(24)翌日は何もなかったかのようで
陣の中に入ると、まだ女性姿のディーナンが佇んでいる。
「奴隷達は?」
「もう街の外。その子たちも引き取るよ」
「うん、任せた」
引き連れていた2人の頭を撫でてからディーナンに引き渡した。彼の陣から出ると、少し前まで滞在していた奴隷商の館の方から騒がしい声が聞こえてくる。
街の警備が動いたのだろう。見つからないようにまた自分の姿を消す。
魔力を探って、ラーニカにも遠隔で隠匿の魔法をかけた。コーダンは魔力がないのでフォロー出来ないが、彼の事だ、どうにか上手くやってくれるだろう。
人気のほとんどない大通りを歩いて、宿屋に着く。
少し待っていると、コーダンとラーニカがほぼ同時に現れた。
無詠唱の風魔法で声もかけずに2人を窓から部屋へと送り込む。尾行がないことを確認してから私も部屋へと飛び込んだ。
翌朝。早めに朝食を取り、許可証を貰いに行った足でそのままソアラを後にした。
検査場に着く直前でディーナンが戻ってきたので、1人足りないと怒られることも無くすんなりと出れたけど、ここで疑問が湧く。
ディーナンはソアラの外に奴隷を逃がしたはずだった。
と、言うことは、ソアラから何度か出入りしている事になる。
・・・どうやって?
ソアラの周りには進入禁止の強い魔法陣があるから、魔族と言えど容易に超えることは出来ないはずなのだ。
そんな疑問を先に聞いてくれたのはラーニカだった。
「あんた奴隷はどうしたのよ」
街道の脇。行き交う人々から少し離れているとはいえラーニカは声を潜めていた。
周りに聞かれでもしたらヤバい話だ。昼食のパンを頬張りながら、念の為私たちの周りに風の結界を張ることにした。盗聴防止にも毒ガスの防御にも使える万能結界だ。
「安全な場所に一時退避させてるよ」
「安全な場所?」
「この先のダンジョン」
ディーナンが親指で指し示したのは私たちが向かっているサキット街の方。
ソアラほどでは無いが大きな街と聞いていた。ダンジョンもあるのか。
「どうやってそんなとこまで・・・」
疑わし気なラーニカ。でもコーダンには心当たりがあるようだった。
「転移魔法か」
コーダンに答える代わりに、ディーナンはニッと軽薄な笑みを浮かべた。
お母様に聞いたことがある。転移魔法とは主に魔族が魔族の土地で使う魔法だが、魔力の満ちたダンジョンでも使うことができるのだと。
その名の通り、離れた場所へ一瞬で転移する事のできる、魔族の脅威の象徴でもある魔法だ。
「本当に魔族なんだな」
確かめるように呟くコーダン。
ディーナンの見た目は完全に人間のそれで、羽もなければ角もない。
どうやって隠しているのかは知らないが、魔力が見えない人間には彼の正体を見抜くことは不可能だろう。
それほどまでに、ディーナンの闇の魔力は少ないのだ。
「で?この後はどうする気なの?」
「少し休ませてから判断させる」
「とっとと魔族の土地に戻せばいいじゃない」
「亜人も混じってたんだよ。それに・・・」
珍しくディーナンが言い淀んでいた。
奴隷だった魔族だ。おそらく、全員魔力が少なかったのだろう。
魔力が少ない魔族。人間の土地では奴隷だったが、魔族の土地に戻ったからといって、すんなりと受け入れてもらえるはずもなさそうだ。
「ディーナンの配下に加えてあげたらいいんじゃない?」
「配下?」
「うん、魔族にとって配下に加えるって養子みたいな感じなんだって」
魔力が少ない魔族は、より強い魔族の配下になる事で地位を得られるのだと、だから魔王はたくさん部下がいるのだと聞いたことがある。
教えてくれたのはお母様の親友の学者、マクマさんだったか。
ディーナンは闇の魔力こそ少ないが、他の魔力は十分にあるし、何より強い。
認めるのは癪だけど、魔力操作も、たぶん、私よりも上手い。
「俺は勇者さまの配下になりたいけどね」
いつもみたいに茶化して言っているのかと思った。けど何故かその時のディーナンは真面目な目をしていたんだ。




