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勇者さまは女の子  作者: 三ツ陰 夕夜
2.勇者としての素質

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(11)ビッグラット退治

「でもその噂どこで聞いたの?」

 石像からディーナンに視線を移す。

 朝日の中でも闇を蓄えた黒い瞳には、確かに私が映っていた。

「それを知ってるのって国の重役と彼の家族くらいなんだけど?」

 ディーナンの口元がニッと歪む。まるで「よく分かりました」と言わんばかりだ。

「あとは」

「魔族、だろ?」

 神と対になるとも言われる魔族は、『祝福』を本能的に嫌う。嫌うがゆえに、見分ける方法を熟知していると、母様が言っていた。

「ディーナンは魔族なの?」

 私も母様に褒められるくらい魔力を視る目は鍛えていたから、色んな人の魔力を視てきた。けれど、ディーナンの魔力の色はこれまで視た誰とも比較ができないくらい複雑に入り交じっていた。

 黒目だからと言われれば、そうかもしれないと思ったが、ディーナンの『祝福』発言はあまりにも不自然過ぎたのだ。

「どうかな?」

 はぐらかすように言いはしたけど、これはもう肯定だ。

 だって普通の人に「魔族なの?」なんて言ったら、それは酷い侮辱になる。こんな風に余裕でいられるのは本物の魔族だけだ。

「俺には勇者さまの魔力の方が魔族に相応しく見えるけど」

 これは、侮辱だ。でも、事実でもあった。

 とても哀しい、事実だった。

 「ごめん」とディーナンが慌てるほどに、私は酷い顔をしてしまっていたらしい。

 自分の中ではとっくに受け入れていたつもりでも、他人から言われるのは、やはり少しだけ堪えた。

「いいよ、本当のことだから」

 作り笑いを浮かべて、また父様の勇姿に向き直る。

 勇者になりたい。

 父様のような勇者に。

 そうすれば、きっと私も、生まれ持った瞳の色のままに生きられるから。



 ラーニカがギルドで受けて来た依頼は、下水道のビッグラットの駆除だった。

 威力が強い反面コントロールが難しい炎魔法は、使用場所を選ぶ。下水道であれば辺りを焼き尽くしても問題ないから、うってつけということだ。

 他の冒険者がやりたがらないのは、やはり匂いのせいだろう。でも、私の風魔法を使えば悪臭なんて簡単に吹き飛ばせるし、流れている汚水に落ちさえしなければ全く問題ない。

 ビッグラットは、名前の通り大きなネズミ。

 コーダン曰く、元はダンジョンにいた魔獣だが、幼体の時に冒険者の荷物に紛れて街の下水道に入り込み、繁殖してしまう事があるらしい。

 猫くらいの大きさになるネズミなので、幼体もさぞかし大きいだろうが、荷物に紛れても気づかれないものなのだろうか?

 まぁ、そんな事を考え始めてもキリがないので、そこは一旦忘れておく。

 知能の低い魔獣は探すのも大変だ。下水道の地図を片手に、ビッグラットの巣になりそうなところを片っ端から確認していくことになった。



 ビッグラットがいるかどうかは、水質や生体反応を確認して判断し、基準値を超えるとギルドに依頼を出すらしい。

 だから、冒険者が実際に見に来るまで本当にビッグラットがいるかどうかは分からないのだ。

「ここにもいないわね」

「おかしいな」

 ラーニカとコーダンが難しい顔で呟く。

 ビッグラットが巣を作るのに最適そうな5箇所のうち4箇所目を確認しても、どこにも巣があった形跡すらなかったのだ。

 依頼が来るからには、ある程度の数繁殖しているはずだ。残り1箇所だけに大量に湧いたとは考えにくい。

「依頼自体が間違いとか?」

「それはねぇな。あっちも依頼料を払うんだ、無駄金にならないように確認はしてるはずだ」

 確かに、いないのに依頼を出してしまったら、「駆除しました」と嘘をつかれてしまうかもしれない。

 何かしらの魔法で確認しているんだとしたら、何かしらは繁殖しているのだろう。ビッグラットじゃない生き物で下水道で繁殖できるのっていたっけか?

「いちお、最後の1箇所も見ましょうか」

 そう言って歩き出したラーニカの背中を追う。コーダンとディーナンは背後を任せてあるので、私が前方を守らなければなのだ。

 入り組んだ下水道を15分も歩けば、最後の1箇所が見えてくる。

 遠目に見ても明らかにビッグラットはいない。けど、形跡だけでもないか確認するために近づいて、足を下ろした瞬間、床から魔力が放たれるのが見えた。

 トラップ魔法だ。動けないラーニカを反射的につき飛ばすことできたが、油断していたせいで私は捕まってしまう。

 泥でできた網が体に巻きついて、強く締め上げた。最悪だ。無詠唱で使える風は土と相性が悪すぎる。

 体を締めあげられていては、水魔法も詠唱できない。

 体が軋み、口から空気が漏れる。自分の無力さに絶体絶命にも感じた。

 でも、崩れ落ちそうになる体を支えるしか出来なかった私の耳に聞こえてきたのは、伸びやかに歌うような詠唱だった。

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