに問題でもあったんだろうか?ちょっとした問題なら親バカな勇者ローレン様がどうにかするだろうし、俺の出る幕はないだろうが、やっぱ人間が魔族の土地で暮らすには何かと不便なんだろう。
それも承知の上で大使なんてもんになったんだ。こいつは本当に凄ぇ奴だ。
「あと1つ聞いていい?」
「俺に分かる事ならな」
「・・・周りに誰もいないんだよね?」
この警戒の仕方、今度こそ機密情報でも口にする気だろうか。
念のためもう一度周りを見渡し気配も探る。誰も、いねぇな。
「ネズミ一匹いねぇぞ。どうした?」
「あの、あのね・・・」
「ん?」
「魔族の人、ってさ・・・人間と、そういう事、を、したいとか、思うものなの?」
「そういう事?」
また魔族について、だ。こっちもディーナン含む魔族の部下に聞けば早ぇ話なのに、わざわざ俺に聞くって事は何か意図がありそうではあるが、それよりも言葉をぼかされたせいでよく意味が分からねぇ。
魔族についてで、かつ言い辛い事。
なんかあったっけか?と考えを巡らせてた俺は、こいつが女だったって事をすっかり忘れてたらしい。
「もしかして子作りか?」
なんて口にした瞬間、リーミアが息を吞むのが聞こえてきて、やらかしを知る事になる。
そうだ。精神年齢が高い上に、今は魔族の見た目なせいで分かりにくくなってはいるが、こいつはまだ15歳の子どもだった・・・。
成人前の、しかも貴族のご令嬢に、俺はなんて単語を使ってしまったのか・・・。
「すまん。今のはナシだ」
「いや、いいよ。聞きたかったのそれだから」
「は?」
待て待て待て。聞きたいことって、魔族が人間と子作りをしたいと思うのかって事か??
いやしかも、ここで言う魔族ってどう考えてもディーナンの野郎だろ。
って事はだ、トイレと風呂もディーナンがどう思うかって事だとすれば、進展とかいうレベルじゃなくてこいつらもうデキてんじゃねぇのか?
リーミアが女だって分かったことで恋人になるのは諦めた風のラーニカだが、さすがにディーナンと付き合い始めたなんて聞いたら泣くかもな。
あいつが泣くのは・・・見たくねぇな。
「人間と魔族のハーフってのは聞いたことはなくはねぇな。つっても、これも当の魔族に聞いてみねぇと分かんねぇと思うが」
「そう、だよね・・・」
ほとんど中身のない回答だったが、リーミアは満足したらしい。
答えを知りたかったというよりは、誰かを相手にただ口に出したかっただけなんだろう。
幾分かすっきりした様子で「じゃあ、また連絡くれるの楽しみにしてるね」なんて言って通話を終わらせられた後、娘の恋愛相談に乗った父親の様な複雑な気分のまま俺は宿屋へと戻ることになったのだった。




