(3)パーティメンバー求ム
いったん冒険者ギルトを後にして、私は宿屋に来ていた。
借りた部屋に荷物を置き、1階の食堂に下りると、ちょうど晩ご飯の時間だ。
食堂では、案の定宿泊客ではないおじさん達が何人もお酒を飲んでいるのが見えた。
お母様に聞いた話だと、酒場は治安が悪いけど宿屋の食堂は比較的治安も良くて、かつたまに大物が釣れるらしい。
大物って言っても当然魚じゃない。まぁまぁ広い食堂を、一人一人じっくり観察しながら見渡していると・・・いた。
30歳くらいだろうか?全身にしっかりと実践的な筋肉がついていて、お酒を飲みながらなのに周囲の警戒を怠っていない。
ちょっと無精ひげなのはいただけないが、あのおじさんならBランクくらいの腕前はありそうだ。
人でごった返す食堂をぶつからないように移動し、おじさんの前に立つ。
子どもの私相手でもちゃんと臨戦態勢を取るのも、戦闘慣れしている感じがする。
「こんばんは!」
ニッコリしながら向かいの席に座ると、おじさんは迷惑そうに顔をしかめた。
「なんだ坊主、迷子か?」
「迷子じゃないよ。おじさんに興味があって話しかけたの」
「あいにく俺はガキは相手にしねぇんだよ」
何を勘違いしたのか、おじさんは犬でも追い払うようにシッシッと手を振ってきて、少しムッとする。これなら性別を変えるだけでなく年齢を変えるような魔法も探せばよかった。
魔力の見えない人間を相手にちまちまと雑談するのがまどろっこしくなった私は、もう早速本題に入ることにした。
「おじさん冒険者ランクBはいってるよね?明日からしばらく雇われてくれない?」
「・・・は?」
おじさんは腰の剣に手をかけ、周囲を一瞬だけ確認してからまた私に視線を戻した。
良い警戒の仕方だ。これは思ったより大物かもしれない。
「まず、3つ確認させろ。なぜギルドを通さない」
単刀直入なのも好感が持てる。いい人材を引き当てたようだ。
「わた・・・僕が欲しいのは護衛じゃなくて同行者なんだ。もっと言うとおじさんの冒険者証に用がある」
危なかった。男の子になったとは言え、「私」なんて言ったら変な目で見られるかもしれない。
喋り方には気をつけないと!
「もしかしてパーティ組めってのか?」
「そうそう!でも、護衛と同額の報酬は払うよ」
お母様にこっそり聞いた裏技のひとつ。
護衛業をしている冒険者をパーティメンバーとして雇うと、自分のランクでは不足している依頼も受けれるらしい。
もちろん、抜け穴なのでギルドには内緒だ。
「次、なんで俺がBランクだと?」
少し警戒を解いてくれたのか、おじさんはお酒をゴクゴクと飲み始める。
お酒を飲みたいとは思わないけど、豪快に飲んでいるのを見るとお腹が空いてきちゃう。
「おじさんの体を見たから」
「んぐっ!ゲホッゲホッ」
私の返事を聞いた途端、おじさんがいきなりむせ始めて驚いた。
お酒を吐き出しはしなかったが、よっぽど苦しかったんだろう。息はできるようになったっぽいけど、まだ肩で息をしているし。
「・・・大丈夫?」
勢いよく飲み過ぎたんだろうか?それかそうは見えないけどそこそこ酔っぱらっているのか。
「死ぬかと思った」
「死なれたら困るんだけど」
冒険者と言えど、冒険以外で死ぬこともある。
高位の聖職者は蘇生出来なくもないけど、100%では無いらしいし、やはり命は大事なのだ。
「てめぇ、誰のせいで・・・いや、いい」
何かを言いかけて飲み込んだおじさんは、頭をワシワシと掻きながら何かを考えているようだった。
「いらっしゃい、坊ちゃんは何にするんだい?」
「あ、僕はあっちの人が食べてるのと同じので」
「あいよ、小銅貨5枚だよ」
注文を取りに来てくれた宿屋のおばちゃんに小銅貨5枚を渡すと「ちょっと待ってな」と厨房に戻って行った。
これでも、ロロン村で買い物もしていたから、金銭感覚はちゃんとしているのだ。
おばちゃんを見送っておじさんに視線を戻すと、先ほどより真剣な眼差しと目が合う。
「最後の質問だ」
「うん」
「最終目的地と雇用期間を教えろ」
これは、依頼内容の交渉だ。
さっきまで門前払いする雰囲気だったのに、どうやら私のスカウトに乗り気になってくれたらしい。
依頼交渉も冒険者の仕事の一つだ。まるで冒険者になれたみたいで嬉しくて、どれくらい嬉しいかったかというと、思わず椅子から立ち上がってしまったほど。
「期間は多分ひと月くらい。最終目的地は、魔王城だ!」