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勇者さまは女の子  作者: 三ツ陰 夕夜
1.旅のはじまりとパーティの結成
5/57

(4)初めてのパーティ

「はぁ?」

 飛び上がりたいくらいワクワクな私とは対照的に、おじさんは変な顔で変な声を出した。

 聞こえて、なかったのかな。

「期間はひと月くらいで・・・」

「あー、いい。聞こえてはいんだよ」

 また頭をワシワシと掻くおじさん。

 雇用したら無精ひげだけじゃなく、そのボサボサな髪もどうにかしてもらおうかな。

「魔王城に行く目的は?」

「そんなの魔王を倒すために決まってるじゃん」

「なんで魔王を倒したいんだ?」

「それはもちろん!『勇者』の称号のためだよ!」

 ハァーと大げさにため息を着くおじさんに文句を言おうかと思っていたら、文句より先に料理が到着した。

 持って来てくれたおばさんにお礼を言って椅子に座り直す。

 ホカホカの麺料理。屋敷では見た事ないから、どんな味か気になってたんだ。

「何でんな古臭い称号が欲しいのかは知らねぇが、俺は高いぞ?」

 いただきますをして頬張ると、トマトの酸味と甘味が口いっぱいに広がる。

 屋敷じゃないから、ソースの飛び跳ねだって気にしなくて良いのがすごく楽しい。

「ひぃふははほ?」

 ご飯を食べながら喋るのだって怒られない。冒険ってなんて自由なんだ・・・!

「頭金で大銀貨1枚、一日につき小銀貨1枚で成功報酬は別途もらう」

 と、言うことはひと月だと大銀貨4枚か。成功報酬は戦利品の何割ってなるはずだから、ふた月かかったとしても大銀貨7枚。それくらいなら十分に払える。

「んっ!いいよ!」

 頷いてからまた麺を頬張る。元気になりそうなニンニクの香りと共に、その料理は瞬く間に私のお腹に収まって行った。

「まぁ、俺は金さえ貰えりゃ何でも良いけどよ・・・」

 なんて呟きが聞こえる頃にはお皿は空になり、ごちそうさまでしたをしてからおじさんに右手を差し出した。

「僕の名前はリー・・・」

 そこまで言ってしまってさすがに焦った。

 「リーミアです」なんて言ったらもう女の子だと言っているようなものじゃないか。

 偽名を、何か偽名を考えないと・・・!

「リー?」

「リーアン。そう、リーアンって言うんだ!」

 少し苦しいが、「リーアン」なら男の子の名前に聞こえなくもない。

 事前に考えておけばもっとかっこいい名前に出来たのにと今更になって後悔する。

「俺はコーダンだ。お察しの通り冒険者ランクB。護衛業を生業にしてる」

「よろしくコーダン!」

「ああ」

 そんな感じで私の初めてのパーティメンバーが、いや、仲間ができた。

 冒険者歴18年という大ベテランのコーダン。彼は、なんと魔王城に行く道筋も考えてくれた。

 さすがBランクだ。とても頼りになるし、勉強になる。

 私の装備についても、道中はもっと軽装にした方が良いという事で、明日一緒に買い出しに行ってくれることになって。そんな感じで夜は解散した。

 別の宿に泊まっているから朝迎えに来てくれるなんて、お父様みたいに過保護な感じだ。

 宿屋の部屋で、一人ベッドで横になるとさすがに少し寂しくなりそうになったけど、下の階から聞こえてくる酔っ払い達の声を聞いているうちに、いつの間にか夢の世界へと入っていた。



 朝。昨晩と同じ料理を昨晩と同じ席で食べていると、カウンターの方で突っ伏している女の人を見つけた。

 服装からして冒険者だ。しかもあの魔力量はそこそこの魔法使いだろうに、何か悲しいことでもあったんだろうか。

「リーアン」

「あ、コーダンおはよ!」

 約束通り迎えに来てくれたコーダンは、昨日は持っていなかった小さな布袋を背負っていた。

 あれが彼の荷物ということか。

「朝メシは?」

「食べ終わった!」

「荷物は?」

 コーダンが私の足元やらテーブルの周りやらに視線を走らせる。けど、彼が探している物は見当たるわけがなかった。

「ないよ」

「はぁ?手ぶらで旅に出るつもりか?」

「あ、財布は持ってるよ」

「あのなぁ・・・」

 頭をワシワシと掻きながら何かを考えているコーダン。

 考えがまとまるまでに少し時間がかかりそうなので、私は別の用事を先に済ませる事にした。

「ちょっと待っててね」

 椅子から下りて、カウンターに向かう。ぐったりとしているようにも見える先ほどの女の人は、寝てはいないようだった。

 でもお酒臭い。だいぶ酔っ払っているようだ。

「ねぇ、お姉さん」

 声をかけるとモゾモゾと動き出して目だけが僕の方を向く。深い紅色の瞳。昨日に引き続きまた大物を引き当ててしまったらしい。

「僕と一緒に旅に出てくれない?」

 魔法使いは貴重だから、護衛として雇うには多分コーダンの倍は必要だろう。

 それでも見逃せないほどに、そのお姉さんの魔力量は膨大だった。

「なぁに?ぼく、お姉さんが欲しいの?」

 寝ぼけているのか、呂律が回らないお姉さん。

 呂律が回らないのに言葉がちゃんと聞き取れるのも、良い魔法使いの証拠だった。

「うん、僕お姉さんみたいな人を探してたんだ」

 ニッコリと笑顔を見せると、お姉さんは二回瞬きをしてから体を起こした。

「ラーニカよ」

「ラーニカ、僕はリーアン。よろしく」

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