(16)馬車での移動
次の目的地は、貿易都市ソアラ。の、手前で西に曲がった先にあるサキット街だ。
と言っても、ソアラまでの距離は遠いし、サキット街へ直接連れて行ってくれる馬車もない。
仕方がないので、コーダンの提案でソアラまで行く馬車に乗せてもらうことにした。
貿易都市なだけあってソアラへ出入りするのは手続きが面倒くさいから、直前で下ろしてもらうことを条件についでに無償で護衛も引き受けようということになり、今は商隊の馬車の上。
ラーニカとディーナンは先頭の馬車にいて、僕とコーダンが最後尾。
あの2人を一緒にするのはちょっと心配だったけど、「大丈夫だろ」というコーダンの判断だった。
ガタガタと揺れる馬車の上で、やることは特にない。護衛業での一番の敵は退屈じゃないだろうか?
「コーダンはいつもこういう仕事をしてるの?」
「あー、ここ数年はそうだな」
「昔は違ったの?」
「魔王が討伐される前は魔獣討伐だったり、レベル上げの護衛が多かったかもな」
「討伐後は?」
「お前は知らないだろうが、意外と魔王討伐目指してた冒険者は多くてな。そいつらが魔獣討伐に流れ込んできた」
お父様の話で、自分以外にも魔王討伐を目指しているパーティがいたというのは聞いたことがあった。
大きな目的を失っても冒険者でい続ける限りは仕事をしなければならない。ギルドの依頼は数が限られているから、取り合いになってしまったということか。
「まぁ、大抵の冒険者はすぐにダンジョン攻略に舵を切ったから、そんなに混乱はしなかったがな」
「コーダンは?ダンジョンに行かなかったの?」
「俺はああいう血生臭いのは得意じゃねぇんだよ」
ダンジョン攻略と言えば聞こえはいいが、実際は私たちが下水道でやったようなことを何日も繰り返して、魔獣を素材として解体したり、魔獣の巣から物を奪ったりする、そんな暮らしだ。
Bランクにまでなったのに単価の安い護衛業をしているのにはそういう理由があったのか。
「なんかちょっと意外かも」
「そうか?」
「コーダンくらい強ければダンジョンでも重宝されそうなのにね」
実際、下水道でのコーダンの知識は役に立った。彼がいなかったら巣を見つけるのにももっと苦労しただろう。
「護衛業は良いぞ。色んな土地に行けるから飽きねぇし、仕事すれば感謝されるしな」
「色んなところに行けるのは確かに楽しそう」
「あとはあれだ。誰も殺さなくて済む」
いきなり真剣な声を出すコーダンの目は、ここではないどこかを見ているようだった。
何かを思い出しているんだろうか。でも無遠慮に踏み込むには、まだ彼との間に距離があり過ぎるような気もした。
目を閉じて、再び開いた時にはもうコーダンは私を見ていた。少しだけ、哀しそうな顔で。
「お前も、勇者じゃなく護衛業の方が向いてるんじゃないか」
馬車に揺られること5日間。
少し急ぎという事で、馬車は夜の間も走り続けた。
夜は魔獣が出ることがあるが野党は出ない。魔獣であれば魔力探知の魔具で検知できるという事で、夜は荷台で寝ても良いと言われていて、だからこの日も寝ていた。
油断してたんだと思う、喧騒が聞こえてくるまで起きれない程度には。
「ここ・・・は?」
「ソアラの街だろうね」
「え、ディーナン起きてたの」
「ついさっきだけどね」
街道とは違い街中は道路も舗装されていて、馬車の揺れも少ない。
貿易都市の名の通り沢山の商隊が行き交う風景は、いかに遠くまで来たのかと思うほどで・・・・って、違う!
「え、ソアラの手前で下りるって話だったよね?」
話が違う!ディーナンだってちゃんと知ってたはずなのに、なんでそんなとぼけた顔で肩をすくめるのか・・・!
今私たちが乗っているのは最後尾。先頭にいるはずのコーダンとラーニカは気づいているだろうか?
でも、走っている馬車から飛び降りるなんて出来ないから、止まってくれるまで待つしかない。
もう街に入ってしまったなら、あーだこーだ言ったところでどうしようもないし・・・ね。
「あ、勇者さま、後であの店行かない?」
こいつもそう思ってるのか、それとも何も考えていないだけか。
冷静に街を見渡すディーナンに呆れつつ、私はふて寝の2度寝をすることにしたのだった。




