(43)勇者になりたかった理由
ディーナンが聞き慣れない呪文を詠唱したと思ったら、いつの間にか俺たちは室内にいた。
魔族の転移魔法ってやつか。今まで目にすらしたこともないものを、まさか体験する日が来るなんてな。
「ちょっと、どこここ!?」
「すっげぇ!瞬間移動だ!」
「静かにしててくれないかな」
混乱するラーニカと興奮するフィンを横目に、リーミアは椅子に座る。
誰の私室かは分からないが、とりあえず俺もその正面に座った。
膝の上で手を組み、イタズラを白状する子どもみたいに俯きながら、リーミアは口を開く。
「マクマさんに聞いた通り、私生まれつき闇の魔力持ちなの」
リーアンでいた時もたまに一人称が「私」になっていたが、やっぱりこっちが素か。
てことは、この自信なさげな喋り方も素なのか。
「ディーナンによると、魔王と同等の魔力量なんだって・・・」
「そうか」
「だから、生まれた時からずっと、毎年教会で目に幻視魔法をかけてもらってて・・・」
「あぁ」
「間違って闇魔法を使ったら危ないからって、学校にも行ったことなくて・・・」
たどたどしい喋り方だ。自信満々のリーアンとは真逆にも思えるほどに。
そうか、リーアンはリーミアの理想の自分だったんだな。
「家の外にも、危ないから出ちゃ駄目だってずっと言われてたの・・・」
「そうか」
「けど、けど、私は・・・!」
「勇者になれば闇魔法も堂々と使えると考えたわけか」
亜人のマクマが、勇者ローレン一行だったからという理由で迫害を受けなくなったように、勇者になる事で認めてもらいたいと思ったのか。
手段が大それてる割に、目的がそれか。
「だってそれしかないんだもん!それしか、ないんだもん」
そうだよな。こいつは強いが、まだ14なんだもんな。大人が教えてやらねぇと、簡単な事にも気づかない子どもなんだよな。
それにフィンに負けねぇくらい、世間知らずだ。
「馬鹿だな」
「え?」
「うん、馬鹿ね」
「な、なんで!?」
「リーミアって賢い馬鹿だったんだな」
「ちょっとフィン!」
困り顔のまま戸惑う姿に笑えてくる。
こんな馬鹿な子どもに、俺は何を遠慮していたんだ。
「あーあ、とうとう勇者さまの可愛いところがバレちゃった」
「なんだよそれ!意味分かんない!」
馬鹿なのは俺もか。もっと早くきちんと向き合ってればわざわざこんな所まで来る必要もなかったってのに。
「要は、ありのままのお前を認めて欲しいってことだろ?」
本当に、馬鹿だな。
「俺たちはありのままのお前を認めるためにここまで来たんだが?」
困り顔が驚き顔に変わる。くるくると表情が変わるのも、今のこいつがリーミアである証拠だな。
「で、でも見た目が、これは幻視魔法で・・・!」
「見た目がそんなに大事か?」
「大事でしょ?!」
「リーミアって見た目差別しちゃう感じ?」
「そ、そうじゃないよ!でも・・・あれ?」
「あたし、リーミアの本当の姿も好きになる自信あるわよ?」
「えぇ!?」
「髪の毛切っただけでも見た目って変わりますよね」
「そういう問題じゃ・・・あー!もう分かんない!」
弄り倒すとなかなか面白い奴だったんだな。
リーアンの時の動じなさが嘘みてぇに、明らかな冗談にもいちいち反応していて、そんな姿に安心する。
「幻視魔法解いてあげようか?」
「やめろ馬鹿!」
だが、やはりここでもディーナンは別格なのか。本人たちは気づいていないようだし、互いの立場というものを考えれば前途多難ではあるが・・・まぁ、そこまで口を挟むのはさすがにお節介すぎるか。
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鏡を見る度に違和感のある瞳の色が嫌だった。
年に一度、教会で魔法をかけ直してもらうのも嫌だった。
同い年の子と遊べないのも、学校に行けないのも嫌だった。
事情を知っている大人が、気を遣ってくるのも嫌だった。
だから、嘘の色である風魔法を頑張ってたくさん練習した。
嘘を本当にするために、周りが望む私になれるように。
でも、気づいてしまったの。嘘は本当にはならないって事に。
だって、どんなに練習しても変換できる魔力量には限度があったんだもん。
倒した魔獣から出てきた闇の魔力を、私の体は吸収してしまうんだもん。
そのうち、本当になり得ない嘘をつき続けることに、疲れちゃったの。
もう疲れて、そんな時にマクマさんの事を思い出して。
勇者になりたいと思った。
誰もが憧れる勇者に。
ありのままの姿で生きられる勇者に。
みんなが、認めてくれる、お父様みたいな勇者に。
泣き虫なリーミアではなく、男の子の姿で、自信あふれるリーアンになれば、勇者になれる気がした。
空元気だったよ?不安な気持ちからは必死に目を逸らしていたし、ポジティブな事しか考えないように頑張ったんだよ?
ディーナンは、見透かしてくるから嫌だった。でも、だからこそ八つ当たりできた。
ラーニカは、私をリーアンとして見てくれた。けど、それが重たかった。
フィンとシアラは、お父様の事も魔族の事も良く知らないでいてくれたから、気負わないでいられた。
コーダンは、彼はね。強くてかっこよくて、きちんと弁えていて。安心できたの。
踏み込まないでくれるし、聞かないでくれるし、その上で弁えてくれると、思ってたのに。
こんなところまで迎えに来るんだもの。
勝手に置いて行ったのに、私の、私なんかの仲間として、私を迎えに来るんだもの。
今まで本気でずっと悩んでいたことが、「馬鹿」なんだって。
私、私のままでいていいんだって。
まだ本当の姿を見せるのには勇気が足りないけれど、それでもこんな風に笑えるのが、本当に本当に嬉しかったんだ。




