(37)正しい判断
適正魔法というのは、魔力を持つ人間が体内で作り出せる魔力の事だ。
これは生まれつき決まっていて、たまに複数の種類への適性がある人間もいるが、作り出せる魔力量によって第一適性、第二適性と呼ばれている。
火、風、水、土の属性魔法が基本で、ごく稀に光魔法を使える人間もいるが、大抵が身入りもよく地位もある神官になるので、勇者ローレンのように草の根活動したがるのは変わり者と言える。
で、件の闇魔法だが、これは魔族が使うものだ。
魔族は人間と違って体内で魔力を作り出せない。魔族の土地に満ちる闇の魔力を吸収し、使うのだ。
魔族にとって、闇の魔力は魔法に使うものである前に生命を維持する欠かせないものだ。
だから魔族は魔族の土地を出ないし、人間の土地への侵略もハードルが高い。強大な魔法を扱える魔族と人間がまともに戦えるのもそのおかげと言えるだろう。
話は逸れたが、要は魔族であっても闇の魔力を体内で作り出すなんて芸当は不可能なのだ。
そんな事が出来てしまうというあいつは、あの歳であんなに器用に嘘がつけてしまうあいつは、今までどんな思いで生きてきたのだろうか。
いや、だとしても。あいつがそんな重すぎるもんを背負っていたとしても関係ない。
俺はただの護衛で、あいつはただの雇用主でしかないのだから。
「で?そんな話をして、俺にどうしろと?」
「あの子の、本当のパーティメンバーになってくれない?」
「無理だな」
反射的に返事をしていた。返事をしてから微かな息苦しさを覚えたが、それも飲み込む。
俺は歴史に名を残すようなそんな大それたことができる人間ではないのだ。
依頼された仕事はできる範囲内できっちりとこなすが、それ以上は踏み込まない。それが、冒険者として長く生き続けるための教訓だ。
元依頼主がどうなろうと、それは俺の責任外で、いわばどうでもいい事で。
踏み込んではいけない。そう理解している。
「分かったわ。今夜は来賓として泊まらせてあげるけど明日の船で帰りなさい」
断られたところで、何の感慨もないかのようにマクマは吐き捨てた。
そしてそのまま部屋を出ようとする。
「どこに行くんだ」
「あの子の仲間のところよ」
「・・・案内する」
「あら?意気地なしには関係ない話だと思うけれど」
的確に痛い言葉を選んでくるのはわざとだろう。
冷たい視線の横をすり抜けて、宿までの道のりを先導した。
図ったかのように突然吹きすさび出した風は、まるであいつの慟哭のようだと、似合わねぇ事を考えながら。
「ローレンの・・・娘・・・」
惚れてるんじゃないかとは思っていたが、やはりラーニカにとってあいつの正体は受け入れがたいものだったらしい。
頭を抱えながら、周りも見えないという様子でブツブツと呟いている。
「え、でもあいつの触ったけどちゃんと・・・」
「フィン!そんなことしたの!」
フィンとシアラにとっては由緒ある家柄も性別も関係ないらしい。
幻視魔法がかかっているとはいえ、他人の体をベタベタ触るのはどうかとは思うが。
「あなた達を置いて行ったのはあの子なりの優しさなのよ。魔族の土地は滞在するだけで体に毒だから」
「あのー、ディーナンさんは魔族だからリーアンと一緒に行ったんすよね?」
「そうよ」
「ってことは、リーアンも魔族なんすか?」
事も無げに聞くフィンに「あんた何言ってるの?」とラーニカが突っ込みを入れる。
マクマは、さすがは年の功。一ミリも動揺をしていない。
「どうしてそう思うの?」
「あの二人、似たような匂い感じるなって。あ、俺魔力は見えないんすけど」
「私も思いました。ダンジョンと同じような魔力感じるなって」
どうやら俺はこの二人を侮っていたらしい。ダンジョンを庭代わりにしていただけあって、野生の勘が魔獣並みだ。
マクマはゆっくり一度だけ瞬きをした。そして、静かに口を開く。
「魔族じゃないわ。でも生まれつき闇の魔力を持っているの」




