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勇者さまは女の子  作者: 三ツ陰 夕夜
8.番外編 それからの私たち

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番外編(4)自分を変えてもいいと思えるほどに

「ほら、腕上げて」

 考えながらだったので、何も考えずに従ってしまった。

 袖から腕を引き抜かれ、肌着が(あらわ)になって初めて焦る気持ちが生まれる。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 巻きスカートを脱がそうとしていたディーナンの手を掴んだ。

 いつもより近い距離で、黒い瞳が私を映していて、何故か、心臓の鼓動が早くなって。

「こっちは自分で脱げるから」

「遠慮しないで」

「遠慮じゃない」

 もしディーナンが女の人の姿だったらと思ったけど、それでもやっぱりなんか嫌だった。

 姿形とか関係なく、こいつが、こいつにこれ以上見られるのが嫌だったんだ。

「もしかして照れてるの?」

「う、うるさい!出てって!これ命令だからね!」

「・・・御意に、我が主」

 最後のは悲しい声だった気がしたけど、もう私はそれどころじゃなかった。

 だって、そう。図星をつかれたのだ。

 私は、ディーナンにだけは照れてしまうのだと、そう気付かされてしまったのだ。


------

 我が主に、ミアに嫌われてしまったかもしれない・・・。

 俺は、服を脱ぐのを手伝っただけだ。

 確かにいつもは見えないミアの肌が見えたのには興奮したし、少し調子に乗って必要ない手伝いまでしようとした。

 でもそれくらいのことなら普段からやってるし、からかうのだって日常茶飯事だからいつも通りに流されておしまい。だと思ってたのに。

 ミアが、怒ったんだ。顔を赤くして、いつもはしない主命で、出ていくように言われてしまった。

 最悪だ。

 せっかく、正式に部下としてミアと一緒にいれる権利を得たのに。

 せっかく『ミア』と呼ぶ許可をもらえたのに。

 50年くらいかけて貢献していれば、ミアだって俺の事を多少は認めてくれるだろうから、それからおやじからでも圧力をかけてもらってパートナーになる流れに持っていこうと思っていたのに。

 なのに嫌われてしまったんだ。

 食事を持っていっても目も合わせてくれないし、話しかけても返事をしてくれないし、それに、それに近づくだけで魔力で威嚇されてしまって・・・。

 ミア。好きなんだ、君の事が。

 あんなに変わりたくなかったのに、自分を変えてもいいと思えるほどに、君が好きなんだ。

 俺の形が嫌いなら、変えるから。

 君の好きな人間の形に変えるから。

 だからどうか嫌わないで。

 君に嫌われる事だけは耐えられない。耐えられないんだ。


------

 夕ご飯の後お風呂に入り、寝室へ向かう途中の廊下で見慣れた顔が立っていた。

 パーティを解散した後、人間の土地に戻りお父様が身元を引き取ったから、直接会うのは久しぶりだ。

 彼が、フィン本人なら。

「何してるの?」

 私より少し背の低い細身の体に、くるんと丸まった毛先。緑がかった茶色の目で元気な笑みを浮かべる様も完全にフィンだったけど、魔力が違った。

 あの、複雑な模様を描くように入り交じる綺麗な魔力は、ディーナンのものだから。

「やっと声かけてくれた」

 言われて、そういえば今日はずっと無視してしまっていた事に気付く。

 だって、ディーナンに話しかけられると胸がザワザワして変なんだもん。

 だから、一晩経てば明日には元通りになるかと思っていたのに。

「この姿なら許してくれるかなって思ったんだけど」

 ゆっくりとフィンの姿のディーナンが近づいてくる。さすがにザワザワはしない。けど、凄く、嫌だ。

「フィンに失礼だから止めて」

「でも俺の姿嫌なんでしょ?」

「えっ・・・」

 フィンが、いやディーナンが見た事もないくらい悲しい顔で呟いたから、咄嗟に言葉が出なかった。

 確かに、嫌な態度は取ってしまったけど、何でそれでディーナンの姿が嫌だなんて話になるのか。

「これが嫌なら・・・こっちは?」

 ディーナンの闇の魔力が彼の全身を覆い隠し、そのまま染み入るようにして消えたかと思うと、そこにはコーダンが立っていた。

 いや違った。コーダンの姿になったディーナンだ。

 コーダンはひと月ぶりだ。ラーニカに焼いて止血して貰ったという左腕の傷もちゃんとあるって事は、前回コーダンとラーニカが私に会いに来た時もちゃっかりと覗き見していたということか。

「ミアこいつのこと好きだよね」

 真面目な顔だった。コーダンが私のわがままを実現可能かどうか悩んでいる時の顔だった。

 でも、こいつはディーナンだ。

 ディーナンは、こんな真面目な顔するやつじゃないのに。

「普通に、尊敬してるんだよ。人として好きではあるけど、それだけ」

 思わず顔を逸らしてしまった。

 私の心臓だけじゃなくて、なんだかディーナンの態度も変な気がしたから。

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