(26)魔族の配下
囁きを運んできた風魔法の残滓を辿ると、案の定ダンジョンの方からだった。
寝ているラーニカを1人にはできない。だからといっていつ帰ってくるか分からないコーダンを待ってはいられない。
考えた末、あの下水道にあった土魔法のトラップを改良したものを仕掛けることにした。
勝手に部屋に入って来る不届き者は痛い目見れば逃げるだろうし、コーダンならきっと避けられるだろうし。
即席で組んだ魔法陣だったけど、思った以上にちゃんとできた。これならまた別のところでも使い道がありそうだ。
窓枠に足をかけ、相変わらずの人混みを見下ろしながら飛び出した。
騒ぎになるのも面倒なので、姿を消しながらの空中浮遊だ。
気の短いディーナンから送られてきた「早く」という追加の囁きを辿りながら、太すぎる枝の間をゆっくりと降りて行く。
最初は、人も沢山いたし私みたいに飛んでる冒険者もいたけど、降りていくうちにどんどん数が減って行った。
枝が階層の役割を果たしているようだ。下に行くほどに漂う闇の魔力は濃くなるし、湧き出る魔獣も強くなっていっているようだったから、10階あたりになるともうほとんど人もいなくて・・・。
だいたい、13階あたりだろうか?
太すぎる枝の脇。ウロのような穴の奥に、ディーナンの魔力を感じた。
穴と言っても普通の家がすっぽりハマる大きさだ。しかも、中に入ると思った以上に明るかった。
地上の光は届くわけない。光源は青白く光る変な形の草だった。魔力を光に変えているようだけど、本にも載っていなかった知らない形の植物だ。
「遅いよ」
そう言うディーナンは、ホールのように開けた空間の入口に立っていた。
彼の後ろ、少し離れた所に魔族が6人。私が助けた子どももその中にいた。
「魔力はほとんど回復してる。残ってるとすれば心の傷、くらいかな」
軽薄な笑みを浮かべながら肩を竦めるディーナン。相変わらず何を考えてるのか分からない。
「ディーナンの配下には加えないの?」
「冗談キツイって」
「じゃあどうする気?」
魔族の問題はさすがに私にも分かりようがない。それにそもそも奴隷制度自体あるとは思っていなかったのだ。
それに比べて、物知り顔のディーナンであれば打開策も考えていて、その上で彼らを助けたのだと、そう思っていたのに・・・。
「どうするのが良いと思う?」
そう呟いたディーナンは、とぼけている訳じゃなく本当に悩んでいるようだった。
「まさか何も考えてなかったの?」
「本当に勇者さまが動いてくれるとは思わなかったんだよ」
少し驚きだ。ディーナンってこうもっとどんな時も余裕で、なんでも上手くこなしてるイメージだったから、こんな風に困ったりするなんて。
でも、そんな困った顔されても私にはどうしようもあるわけがないのだ。
「どっちにしても魔族の土地には返さないといけないんだろ?」
「そりゃあそうだけど・・・」
ダンジョン内であれば魔族が生きるのに必要な闇の魔力も沸いてはいる。けど、お父様のように強い冒険者がダンジョン攻略に乗り出せば彼らは討伐されてしまうかもしれないし、それを考えればずっとここにいるわけにはいかないのだ。
ディーナンはチラッと後ろを振り返り、また視線をこちらに戻す。
困ったような顔に、軽薄な笑みを取り繕ってからゆっくりと口を開いた。
「勇者さまの配下にしてくれない?」
「え?」
一瞬、自分の耳を疑った。何でここで私が出てくるんだ。
「僕人間なんだけど」
「別に人間が魔族を配下にしちゃ駄目ってことはないよ」
「そういう問題じゃないだろ」
ふざけたような口調だけど、冗談ではなさそうだ。
だからこそ、意味が分からない。
「なんで僕なんだよ。そこはディーナンだろ」
「勇者さまほど強ければあいつらも喜ぶと思うんだけどなぁ」
「ディーナンだって強いだろ」
闇の魔力を他の魔力に変換している私は、魔力の総量がどんなに増えようとラーニカのような火力は出ない。魔力変換にはどうしても限界があるせいだ。
それを考えると、複数の魔力を持ちそこそこ魔力量があり、かつ繊細な魔力操作が可能なディーナンは明らかに私より強いはずなのだ。
しかもその差は、私が一生をかけようと覆らない程度にはある。
「ディーナンの配下でも喜ぶんじゃないの?」
「俺は駄目だ」
私にしか聞かせたくないように、ディーナンは小さく呟いた。




