(27)八つ当たり
ディーナンとの話し合いは平行線を辿ることになる。
だって、ディーナンは元奴隷達を私の配下にしたいとそればかりで、なぜ彼の配下では駄目なのかの理由すら教えてくれないんだもん。
「さすがに魔族の知り合いなんていないしなぁ・・・」
「だから、勇者さまが引き受けてくれれば解決するんだって」
もう何度目かの「勇者さまが引き受けてくれれば」にさすがに腹が立ってくる。
魔族の事をよく知らない私が一生懸命打開策を考えているというのに、ディーナンの態度は不真面目にしか思えなかったのだ。
「前から言おうと思ってたんだけど、その『勇者さま』ってやつ止めてくんない?」
「なんで?」
「まだ勇者の称号は持ってないからだよ!」
「でもそのうち取るんだろ?ならいいじゃん」
確かに、勇者の称号は取るつもりだ。そのための魔王討伐だ。
けど、聞こえないとはいえ、他の魔族がいる前で使っていい単語じゃない事くらい分かっているはずなのに。
「ディーナン、デリカシーがなさすぎ!」
「デリカシー?なにそれ?」
ディーナンの事を私が知らないように、彼だって私の事情を知らない。
だからこそ悪意があって「配下に」とか「勇者さま」なんて言っているわけでないことは分かっている。
分かっては、いるんだ。
「もう!話にならない!魔族の問題は魔族で解決してよ!私に押し付けないで!!」
このイライラは私の問題で、これはいわゆる八つ当たりなんだ。
どうにもならない事をどうにかしたくて、どうしようもないと分かっていながら諦められない私の弱さ。
いつもはうまく隠せるはずなのに、ちゃんと胸の中にしまっておけるのに、どうしてだかこの時はこの言葉が溢れだしてしまったんだ。
「私は魔族じゃない!!私は、私は人間だもん!!」
ディーナンがどんな顔をしたかは怖くて見れなかった。
逃げるようにダンジョンを後にして宿屋に戻ると、まだラーニカは寝ていて、少し離れたイスにコーダンが腰かけていた。
「やってくれたな」
苦笑するコーダンの視線を辿ると、部屋の入口に仕掛けたトラップ魔法が発動した跡があった。それも、想定よりだいぶ強い感じで。
「素人だったら死んでたぞ」
「え、そんなに強かった?」
トラップ魔法をよく視ると・・・なるほど、ダンジョンから漏れ出る魔力を吸収して威力が増してしまったようだ。
闇の魔力は他の魔力を増幅させる作用もあるのか・・・。
知らずにいたら事故を起こしてそうだったので今のうちに分かって良かったかもしれない。
「殺人を犯したくなけりゃ、次からは鍵ってもんを使ってくれよな」
「でも鍵かけたらコーダンが部屋に入れないだろ?」
宿屋の鍵は当たり前だが一つしか渡されていない。私が持って出てしまえば他の人は部屋に入れなくなるし、だからこそのトラップ魔法だったんだけど・・・。
「受付に、預けんだよ」
言われてハッとする。
使用人はいないけど、確かに宿屋には受付の人がいつもいた。
そうか、鍵を預けて出かければ良かったのか。
呆れたようなコーダンの顔。どうやら私は冒険者としてまだまだ学ぶことが多そうだ。
「で、魔力酔いの薬だが」
「うん」
頷いてからラーニカの様子を伺うと、少し寝苦しそうに寝返りを打つところだった。
魔力の量は、先ほどとほとんど変わっていない。
「なかった」
「なかった?!」
「売り切れ。最近魔力酔い起こす冒険者が多くて手に入り辛いんだとさ」
「そんなぁ」
ラーニカの魔力回復にはまだまだ時間がかかるだろうし、ここから離れようにもこんなに辛そうな状態の彼女を無理に移動させるのもかわいそうだ。
魔力を分け与えるという手も、なくはない。けれどそれはやりたくない。
「念のため薬屋に寄ったが、材料がないらしい」
「材料って?」
「魔力を吸って光る草。下のダンジョンにも生えてるらしいが・・・」
「あ、それたぶん見たよ」
ほんの15分ほど前の光景を思い出す。
もしかしなくても、ディーナンがいた空間に生えていた草。あれがその材料とやらだろう。




