番外編(1)大使見習い
魔族の街ダンガから届いた手紙には、残存する魔力至上主義の調査結果と、魔族を拉致している奴隷商への制裁結果の報告が事細かに綴られていた。
着任後まだ2ヶ月だと言うのに、驚くべき成果だ。さすがは僕とニーニアの娘。まだ14歳なのに、ここまでの成果を上げるなんて。
家出同然に旅に出た彼女を魔族の地で見つけた時は驚きに驚いたけど、ひと月にも満たない旅の中で彼女は自分の生きる道をしっかりと見つけたらしい。
気持ち的には見つけてしまったという感じだけどね。
だって彼女はまだ14歳で、学校にも通ったことの無い世間知らずで、なのにそんなミアを誑かしやがってあの魔族!!!
魔王の息子だか何だか知らないが、僕のミアにあんなに親しげに話しかけて!しかも、あんなにミアに信頼されてて!
確かに「魔力至上主義を見張るには私がこの地に留まるのが1番良いと思うの」というミアの意見は最もだ。
でも、「俺も勇者さまと一緒にいるよ」なんてぬかしやがるあの魔族は絶対に下心があるし、「こいつこう見えて頼りになるんだよ」なんて言われてた時の満足そうな表情と言ったら・・・!
ミアの方が強いから、無理強いされる心配はない。でも、男はみんな狼なんだ。
僕のミアが、あの、男の子の姿でも魔族のような姿でも信じられないくらい可愛い僕のミアが、万が一あんな軟派そうな優男に絆されでもしたら・・・!
「ローレン?顔が怖いわよ」
「ねぇ、ニーア。やっぱりあの黒目今のうちに討伐しておいた方が良いと思うんだ・・・!」
「はぁ、またそれ?」
初めて出会った21年前よりももっと綺麗になった僕の妻は、なぜだかあの魔族に肯定的だ。
それも、腹が立つ!
「ミアが自分で選んだ道なんだから見守るって決めたでしょ?」
「でも魔族は魔族だ。人間と分かり合えるとは思えないな・・・!」
「それミアの前で言ったら離婚よ」
「うっ・・・ごめん」
若干3歳で魔力に目覚めたミアを待ち受けていたのは、人間なのに闇の魔力を持つという過酷な運命で、それに抗うために僕たちは色んな手を尽くした。
でもそれが、彼女にとって重荷になっていたなんて、僕だけでなくニーニアでさえ気づかなかったんだ。
魔族の地で、魔族の見た目で、それでも人間として生きたいと言ったミア。
僕とニーニアの世界で一番大切な宝物。
彼女が、生きやすくなるために、勇者としてこの世界を変える。絶対に。
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魔族の土地に残ると決めた私に「大使見習いという事でどう?」と提案してくれたのはマクマさんだった。
マクマさんがいる大使館に近かったので、鉤羽ことギランが潜伏してたダンガの町に大使館の別棟を建てて、そこが私の職場兼自宅になった。
飛行速度が飛び抜けているギランは、ダアクと一緒に魔族の土地を飛び回って貰ってる。
連絡は魔具も使わず会話出来る伝達魔法を使うので、彼からは逐一報告が入るのだ。
あ、ダアクはあの貿易都市ソアラで解放した元奴隷の男の子ね。一緒にいた女の子のダアラとは双子だそうだけど、歳は60という事で2人とも仕事を手伝ってくれている。
魔族って本当に歳が分からない。
「勇者さま、お昼ご飯だよ」
10歳くらいにしか見えないダアクとダアラは60歳なのに、このどう見ても20歳ちょっとのディーナンは80歳なんだって言うんだから。
「お父様への手紙は?」
「出したよ。明日には届くはず」
「分かった、ありがとう」
ディーナンは、一応私の部下という事にしたけど、実際は侍女みたいな感じ。
魔族について知らない事を教えてくれたり、助言してくれたり、魔族には必要ないご飯を作ってくれてしかも一緒に食べてくれたりしてる。
「勇者さまこの料理好きでしょ、おかわりあるよ」
いつの間にか私の食の好みも把握してるし。
「ねぇディーナン」
「ん?なぁに?」
「その『勇者さま』って言うのそろそろ止めない?」
魔族って、配下じゃない人の名前を呼ぶのって抵抗があるらしくて、「ディーナン」って名前も仮名だって聞いてたから目をつぶっていたんだけど。でも、さすがにこのまま「勇者さま」って呼ばれ続けるのには違和感がありすぎた。
ちなみに、「リーアン」って呼ぶのは嫌なんだって。
「『リーミア』って呼んでいいよ」
私を男の子の姿にしてくれていた幻視の呪いはもう解けている。
魔族っぽい見た目ではあるけど人間の私は、名前で呼ばれるのは平気なんだけどなぁ。




