(34)魔族の尻尾
「すげぇ!速ぇ!」
「首引っ込めないと飛ばされるぞ」
フィンがコーダンに首根っこを掴まれてる横で、私もひそかに感動していた。
何にって?当然、今乗っている魔法船の速さに。
甲板の中央に巨大な魔具が付いているのにも驚いたけど、その魔具が作動すると船全体が風の膜に包まれて、そしていきなり進みだしたのだ。
風の膜のお陰で、船体は揺れないし風圧もない。
でも、膜の外では景色が飛ぶように流れて行っていて、私も心の中ではフィンのように叫んでいた。
「フィンがすみません」
恐縮するシアラは、ハーブティーを淹れながらラーニカとお茶を飲む準備をしている。
私も加わろうかと思った。けど、イスに座ろうとしたお尻がムズムズし出して、嫌な予感を感じたんだ。
「リーアンどうしたの?」
「ちょっと、僕、探検してくるね」
「あ、俺も一緒に・・・!」
付いてきそうなフィンを撒きながら、船内の人がいないところを探した。すぐに無人の客室が見つかり、その中に身を滑り込ませる。
お尻にやっぱり違和感がある。
少し怖かったけど、覚悟を決めて触ってみた。
触りなれない長い指の様なものが、お尻の上、腰のあたりから生えていた。
そう、尻尾だ・・・。
これって、これってもしかして・・・。
「もう影響出ちゃった?」
誰もいないはずの部屋で、ディーナンに突然話しかけられてももう驚かない。
それよりも、何よりも、突然生えてきた尻尾の方にショックを受けていたから。
「影響って?」
「闇の魔力の影響。漂う魔力が、勇者さまの中にある魔力に干渉するだろうな~って思ってたんだけど」
確かに、サキット街にいた時に、体内の魔力がざわつくような感じがあった。
サキット街を出た時に落ち着いたざわつきは、船に乗った直後からまた感じ始めていた。
気のせいだと、思いたかったのに。
「なんで教えてくれなかったの?」
「確証がなかったし、聞かれなかったし。それに言ったところで引き返さないでしょ?」
「そう、だけど・・・!」
腰から生えた尻尾、それは魔族の特徴の一つで。しかもまだ魔族の土地に入っていないのに尻尾が生えたという事は、これ以上進めばもっと魔族の様な見た目になることは明白だった。
尻尾ならまだ隠せる。牙が生えてもどうにかなるだろう。でも、角や羽が生えたら?風の色の目が暗紫に戻ってしまったら?
その姿で「人間だ」と言って、誰が信じてくれるだろうか?
魔王を倒すのに、闇の魔法を使わないといけない覚悟はしていた。だから魔王城に行くまではみんなと一緒にいたいと思っていた。
けれど、無理だ。もう一緒にはいられない。
「次からは僕に影響する話はすぐに教えて」
「御意に、我が主」
夢のような時間はもう終わりにしないといけない。
そのために、もう少しだけリーアンでいようと、静かに気合を入れ直した。
それから30分ほどかけて船が到着したのは、対岸の物よりも少し大きな港町だった。
目前には魔族の土地。そこから漏れ出る闇の魔力のせいで、空気が少し重たい。
ここまで闇の魔力が漂っているとさすがに普通の人間は長期滞在できないのか、町には冒険者風の人間と亜人の商人しかいなかった。
「シアラ大丈夫?」
「はい、これくらいなら慣れてます」
「この感じ・・・サキット街の地下2階くらい?」
「うん。5階までなら降りてたもんね」
少し心配だったけど、シアラとフィンは意外と闇の魔力に耐性があるらしい。
これなら数日滞在することになったとしても問題なさそうだ。
「あの門通してもらうにはどうすればいいの?」
港町と魔族の土地を隔てるのは、物々しい塀と門。魔獣に壊されないように強力な結界が付与されているのが分かる。
「人間側の大使が管理しているはずだ。申請出せば通してくれるだろうよ」
「大使?」
「平たく言えば魔族の監視係だな」




