(41)勇者さまは女の子
ディーナンは、いつも通りだった。
初めて会った時と同じ、私たちと旅をしていた時と同じ、いつも通りの態度だった。
「魔王を討伐しようとしている僕の姿はさぞかし滑稽だっただろうね・・・!」
一緒に旅ができて楽しかったのに。助けに来てくれて、嬉しかったのに。
私をずっと欺いてきたという事か。
また涙が出そうになった。もう色々あり過ぎて感情がおかしくなってたんだと思う。
「滑稽っていうか、すっごい可愛かった」
「え」
ディーナンのいつもの軽口にすら動揺してしまう。
ドキリと心臓が跳ねたのは、驚いたから。だと、思う。
「勇者さまが使ってるその幻視の呪い、魔族には効かないやつだよ」
魔法ではなく呪い。一度掛けたら正式な手順を踏まないと解けないから呪いと呼ばれているもの。
その単語を見たのは、あの禁書の中だけで、そう、あの禁書は魔族の魔法の本で・・・。
魔族には効かない?男の子に見えないってこと?
そう、いえば、魔王は私の事を「その娘」って言ってなかった?
え、でもディーナン温泉で私の裸を見て・・・た?
「えええええ!!」
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涙を流しながら俺の事を見上げる姿も可愛かったけど、顔を真っ赤にしながら布団に包まる勇者さまも可愛いのなんのって。
ずーっと見てられると思った。
何なら、これを機に甘い言葉を囁きながら押し倒しでもすれば俺の物になるかなーなんて思ってた。
そんな幸せな時間を邪魔してきたのは執事のダナンだ。
「殿下」
「もう案内してくれんの?」
以前大暴れしたから小間使いの大半は俺にびくついてるけど、執事歴の長いダナンはいたって平坦な態度で、それがこいつの長所であり短所でもある。
「いえ、この地に向かう人間がいるのですが、魔王様が殿下に関わりのある人間ではないかと」
人間、ねぇ。十中八九あいつらだろうけど、さてどうするか。
今のを勇者さまに聞かれたから、放っておくってわけにもいかないし、かと言ってここで勇者さまに里心がついたら・・・あ、でも勇者さまが人間の土地に戻ったところで俺には関係ないか。
「勇者さまも行く?」
「やだ」
念の為聞いてみて良かった。だって、「やだ」だって。
拗ねたような小さい子どもの様な声で「やだ」だって。
勇者さま可愛すぎない?
これって、もしかしなくても俺に甘えてるやつだよね?
「でも多分勇者さまいないとあいつらここまで来ちゃうけど?」
「やだ」
ほら可愛い。
あの様子だと俺の事もちゃんと異性として意識し出したみたいだし、信頼もあるっぽいし。
大人になるまで待とうと思ったけど、これは少し強引な手を使ってでも唾つけとかないとかなぁ。
勇者さまが俺のものになる。考えただけでワクワクしちゃう。
そのためには、そうだなぁ。勇者さまをあの亜人の後釜辺りにでも据えて、その後は・・・死ぬほど嫌だけどおやじの権力も借りるか。
その後立場を笠に押せば、いくら勇者さまとは言え俺を受け入れざるを得なくなるだろうし。
勇者さまが、ミアが、俺の本当の名前を呼んでくれるかもしれないのなら、何でもできそうな気がするなぁ。
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魔族の土地に入ったはいいが、さすがに魔族は避けて通らなければならない。
真っすぐ魔王城に向かっているであろうあいつに追いつこうにも、町を迂回している俺たちの方が遅くなる可能性は十分にあった。
それでも、向かった。
マクマにかけてもらった防御呪文のお陰で、漂う闇の魔力の影響は受けないこともあり、多少無理目な速さで魔王城を目指した。
そして、魔王城のある街、ゴヤを目前にして俺たちの足は止まる。
あいつの居場所を指し示す魔具は、真っ直ぐに魔王城を指していたからだ。
追いつけなかった。
この面子では、さすがに魔王城どころかゴヤへ入る事も難しい。
残る手は、あいつが魔王城から出てくるのを待つか、勇者ローレンが着くのを待つか。
不安そうなラーニカと、珍しく真面目な顔のフィン。キョロキョロと辺りを見回すシアラの全員にまだ余力があるのを確認し、今後の方針を話し合おうと振り返った時、ほぼ同タイミングで間近に気配が現れた。
「帰らなかったんだ」




