(44)最後のクエスト
「殿下」
再び現れた執事の人は、まるでディーナンしか見えていないかのようだった。
フィンが「角!角すげぇ!」って騒いでるのに眉毛一つ動かさなかったしね。
「なに?」
「件の者ですが、現在拠点としている地点が判明いたしました」
「そいつってさ、鉤羽?」
「はい。一年程前より姿を見ておりませんでしたが、今はダンガに身を潜めているようです」
「知ってて、放っておいた?」
「そのような事はございません」
執事の人の眼鏡の奥の瞳は、彫刻のように冷たかった。声もずっと事務的で、そんな彼を試すようにディーナンは目を細めた。
「ふーん」
仲が悪いというか、相容れないという感じ。
魔王も感情があまりない冷たい感じがしたけど、ディーナン以外の魔族ってみんなこうなんだろうか?
「案内を致しますか?」
「いいよ、ダンガなら分かるから」
「承知いたしました。では、私はこれで」
サッときてサッと下がっていくのも、私の屋敷ではありえない光景だ。
こんなところで、ディーナンは育ったのか。
「て事で、行こうか勇者さま」
こんな所で育ったのに、こんなに軽薄なのか。
「みんな一緒にね」
「えー、2人でデートがいいー」
「はいはい」
おふざけモードに入ったディーナンは放っておいて、コーダンの方へ向き直る。
察してくれたらしいラーニカとフィン、シアラも集まってきてくれた。
「お願いがある」
「何だ?」
初めてコーダンに声をかけた時を思い出した。
でも、あの時とは全く違う。
「魔力至上主義が、悪巧みをしてるらしいんだ」
全てを話せる。この人たちの前では。
「でも魔王の仕業じゃなくて、魔王の元配下の仕業らしいんだ。僕はそいつを倒しに・・・いや、そいつを闇の魔法で下しに行こうと思っている」
「魔王じゃなければ倒しても勇者にはなれねぇぞ?」
「うん、分かってる」
勇者は、魔王を倒した者に与えられる称号だ。
魔王を倒す以外で、その称号を得ることはできない。
だから、私はもう一生勇者になることはできないだろう。
わざわざ言葉にしてくれるなんて、コーダンは優しいね。
「日当も出せないし、成功報酬もないと思う。危険な上に、達成しても名声すら得られるか怪しいクエストだ」
まともな冒険者は引き受けるわけないクエストなのに、気の早いフィンはもうフライングで頷いていて、笑いそうになってしまった。
シアラは声に出さずに「もう、フィンったら」って言ってるし。
「それでも、僕は、リーアンは挑戦しようと思う」
「あたしは着いて行くわよ」
気が早いのはラーニカもだ。
まだ大事な言葉を言えてないのに、そんなの彼女にとっては些細なことなのだろう。
「これが、リーアンの最後のクエストになる」
コーダンは、待っててくれる。私が喋り終わるのを。
本当に、良い冒険者だ。
できることならば、彼みたいに、彼みたいな冒険者に、なりたかったよ。
「だから、僕の仲間である君たちに一緒に来て欲しい。一緒に、戦いたい」
けれど今は不思議と、「勇者」じゃなくてもいいかなって思えるんだ。
「僕と一緒に、来てくれる?」
魔族は基本的に名前を明かさないらしい。
ターゲットの魔族も、名前は魔王様しか知らないらしく、鉤羽というあだ名のようなもので呼ばれているとのこと。
「あいつなら、リーアンが服従魔法使えば楽勝だよ」
そうディーナンは言ったけど、服従魔法なんて見たこともなくて。
ディーナンがおでこをくっつけて術式を教えてくれたけど、使うためには対象の2メートル圏内に入らないとさすがに難しそうだった。
魔族の土地で、魔族相手にそこまで接近するのは、正直骨が折れる。
リーアンの最後の冒険に相応しい難易度かもね。
ディーナンの転移魔法があったから、鉤羽のいるダンガまではすぐだった。
問題はここから。ダンガには鉤羽を除いて少なくとも8人の魔族の魔力を感じたから。
「どうする?リーダー?」




