番外編(3)大使着任の挨拶
大使館横の普段は人がいないという広場には、大勢の人間と多少の魔族が集まっていて、よく見ると亜人の姿もあった。
臨時で設置された壇上にマクマさんに促されながら上がる。
魔族は見知った顔が何人かいた。・・・って、あれ?幻視魔法で姿を変えてるけど、あれって魔王じゃない?
予想外すぎる存在のせいで驚いてしまったのでマクマさんの「リーミア、挨拶」という囁きに慌てて姿勢を正した。
ニッコリとよそ行きの笑顔を見せながら、集まった人々を見渡す。魔族はそこそこ好意的だが、残念なことに人間は渋い顔をしている人が半数近い。
当然と言えば、当然か。
勇者ローレンの娘とはいえ、まだ成人前の、どう見ても魔族にしか見えない人間だ。
私だって、慣れるまでは自分自身のこの姿を見たくなかったのだから。
「お集まりいただき感謝いたします。この度、魔族領ヴァグル カンラマク王国大使の任を授かりましたリーミアです」
実力さえあれば受け入れてくれる魔族と違い、人間はどうしても見た目とか人間性とかそう言うものに対する潔癖さがある。
でもその気持ちだって、私には理解できるんだ。
「父である勇者ローレンが魔王を打ち倒した後も、まだ魔族と人間の間には確執があります。私は、それを変えて行きたい。そう思い大使となる事を決意しました」
人間だけど魔族みたいな、そんな私だからこそできることがあると思った。
まだ成人前だけど、支えてくれる人もいるしね。
「若輩ではありますが、精一杯努めます。どうぞよろしくお願いします」
挨拶を終えて頭を下げると、思った以上の拍手を貰えて、嬉しい。こんな私でもちゃんと認めてくれる人がいるんだ。
ダンガの仕事部屋に戻って来るとやっと一息つくことができた。
大使着任の挨拶自体は直ぐに終わったのに、その後聴衆に囲まれてしまい大変だったのだ。
応援してくれるのはありがたいが、愛想笑いを浮かべ続けるのは凄く疲れた。もうお昼ご飯を食べずにお昼寝したいくらい疲れた。
「お疲れ様でした!堂々たるお姿で、部下である私も鼻高々です!」
「ありがとう」
ダアラが興奮気味に着替えを持ってきてくれて、そのまま服を脱ぐ手伝いをしてくれて・・・。
「あ、あれ?んー・・・?」
「できそう?」
「すみません主様。複雑すぎてどこをどうすればいいのか・・・」
可愛いタレ目をいつもより八の字にしながら、ダアラは目を潤ませていた。
ただでさえ服装に無頓着な魔族にこの難易度の高い服は難しすぎたようだ。
今後も着る機会があるはずなので、慣れておかなければならないんだけど・・・仕方ないか。
心苦しいけど、任期を終えたばかりのマクマさんを呼び止めて、ダアラに着脱方法を教えてもらうしかなさそうだ。
ダアラの頭を「大丈夫」と撫でてやった。ものすごく年上なのに年下みたいな見た目のダアラは、妹みたいで可愛いくて癒される。
「俺が脱がせてあげようか?」
前触れなく聞こえてきたのは、お馴染みのディーナンの声。
目線を上げると、ダアラの少し後ろに軽薄な笑みを浮かべて佇んでいた。
「どこ行ってたの?」
「おやじからのお呼び出し」
軽く言ってくれるが、息子とはいえわざわざ魔王様から呼び出されたのであれば機密に近い内容だろうに。
「何を言われたの?」
私の着任式に来ていたことを考えても、私に関連する話であった可能性は高い。
何度か会って、信頼できる人であるイメージを持っていたが・・・果たしてどうだろうか?
「細髪は下がって」
「はい黒の君」
細髪ことダアラは私の部下である以前にディーナンの配下だから仕方ないけど、勝手に命令されるのは腹が立つ。
もちろん、ディーナンに嫌な顔をしたのは、直ぐに部屋を出ていったダアラを見送った後だけど。
「で、何を言われたの?」
「俺の将来について、かな」
もったいぶった言い回しをしながら、ディーナンが私の背後に回り込む。
その手が、服に触れる感触があった。
「お願いしてないんだけど」
「でもミア1人じゃ脱げないでしょ」
「私、女の子なんだけど」
「じゃあ俺も女の体になれば問題ない?」
「そういう訳じゃ・・・」
言いかけて気づく。
人間と違い、魔族は魔法を使えば自分の姿形を変えることができるのだ。だから、今現在の性別はあまり重要じゃないらしい。
男同士、女同士で結婚して子どもが欲しければ性別を変えたりするのだと、ダアラも言っていた。
なら、男のディーナンに着替えさせてもらうのも魔族的にはおかしくないのか・・・?




