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勇者さまは女の子  作者: 三ツ陰 夕夜
3.貿易都市ソアラ

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23/57

(21)襲撃の前

 襲撃予定の2時間前。

 私は気配と魔力を完全に消して、とある建物に忍び込んでいた。

 もちろん1人だ。野生動物にもバレない完全な隠密行動だから、1人でなくてはならない。

 目的の部屋の近くで、来客が去るのを待つ。少しして部屋の主が1人きりになったのを確認してから、忍び込んだ。

「リクス知事」

 声をかけると、彼は弾かれたように書類から顔を上げた。

 こんな時間まで仕事をしているのだ、よっぽど激務なんだろうと思っていたが、目の下に刻まれたクマは彼が抱えているのが肉体的な疲労だけでないことを教えてくれた。

「誰だ」

 突然現れた不届き者に、冷静に答えながらもちゃんと剣に手をかけている。

 さすがは騎士の息子だ。デスクワークをしていてもちゃんと鍛えてはいるらしい。

「性別が変わっていて申し訳ないけれど、父がリーリン様にはお世話になっていると言えば分かるかしら?」

 リーアンの姿のままで、貴族としての完璧な礼を見せる。

 リクス知事に実際に会ったのは1度だけだ。けれど、礼儀正しい彼はちゃんと覚えてくれていたらしい。

 驚きの表情を浮かべながらも、剣を置いてくれたから。

「まさか・・・!ですが、なぜここに??」

「それは言えない。けど、お願いがあって来たんだ」

 こんな事をするのにお父様の名は使えない。だから、今の私は勇者ローレンの娘リーミアじゃない。

 ただの、ただのリーアンなんだ。

「この街では奴隷の売り買いをしてるよね?」

 リクス知事はコーダンみたいに難しい顔で俯く。それが大人としての正解とでも言うかのように。

「それについては何も言わない。けど、その代わり・・・」

 取り引きと言うより、脅しみたいな言い方だ。

 こんな事してるのをお父様が知ったら、寝込んでしまうかも。

「今夜、奴隷商が襲撃されるけど、できるだけ何もしないで」

 それだけ言えば、さすがに私が何をするか分かったらしい。

 リクス知事は眉間を抑えながら目を閉じて、俯いた。

「お父様へご報告します」

「いいよ、どうせ間に合わない」

「なぜ?そんな事を?」

「嫌なんだ」

 困惑した視線が飛んでくる。大人からすればただの子どもの駄々みたいな、そんなくだらないものなのだろう。

 けれど、私には譲れないものなんだ。

「嫌なことを嫌なままにしておきたくない。ただそれだけだよ」

 リクス知事の目を見つめていると、彼は唐突に視線を逸らしてため息をついた。

 その姿がどことなく嬉しそうだった。

「勝算はあるのですか?」

「うん」

 恐らく私1人じゃ襲撃はできても、奴隷を連れ出すのまでは無理だ。

 でも、1人ではない。

「ディーナンいるんだろ?」

 何も無い空間に声をかけると、空間が歪んで幻のようにディーナンが現れた。

 彼はきっとこうやって、今までも近くにいたのだろう。

 不可能な事はないとまで言われる魔族の魔法を使って。

「映像記録の魔具は全部壊しといたよ」

「・・・その魔法、魔族か」

「うん、僕の仲間だ」

 リクス知事のディーナンへ向ける眼差しは、好意的ではないにせよ悪意もなかった。

 やはり彼は大人として弁えてはいても、魔族が嫌いな訳ではなさそうだ。

「リクス知事あなたは何も知らなくていい。その代わり、僕の邪魔だけはしないでくれ」

「約束はしかねます」

「いいよ、あなたの事を信じてるから」

 玄関から、はさすがに無理なので、リクス知事の隣を横切って窓に手をかける。

「明日の午前中までです」

 背中に投げかけられた言葉に、やはり彼はいい人だと確信しつつ、夜の闇に身を投げた。



 襲撃予定の1時間前。

 1度宿屋に戻ってきた私を待ち受けていたのは、真剣な顔のコーダンとラーニカだった。

「あたしたちも手伝うわ」

 そう言うラーニカの隣でコーダンが静かに頷く。

 2人が手伝ってくれるのは、正直ありがたい。でも、冒険者である彼らは犯罪がバレた時のリスクも大きいはずだ。

 それを承知で覚悟を決めてくれたのか。私の、子どもみたいなわがままのために。

「分かった。じゃあ、君たちは脅されて無理やり従ったことにして」

 もし、大事になってしまったら、その時は全ての責任を私が背負おうと思っていた。

 それが、パーティリーダーとしての義務だと、そう思った。思っていたのに。

「嫌よ」

「舐めてもらっちゃ困る」

  私にとっては初めてのパーティメンバーで、でも、この2人にとって私は、たまたま声をかけてきただけの正体不明の子どもなだけのはずなのに。

 クエストの依頼なんかじゃない。これは、ただの犯罪行為のはずなのに。

「あたしたちは自分の意思でリーアンに従うの」

 力強い言葉に、涙が出そうになった。

 冒険者であるラーニカとコーダンが、私をパーティリーダーとして認めてくれているという事にもだけど、信頼して冒険者生命を預けてくれるというその事が、とてもとても嬉しかったから。

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