(38)仲間という呪い
「か!かっけぇ!」
フィンの口から聞こえてきた言葉に、我が耳を疑った。それほどまでに、この国にはまだ差別意識があり、俺の中にもあったということだ。
そんな俺の視界の先で、フィンとシアラは目をキラキラと輝かせている。
ラーニカは・・・半信半疑と言ったところか。
「闇の魔力を風に変換してたってことですか?」
「そう」
「そんなことが可能なんですか?」
「あの子には可能だったのよ。悲しいことにね」
属性魔法間での魔力変換は、そういう技術があること自体は俺も聞いたことがある。だが、闇魔法は闇魔法だ。
属性魔法を増幅させる作用があっても、変換できるなんて、聞いたこともない。
魔法学校で学んだラーニカが知らないのであれば、恐らくこの国の大半の人間が知らない事例という事でもあるということだ。
「それでもあの子は人間として生きようとしていたのだけれど・・・」
そう呟きながらマクマは目を伏せた。
魔族と同様に迫害を受けやすい亜人だ。マクマにはあいつの感じてきた苦しみが理解できるのかもしれない。
「リーアンがめっちゃ強いのは知ってるんすけど、あいつ魔王に勝てるんですよね?」
重い空気の中でもフィンの声は軽やかで、普段は鬱陶しいのにこんな時は救われる。
救われる・・・?救われたいのか?俺は・・・。
「あの子が闇の魔法を使ったとしても五分五分ね」
「負けたらどうなるんすか?」
「死ぬことはないと思うけれど・・・帰っては、来ないでしょうね」
「え、なんで?」
「生まれたままの姿で生きられないから」
「生まれたまま・・・?」
「瞳の色を変えてるんですね?紫から緑に」
世間知らずのフィンは知らなかったようだが、体内の魔力と瞳の色に相関関係があるのは常識だ。ラーニカは焦げ付く様な紅。シアラは薄い水色。そして、あいつは風を表す新緑だったはずだが、闇魔法持ちであれば紫のはずだ。
瞳の色を変える技術は教会の専売特許だ。教会に自ら出向いて色を変えてもらうという事は考え辛い。
と、いう事は、だ。あいつの周りにはあいつの紫を受け入れてくれる大人はいなかったと、そういう事になる。
「もし、今の話を聞いた上でそれでもあの子のパーティメンバーでいてくれるというのなら、迎えに行って欲しいの。あの子を」
「魔王城までか?」
思わず口を挟んだが、マクマからは軽蔑するような視線を返された。
よっぽどあいつのことが大切なんだろう。それにしてもその態度は・・・いや止めておこう。俺はもう部外者なのだから。
「確認はするけれど、1週間もあれば勇者ローレン率いる討伐部隊が着くはずよ。それに同行してあの子を説得してほしい」
「おやじに説得されれば帰って来るんじゃねーんすか?」
「ローレンじゃ、無理なのよ。あの子の、あの子が選んだ仲間じゃないと」
「仲間」という言葉に、胸がズキリと痛む。
その言葉は呪いだ。会ったばかりで互いの事をよく知らない相手でさえも死地へと引きずり込んでしまうほどの、強力で恐ろしい縛りなのだ。
俺は護衛で、護衛だからこそここまで来た。
仲間になれと言われれば断固として断っていた。護衛という距離感があったからこそ、こんなにも長い時間を共に過ごした。
これ以上は踏み込んではいけない。分かっている。分かっているが、正しいはずの選択がこれほどまでに苦しいことが今までにあっただろうか・・・。
「無理だと思うなら、この腰抜けの護衛と一緒に帰ればいいわ」
意気地なしから腰抜けに降格か。
他人に嫌味を言われるのは痛くも痒くもねぇはずだが、この時ばかりは苦い笑みが漏れた。
「コーダン。あんたはそれでいいの?」
お仲間想いのラーニカは迷わず迎えに行くのだろう。こいつは最初からどこまでもあいつに付いて行く気だったらしいしな。
だが、釣られてこちらを見るフィンとシアラの視線すらも、実体を伴ったかのように痛みを持って突き刺さってきた。
「俺は最初から金で雇われていただけだ。雇用主に解雇されたんだから当然だろ」




