(22)魔族へ向ける嫌悪感
襲撃予定30分前になると、ディーナンが宿に戻ってきた。
「場所と間取りはこんな感じ」
「ありがとう」
ディーナンが魔族の魔法を使って作ってくれた地図は、思ったよりも詳細で、しかも警備の配置と奴隷が囚われている場所もきっちりと書き込まれていた。
警備は入口と1階がメインで、2階にも少し。奴隷が囚われている地下にはほとんどいないのか。
「地下が手薄過ぎない?」
覗き込んできたラーニカも同意見だ。罠がある、とかだろうか?
「品行方正な冒険者さんには関係なくない?」
「こら、ディーナン」
ディーナンの意地悪を言いたくなる気持ちは分かる。でも、ラーニカには冒険者としての立場があるんだ。
それを踏まえても今のは看過できない意地悪だった。
「ラーニカとコーダンも手伝ってくれることになったんだよ。意地悪言わないでちゃんと教えて」
「・・・地下は恐らく闇魔法阻害の魔具がある」
「ディーナンでどうにか出来そう?」
「楽勝」
「じゃあ地下は任せた」
頷くディーナンに頷き返し、ラーニカとコーダンの方を向く。
「2人には派手に暴れて警備の目を引き付けて欲しい。奴隷はディーナンに任せる」
「お前はどうするんだ」
「僕は1番偉そうなやつに脅しをかけてくる」
「顔を見られてもいいのか?」
心配というよりは確認するように、コーダンは言った。
確かに貴族の子どもが犯罪を犯しましたなんてことになれば、家名に傷が付きかねないからね。
でも、それはとっくに織り込み済み。
「幻影魔法を使って全員の見た目を変えるから大丈夫」
風魔法と光魔法もしくは闇魔法の複合魔法である幻影魔法。
私の性別を変える魔法は幻影魔法の応用だったから、あの術式をいじれば一時的に見た目を変えるくらいならできるはずだ。
はずだったんだけど・・・。
「え、でも、幻影魔法って・・・」
ラーニカの呟きと驚きの表情から、彼女を侮り過ぎていた事に気づく。
実用性も低くマイナーな魔法だから、知らないだろうと思っていたのに、勤勉な彼女はきっちりと幻影魔法についても知っていたらしい。
一般的に、光魔法は選ばれた者しか使えない。そして闇魔法は、魔族しか使えないとされている。
私が幻影魔法を使えると知ったら、ラーニカは、コーダンは、どう思うだろうか?
「俺が使えるんだよ、幻影魔法」
聞こえてきたのはディーナンの声だった。彼の方を見ると、いつも通りの軽薄そうな笑みを浮かべていた。
「はぁ?あんた冗談は・・・」
「冗談じゃない。俺、魔族だから」
「ぇ・・・」
「ディーナン!」
魔族であることは、秘密のはずだった。
魔王討伐前、魔族と人間は戦争をしていたせいで、その禍根は討伐後も残っている。
だから、多くの人間は、魔族に対して犯罪者のような言われのない嫌悪感を抱くものなのだ。
「リーアンは知ってたのか?」
ディーナンを睨みつけるようなコーダンの表情。
やっぱり彼も魔族は嫌いなのだろうか。じゃあ、私の事も・・・?
「勇者さまはとっくに気づいてたさ。当然だろ?」
コーダンの表情を見るのが辛かった。彼にそんなつもりがなかったとしても、私には辛かったのだ。
「リーアンに近づいた目的は何だ?」
「言っただろ、一目惚れしたから、だよ」
「信用ならねぇな」
「してもらおうと思ってないからね」
「もしかしてこの襲撃って、あんたが唆したんじゃないでしょうね」
「・・・さぁ、どうだろうね」
「お前!」
「待って!」
剣を抜こうとするコーダンの手を、掴んで止めた。
彼らの仲間でいるためには、言わないといけないことが、たくさんあった。けど、私が言わなくていいようにディーナンが庇ってくれたから。
だから、もう少しだけディーナンの優しさに甘えようと思った。
「ディーナンが魔族だってことは知ってた。でも、奴隷を解放したいのは僕の意思だよ」
もう少しだけ、理想の自分のままでいたいと思った。
「ディーナンもコーダンもラーニカも、みんな僕の信頼出来る仲間だ。だから、僕を信じてくれないか?」




