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勇者さまは女の子  作者: 三ツ陰 夕夜
3.貿易都市ソアラ

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(19)賑わいの裏側で

 コーダンに少し正体はバレたけど、旅は続けられそうだし、ラーニカは珍しい魔具を買えたらしく上機嫌だし、選んだ宿屋の晩ご飯はおいしいしで、不幸中の幸いとはいえソアラの街を満喫してしまった。

 夜が明けてもディーナンが帰ってこなかったけど、あいつはそのうちひょっこり姿を現すだろう。

 朝ご飯の、クリームたっぷりのパンケーキを頬張りながら、人通りを眺める。

 慣れてくると建物の外の席というのもいいものだ。

「リーアン、そっちの果物1個ちょーだい」

「いいよ、はい」

「んーおいしー!こっちのもあげる」

「ん!これ香りが凄いね」

「でしょ!もう1個いる?」

「さすがにそれは悪いよ」

「気にしないで、ほらあーん」

「ありがとう」

 ラーニカと2人で、スイーツのような朝ご飯を食べていると、今が冒険中だということを忘れてしまいそうになるくらいだ。

 勇者の称号を得た後も、彼女はこうして一緒に朝ご飯を食べてくれるだろうか?

 私の正体を知った後でも。

「どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

 止まっていた手を動かして、またふかふかの塊を口に入れる、

 せっかく美味しいものを食べているのだ、こんな時に暗いことを考えるのなんて勿体ない。

 思い切り美味しさを噛み締めながらいただかなければ・・・!



 朝ご飯を食べ終わってラーニカとティータイムを満喫していると、コーダンが帰ってきた。

「どうだった?」

 街を出る手続きをしに行っていたはずだが、なぜかコーダンは手ぶらだった。

 許可が出たら許可証を貰えるはずだというのに。

「明日になるそうだ」

「えー!」

 思わず不満の声を上げてしまう。

 ただ街を出るだけだ。なのに手続きに2日間もかかるなんて、あまりにも時間がかかりすぎじゃないか?

「ここはもうほぼ国だからな」

 言われて、改めて辺りを見渡すと、別の国の人や亜人も歩いていることに気づく。

 そういえば、この街は海沿いだから外国との取引もあるんだっけ?

 知事のリクスさんは、お父様のお友達の息子さんだ。彼には私も昔会った事があるけど、すごく真面目そうな人だったことだけは覚えている。

「関税の検査とかもあるんだっけ?」

「そうらしいな」

 さすがに冒険者であるラーニカは知っていたらしい。

 関税の検査か。と、なれば、街を出る手続きもほとんど出国手続きと変わらなくなってくる。

 時間がかかるのも仕方ないと言えば仕方ないが・・・。

「そこの塀超えちゃ駄目?」

 あんまりゆっくりしていると、魔王がお父様に討伐されてしまう恐れがあるのだ。極力無駄な時間は使いたくなかった。

「普通に犯罪だな」

「だよね」

 駄目元で聞いてみたがやっぱり駄目らしい。

 犯罪者の勇者なんてありえないし、あと1日くらいなら・・・待つしかないか。



 お昼ご飯はラーニカの提案で屋台で食べる事になった。

 食べ歩きなんて生まれて初めてだ。しかも最初で最後になるかもしれないし、満喫するためにたくさん買ってしまった。

 口の周りを汚しながら、両手に持った串に交互にかぶりつく。

 ものすごく美味しくて幸せだ。しかも、腕に下げた袋の中にはパンも餅も焼きパスタも甘いものだってある。

 食べきれなかったら?そりゃあ夜に食べるんだよ。

「あ、リーアンあれも美味しそうよ」

「ほんとだ!買ってくる!」

 海の軟体生物の姿焼き。変わった香りのソースが滴っていて、つい2つも買ってしまった。

「コーダンも食べる?」

「俺はいい」

「あたしひと口食べたい」

「いいよ、どうぞ」

 ラーニカの食費は私持ちだから、ついでにコーダンの分も払うって言ったのにまたしても断られてしまったのだ。

 頑固なコーダン。一緒に食べたら美味しいものももっと美味しいのに。

 両手の串焼きを食べ終わったので、ラーニカがかじった姿焼きを取り出す。

 大きな口でかぶりつこうとしたところで、違和感を感じた。

 魔力だ。変わった魔力。人とは違う、魔獣みたいだけどこんな街中に魔獣がいるわけないし・・・。

 かすかに漂ってくるのがどこからかを探すと、路地裏の方だった。

「リーアンどうしたの?」

「ちょっとあっち見に行ってくる」

「あ、待って」

 気になってしまったものは確認するしかない。人混みをぬって、通りから出る。

 大きな建物同士の間の路地裏は、暗くて少し下水のような匂いがしていた。

「おい待て」

 コーダンが追いついてきたけど、無視して路地裏に足を踏み入れた。

 そして、暗がりに慣れた私の目が捉えたのは、鎖で地面に繋がれた小さな魔獣の姿だった。

 一見猫にも見えるけど、耳が長く目が3つある。

 それに魔力を持っている。魔獣特有の紫色の魔力を。

「お坊ちゃん、魔獣をお探しで?」

 魔獣の隣に座り込んだ老人が粘着質な声で話しかけてきた。ギラギラした目が、気持ち悪い。

「道に迷っただけだ。行くぞ!」

 コーダンが代わりに答えて私の手を引いた。路地裏から出ると、一瞬で別世界のような賑わいが戻ってくる。

 と、同時に驚きからフリーズしていた思考が動き始める。

「・・・あれって」

「宿で話してやる」

 コーダンは、あれが何か知っているのか。

 人の街に出た魔獣は、駆除しないといけないはずなのに、あの老人はどう見ても魔獣を売っていた。

 その理由を、コーダンは知っているという事か。

「あ!リーアン急にいなくならないでよ」

 やっと合流できたラーニカに笑顔を向けたけど、さっきまでの食欲はもうなくなってしまっていた。

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