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勇者さまは女の子  作者: 三ツ陰 夕夜
2.勇者としての素質

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(14)初めてのゴブリン退治

 ラーニカの方を見ると、頷いて詠唱を始めてくれた。

 詠唱が完了するまでおそらくあと5秒。

 コーダンを見て頷くと、頷き返してくれる。

 呼吸を合わせて、同時に影から飛び出した。

 ゴブリンたちが気づく直前にラーニカの炎魔法が発動し、とてつもない熱の塊が展開される。

 熱が体に届く直前に、自分とコーダンの周りに炎の反転魔法を発動させた。

 溶鉱炉の中の様な激しい炎の中を一気に駆け抜ける。反転魔法のお陰で全く熱くはなかった。

 ただのゴブリンたちはこの炎のお陰で苦痛も感じず灰になっているのだろう。私の獲物のゴブリンマージは・・・いた。この魔力は、反射的に土魔法で防いだようだ。

 ラーニカの炎が掻き消えると、クリアになった視界の目の前に土壁が見える。

 その脇から顔を出したゴブリンマージ。その首を、風魔法を乗せた剣で切断した。

 転がっていくゴブリンの首。術者が死んだことで崩れる土壁。

 予定通りゴブリンマージは倒せた。

 視線を左に移すと、床に倒れるゴブリンリーダーの姿が見える。その上に乗り無傷で剣を突き立てているコーダンの姿も。

 後ろを振り返ると、何もない広場に火傷一つしていない女性3人が見えた。

 何が起こったか分かっていない様子の彼女たちに、ゆっくりと歩み寄る。

 近づくと、彼女たちがどんな仕打ちを受けていたかが良く分かった。

 でもそれに気づいていないふりで笑顔を作る。今彼女たちに必要なのは憐れみではなく希望だと思うから。

「僕はリーアン。ゴブリンは全て倒したから、もう大丈夫だよ」



 下水道から出て、人質だった女性たちを街の護衛へ引き渡し、広場のベンチに腰掛けるとやっと一息つくことができた。

 疲れた。主に精神的に。

 平和な田舎のお屋敷の中で、しかもお父様とお母様の目の届く範囲内でのうのうと暮らして来た私にとって、冒険と言えば勇者ローレンの華々しい冒険譚が全てだった。

 お父様は「倒した」とは言っても「殺した」とは言わなかった。

 お母様は「酷い目にあっていた人質」とは言っても「嬲られていた人質」とは言わなかった。

 図書館の本には、魔獣の生態は書かれていても、その首を刎ねた時の感触は書かれていなかった。

 これが、本当の冒険だ。

 だからお父様とお母様は止めたのだろう。だから、教会の人は私の本当の魔力を隠したのだろう。

 雲一つない空。見上げる私の視界の隅に、黒い影がちらついた。

「一人にしてって言ったじゃん」

「言われたけど、承服はしてない」

 悪びれなく言うと、ディーナンはベンチの逆の端に腰掛けた。

 距離を取ってくれるのは一応配慮してくれているのだろう。

 ラーニカとコーダンは冒険者ギルドへ報告があるだろうからしばらくは帰ってこないし、まぁ、ディーナンならいいか。

「ねぇ」

「なに?」

「魔獣を殺したくない勇者ってどう思う?」

「変わり者だなーって思う」

「だよね」

 否定も肯定もしない率直な意見に、思わず苦笑してしまう。

 魔獣は害獣だ。人間の土地においては、見つけ次第駆除するのが当たり前なのだ。

 なのに、それに抵抗感があるなんて、人には言えない。

 誰もが正しいと思う行いに疑問を抱くなんて、そんなの変だから。

「じゃあ逆に勇者さまに聞くけど」

「何?」

「魔力至上主義に反対の魔族ってどう思う?」

 聞き終えてから、思わずディーナンを見た。

 相変わらずの軽薄な笑み。でも、黒い瞳は静かに凪いでいた。

 魔族は、魔力の満ちた土地に生きる、人の様な見た目の生き物だ。

 辺りの魔力を取り込んで自分の物として使うことができ、人より何十倍も強大な魔法を使うことができる。彼らにとって扱える魔力量はそのまま強さを表していて、扱える魔力量で上下関係が決まる。

 だからこそ「魔力至上主義」と呼ばれていたし、「魔力至上主義」という言葉はそのまま魔族の事を示していた時代もあった。

 勇者ローレンが魔王を倒した後、魔族に自治が認められた際に野蛮とされる「魔力至上主義」は表向き廃止された。

 廃止されても、思想を無理やり変える事はできない。だから魔族の意識の中の「魔力至上主義」を消すことはできないだろうと、お父様も言っていた。

 なのに、反対?

 魔族のはずのディーナンは、魔族なのに「魔力至上主義」に反対なの?

「それって」

 そこまで口にしてから、ディーナンの言いたいことに気づいた。

 一度口を閉じて、表情を作り直す。

 ディーナンの様な普段通りの自然体の笑顔に。

「変わり者だなーって思う」

「だよね」

 彼の返事を真似た私に、私の返事を真似た彼が答えて、それが面白くて笑ってしまった。

 ディーナンは変わり者でよく分からないやつだけど、こうやって慰めてくれるくらいにはいいやつなんだと、そう思った。

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